ブンデスリーガ古豪のキャプテンからリバプールの3番へ――。

 世界のサッカーファンを驚かせた遠藤航の電撃移籍。30歳にしてプレミアリーグのトップクラブに請われた男は、なぜ今なお成長を続けられるのか。

 その哲学を、遠藤航の著書『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』の「おわりに」よりご紹介する。 

 

遠藤航・著

「日本人らしさ」を覆し、世界を驚かせた男。
――強い日本人選手、誕生の裏側。

【内容】
4年前試合に出ることができずロシアW杯を去った男は、たった4年間で日本代表に欠かせないドイツでNO.1の男へと成長を遂げた。そこにあった秘密とは?「日本人はフィジカルで世界に勝てない」「ドイツ語を話せない日本人が主将を?」…常識を次々と覆した遠藤航がはじめて明かす日本が世界で勝つ思考のヒント。

 

おわりに

 この本を作っている最中にも、いろんな出来事があって、その度に学ぶことが多くあった。例えば、紹介しているシュツットガルトの監督、マタラッツォが解任された。

 シュツットガルトにレンタル移籍した2019年の12月からともに戦い、ブンデス1部昇格、ヨーロッパリーグ出場権争い、そして苦しい残留争いをともに経験した。

 解任された理由は、今シーズン(2022―23)の不振が理由になる。キャプテンとして責任を感じるし、申し訳ない思いがある。

 戦術家として優れ、そして日本が大好きだった彼から学んだことは多い。

 マタラツォは僕を信頼してくれていたと思うし、僕も信頼していた。

 そんな彼に一度、「航はまだ、俺から学ぶ意欲があるのか?」と言われたことがあった。 

 彼の目には、僕のプレーが「監督である自分の指示と違う」ものに映っていたようだった。そしてそれに不満を持っている様子だった。

 僕としては、いつだって勝利を高めるために必要な判断をしていた。そしてそのほとんどは彼から学んだものだ。

「もちろん、あります」

 僕はそう答えた。

 実際、まだまだ学びたいことはたくさんあったし、チームを強くしたいと思っていた。僕自身は、「もっと強度の高い練習をしたい」と伝えた。書いてきたように、若手選手たちにはもっと自分が成長するためにチャレンジしてほしかったし、その環境を作ってほしいという思いがあった。 

 彼からすれば、僕の行動に疑問があったのだと思う。 

 信頼関係はある。だけど、こうやって「ぶつかっている」ように見えることも起きる。 

 監督と選手の関係、人と人との関係に「正解はない」ことを改めて感じた。

 マタラッツォとはぜひまた一緒にサッカーがしたい。 

 家族の間ではルービックキューブが流行った。

 息子の学校でみんなが持ち寄っているらしく、それを一緒にやっていたら一家で挑戦合戦が始まった。

 面白いな、と思ったことがふたつある。

 ひとつは完成までのアプローチだ。

 息子は感覚でそれを目指し、僕は理屈で完成させようとした。

 僕が考えたのは、ルービックキューブの9個のマスの真ん中は「絶対に動かない」ということだ。ということは、ここの色は変わらない。

 次に、ルービックキューブを完成させている人たちの「動画」があったことを思い出した。その人たちは目隠しをしながらほんの数秒で完成をさせていた。あのときは「すごいな、この人たち」くらいにしか感じていなかったけど、いざ自分がそれをやるとなると、ヒントがあることに思い至った。

 目隠ししてできるということは、「こう動かしたら、こうなる」という動かし方のパターンがあるということだ。だから、パターンを考えた。

 そうすると、少しずつ完成までの道が見えてくる。

 最終的に、自力でたどり着いたのは外側のマスを全部揃えるところまで。ここは息子と互角だった。

 もうひとつ面白かったのは、そのあと。 

 実はルービックキューブの攻略本があるらしく、息子が友人からそれを借りてきた。僕はそれを読んで完成させることができるようになった。でも、息子には難しかったらしい。

 読んでいて思ったのは、算数の教科書だな、ということ。「こうなったらこうなる」「次はこうする」というのが決まっていて、それを覚えることさえできれば、「見なくても」できるようになる。

 ただ、「算数的な見方」でその本を読まないと、いつまでたってもその内容は頭に入ってこない。覚えることが難しい、というのは確かだけど、そもそも「どういう前提を持って」覚えようとしているか――息子は感覚で、僕はパターンがあると思って――で差がついたわけだ。

 ちなみにパターンはめちゃくちゃたくさんある。興味がある人はぜひ、一度読んでみてほしい。とても面白いから。 

 どんなことにも「正解はない」。だから、最適解を探し続ける。

 そのときに、「そもそもなんでこうなったんだ?」と考えることが役に立つ。表面的なことを学ぶのはそのあとだ。

 サッカーをしていて、1対1で勝とうと思ったとき「その代表的な選手」のプレーを見て、こうすればいいのか、と真似るのではなく、その選手は「なぜそうしたのか」を考える。

 これだけで理解もその習得も一気に早まると思っている。 

 マタラッツォはなぜ、あんなことを僕に言ったのか。

 ルービックキューブはなぜ目隠しをしてもできるのか。

 正解はないと思って物事を見れば、そんな疑問を持つことができるようになるはずだ。そこから見つけ出した「最適解」はきっと、あんまり外れない、と感じている。

 最後に、この本は僕の視点から見たサッカーであり、デュエルであり、日本代表である。僕が言っていることが「正解」ではない。同じ出来事をまったく違った見方で捉えている選手もいるかもしれない。

 でも、それでいいと思っている。

 いろんな人の見方、考え方があって、物事は人の目に映り、伝わる。

 人生で学ぶべきものはその「映ったもの、伝わったもの」だけではなく、その「見方、考え方」にもあるはずだ。

 「最適解」を見つけるために、そういう姿勢を忘れず学び続けたいと思うし、その結果としてもっといい選手になれたらいいな、と思っている。

 こんな僕の考えが、読んだみなさんの参考になっていればうれしい。

[本の詳細はこちら👉『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』

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