夫婦カウンセラーとしてこれまで4000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えする「夫婦リカバリー相談室」。

シリーズ「夫婦健康診断」では、夫婦問題の予防や早期発見のために必要な向き合い方や考え方を安東先生が紹介・解説。今回は良好な夫婦関係に必要な「境界線」についてお届けします。

近づきすぎに注意、夫婦関係をこじらせる共感の罠

「夫がイライラしているとなんだか責められているように感じてしまう」
「子どもを叱る妻に、自分も怒られているような気持ちになって辛い」

良好な夫婦関係に「共感」が欠かせないというのはよく言われることですが、実は過度な共感は、夫婦仲をこじらせる原因になる場合があります。

ここで大切なのは、パートナーとの間に適切な「境界線」が引かれていること。

互いを尊重する上で欠かせない「境界線」は、波のように夫婦の関係を揺さぶる「感情」から私たちを守る、防波堤のような役割を担ってくれます。

今回は、適切な境界線がなぜ必要なのか曖昧なままだと何が起きるのか、そして境界線を保ちながらどう共感していくのか。この3つの側面から見ていきます。

1.境界線があるからこそ、安心して寄り添える

境界線を引くというと、「相手を突き放すこと」のように思うかもしれません。特に高い共感力を持つ人は、無関心になることを勧められているようで抵抗を覚えることもあるでしょう。

しかし、境界線を引くことと「無関心」は全く別物です。適切な境界線は、お互いが自立しながらも支え合える関係を築くための、欠かせない土台となります。

感情は大きな波のように、私たちの心を揺さぶります。とりわけ夫婦のように近しい間柄では、相手の機嫌や言動がダイレクトに影響を及ぼすものです。

心身の状態を他者の感情に委ねてしまうことほど、不安定な状態はありません。

大切なのは、相手の感情と自分の感情をきちんと切り分けておくことです。不機嫌はその人の問題であって自分に責任はないし、私の感情は私自身のもの。

そんな風に認識しておくことで、相手の感情に飲み込まれずにいられます。相手の痛みを自分の痛みとして引き取る必要はないのです。

適切な境界線は、長期的な夫婦の安定をもたらす重要な要因となります。

2.境界線が曖昧な夫婦には何が起きるのか

では、この境界線が崩れてしまうとどうなるのでしょうか。

まず挙げられるのは、相手の不機嫌を「自分の責任」のように引き取ってしまうことです。

感情はそれを感じている側の所有物であり、どう扱うかはその人の責任です。本来引き受ける必要のない責任を背負い続けることで、心のゆとりは少しずつ削られ、いずれ枯渇してしまいます。

また、自分の考えを相手に押し付けてしまったり、逆に相手の価値観を唯一の「正しい基準」として自分を失ってしまうこともあるかもしれません。

曖昧な境界線は、夫婦の間に少しずつすれ違いや乖離を生み、結果としてふたりの関係を疲弊させ、次第に機能不全へ追いやる要因にもなりかねません。

3.境界線の「手前」で共感するという選択

では、境界線を守りながら、どう相手を大切に想い続けることができるのでしょうか。ここでは「境界線の手前で共感する」という感覚を持ってみることが助けになります。

相手の感情の荒波に飛び込み、同じ場所で溺れてしまうのが「過ぎた共感」だとすれば、境界線の手前で共感するというのは、「安全な岸辺から相手の波を見守る」ようなイメージです。...