強豪・オランダに劇的な引き分けを演じ、鬼門だった第2戦のチュニジアには4対0の完勝。日本代表の強さは世界を驚かせている。
「ワールドカップ優勝」を目指す。その目線を統一したのが今大会開幕前に離脱した前主将の遠藤航だった。
チームを離れても「日本代表の優勝」を願い信じ続ける前主将、遠藤はどうすれば「日本代表がワールドカップで優勝できるか」を考え続けた。
そして、その過程を話題の新刊『STEP』(遠藤航・著)に綴っている。「リアルな思考の過程が知れる貴重な一冊」と評される本書より「強さの理由」を紹介する。

ワールドカップ優勝への目標3「主体的なサッカーをする」
キャプテンに就任してから半年(2023年の後半)の、日本代表の結果はこれ以上ないものだった。
ここから書くことは、僕から見た日本代表のステップになる。あくまで僕が抱いていた「日本代表でワールドカップ優勝」という「夢」を、逆算して「目標」設定していったとき、その小さな積み重ねがどう見えていたか、ということなので、その点だけご承知いただけると幸いである(表現が「僕がコントロールしていた」というような印象を与えてしまったら本意ではないので)。
6月シリーズはホームのエルサルバドル戦が6対0、ペルー戦が4対1。9月シリーズのアウェイ・ヨーロッパ遠征ではドイツに4対1、トルコに4対2。ワールドカップ予選直前の10月シリーズはカナダ、チュニジアに4対1、2対0といずれも複数得点を記録し、北中米ワールドカップアジア2次予選はミャンマーとシリアに5対0。
最高の形で締めくくられた2023年を振り返ると、6月シリーズが終わり月のヨーロッパ遠征あたりには「日本代表の目線を揃える」という「目標」は達成されていたように思う。
目の前の小さな課題にコツコツと向き合っていると、ふと「あれ、ちょっと上の課題(目標)にも手が届きそうだな」と感じるときが来る。僕はそれが目標達成の瞬間だと捉えていた。
その点、毎回、選ばれた選手たちは高い意識を持ち、チームにはたとえ勝ったとしても慢心しない雰囲気があった。選手のポテンシャルはもちろんのこと、練習でのやり取り、ロッカールームでの会話、会見での言葉……。
その内容は「日本代表がワールドカップで目指すべき目標」という大きな話から、徐々に「そのために日本代表はどんなサッカーをするべきか」という各論について意見交換をする時間が増えるようになる。
特に、9月シリーズくらいからは「戦い方」の話がどんどん増えていった気がする。
じゃあ、それは具体的にどういうサッカーなのか。
個人的に「こうじゃないか?」という感覚があった。
「主体的に戦う」ということだ。
カタール・ワールドカップでは、手応えとともに課題もはっきりと感じていた。
主導権である。
ドイツ(2対1)、スペイン(2対1)、クロアチア(1対1)。あの3試合は間違いなく日本の長所が生きた。攻められても忍耐強く全員でゴールを守る。相手が起こした攻撃──アクションに対してリアクションをする日本代表という時間がほとんどだった中で強豪国の攻撃を守り切れたこと、加えて少ない時間であっても勇気を持ってアクションを起こし得点できたことは自信になった。
でも、ワールドカップで優勝するのであれば、リアクションの時間を減らしアクションの時間を増やさなければいけない。あの3試合はつねに相手に主導権があったとも言えた。
その共通認識はみんなにあった。カタール・ワールドカップ後、森保さんもことあるごとに「主体的」「主体」という言葉を口にしていたし、選手たちも「主導権を握れるように」「ボールを持てるようにしたい」と言った。メディアや識者の論調も同じだった。
取材では「(勝ったけれど)ボール支配率はドイツ戦が22%、スペイン戦は14%という事実について改善が必要では」といった質問をされることも多かった。
では、主導権を持つサッカーはどんな「戦い方」なのか。
サッカー界でよく言われるのが「ボール保持の時間を長くし、攻撃で常に相手を圧倒するようなサッカー」だ。点を取らないと勝利がないサッカーだから攻撃の時間が長いほど相手に脅威を与え続けられるし、守備の時間も減る。それは多くの場合、ボールを自分たちで保持し続けることでコントロールができる。理想的な形のひとつだ。
もちろんそれは簡単ではない。
選手は高い技術を要求されるし、連携を作り出し、課題に対して修正を重ねるためにはある程度の時間が必要だ。シーズンを通して同じメンバーで、長い時間をともにできるクラブチームならまだしも、代表は(何度も書いている通り)毎回選ばれたメンバーで戦い、集まれる機会も年に数回だ。そもそもそのクラブチームであっても理想的なサッカーを結果にまで結び付けられているのは、わずかなビッグクラブだけだろう。
それを目指すことが日本代表にとって最適だろうか。
主導権を持つ方法はそれしかないのだろうか。
ワールドカップ優勝のために、今の日本が、最も勝つ確率を高められる戦い方とは……。
輪郭を表したのが「主体的に戦う」というものだった。
キャプテンになってから、記者の方から「日本代表としてどんな戦い方をしたいか?」と質問される機会が格段に増えた。そして僕はいつも「それを決める必要はないと思っています」と答えてきた。きょとんとされたこともある。肩透かしをくらったのか、伝わっていなかったのか。確かに○○スタイル! みたいな、わかりやすく、ワクワク感が生まれる答えではない。一度、カメレオン的な……という表現をしたこともあったけど芯を食った感じはなかった(笑)。
決める必要がないというのは、何も目指していないということではない。「相手に応じて戦い方を変える」と言えばかなりイメージに近いけど重要なポイントが抜けている。
僕が言いたかったのは、「戦い方を決める=いつも同じことをする、その上でその質を上げる」という印象があるけど、そうではなくて「この相手、あるいはこの時間帯はこう戦おうと、常に自分たちで選択していくサッカーを目指す」ということだった。
ある対戦相手や試合展開によってはボールを保持し、どんどん前からボールを奪いに行く。けれど、別の対戦相手や試合展開によっては(それこそカタール・ワールドカップのドイツやスペイン戦のように)最終ラインに5人の守備陣を並べ、しっかりと守り抜く。
常に、戦い方を自分たちで選んでいく「主体的な戦い方」。
日本代表のメンバーを見たとき、それができるだけのポテンシャルがあると思った。(三笘)薫や(伊東)純也のようなスピードがあり、個人で突破ができるアタッカーがいれば、タケやリツのような連携を駆使してフィニッシュにまで持っていけるアタッカーもいる。
僕のポジションがわかりやすい。おそらくみなさんが抱いているだろう(笑)ゴリゴリの守備者のイメージがある僕のようなタイプのボランチがいれば、モリやアオ(田中碧)のように技術に長け攻撃で違いを生み出すことに長所を持つタイプのボランチもいる。
選手を「戦い方」に合わせるのでなく、選手に「戦い方」を合わせる。そうすることで「主体的に戦う」ことができるのではないか。
僕の「夢」への次なるステップが定まった瞬間だった。
