夫婦喧嘩となる原因は、日々の生活にあふれる「些細な出来事」から「不倫やセックスレス」などの生々しい問題まで多岐にわたります。
その背景には「態度や言葉遣いといったコミュニケーション」「価値観の違い」「感情のわだかまり」が大きく潜んでいますが、これらに加え「発達障害の特性」が影響していることも。
夫婦コミュニケーションにおける発達障害にまつわる悩みや疑問、問題の捉え方、適切なアプローチ、関係改善に役立つ知識を夫婦カウンセラーの安東美紀子先生がお答えしていきます。
※2022年に発効された世界保健機関(WHO)の疾病国際分類ICD-11では、発達障害は「神経発達症」と表記されます。「障害」という言葉が与えうるデメリット等を考慮して日本でも神経発達症とする流れになりつつありますが、お困りごとを抱えているご夫婦に届きやすいように、本稿では当面「発達障害」として解説します。
“特性理解”が関係悪化につながるわけ
発達障害(ASD・ADHD)の特性が夫婦関係や日常生活で表面化しやすいことや、それに伴うトラブルの例を夫婦カウンセリングの現場でお話しすると、多くのご夫婦が「そっか、悪気があったわけじゃないんだ」「脳の仕組みの違いだったんだ」と、納得感や安堵の感情を見せられます。
長年抱えてきた“なぜ分かってくれないのか”という謎が少しずつ解けていき、お互いを責め合う苦しいループから抜け出す第一歩になります。その意味でも、この「知る」プロセスは欠かせません。
しかし、このプロセスは少しデリケートです。
特性への理解が夫婦の絆を深めることもあれば、逆に関係性をこじらせてしまうこともあります。その分岐点は「特性だと分かった、その後」にもあるのです。
「特性なんだから、できないのは仕方ないでしょ」
「無理無理、特性なんだ」
この言葉が免罪符として使われ、どちらかが「開き直り」のフェーズに入ってしまったとき、夫婦の絆は音を立てて崩れ始めることがあります。
今回は、特性を理解した後に陥りがちな「開き直りの罠」と、そこから抜け出すための歩み寄りについて、お話ししたいと思います。

パートナーを襲う、絶望と燃え尽き
特性を受け入れようと本を読んだり、日々工夫を重ねたりしながら、懸命に歩み寄ってきたパートナーほど、「仕方ない」と開き直られたときのショックは大きいものです。
「片付けられないのはADHDだから仕方ない」
「空気が読めないのはASDだから、察してほしいと言われても無理」
これらは、特性という観点から見れば事実なのかもしれません。しかし、家庭という親密であり、これからも長く続いていく日常において、これを正面から突きつけられると、言われた側はあまりにも落胆してしまいます。そして、「私の困りごとや寂しさは、この先一生、受け入れてもらえないのだろうか」と言い難い孤独を感じるのです。
「できないこと」そのものではなく、「工夫しようとしない態度」や「相手に負担をかけていることへの配慮のなさ」が、パートナーの心を深く傷つけてしまいます。
こうした状態が続くと、やがてパートナー側は怒るエネルギーさえ失い、ある日突然、「あきらめ」の領域に入ります。会話をしなくなったり、期待しなくなったり、不機嫌なまま距離を置いたりするようになるのです。もちろん、スキンシップやセックスには気持ちが向きません。この段階に至ってからカウンセリングに来られるケースも少なくありません。
なぜ「開き直り」の態度をとってしまうのか?
ではなぜ、防衛的ともいえる「開き直り」の態度をとってしまうのでしょうか。その裏には、当事者なりの深い苦悩が隠れていることも少なくありません。
ひとつは、「これ以上、責められたくない」という自己防衛です。 それまでの人生で「なぜみんなと同じようにできないのか」「努力が足りない」と叱責され続けてきた人にとって、「特性」という診断や知識は、自分を守るための盾になります。そのため、パートナーから少しでも不満を言われると、「また責められた」と脳が危機を察知し、「だって仕方ないじゃない!」と強い口調で盾を構えてしまうのです。
もうひとつ背景にあるのが、「学習性無力感」です。 「どうせ頑張って工夫したって、普通の人のようにはできない」という過去の失敗体験が積み重なった結果、「できない」と最初からシャッターを下ろしてしまうことで、これ以上傷つくのを避けようとしている場合もあります。
「特性だから仕方ない」を「じゃあどうする?」に変えるヒント
お互いが傷つき、疲れ果ててしまう前に、この「開き直りの罠」から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。そのために大切なのは、「特性は『理由』であって、『ゴール(結論)』ではない」という共通認識を持つことです。
特性を知ることは大切ですが、「だから仕方ない」で思考を止めてしまえば、夫婦関係は前に進めなくなってしまいます。大事なのは、「じゃあ、どう工夫していくか」をふたりで考えていくことなのだと思います。
お互いの立場からできる、具体的なアプローチを整理してみましょう。

