遠藤航・著

「日本人らしさ」を覆し、世界を驚かせた男。
――強い日本人選手、誕生の裏側。

【内容】
4年前試合に出ることができずロシアW杯を去った男は、たった4年間で日本代表に欠かせないドイツでNO.1の男へと成長を遂げた。そこにあった秘密とは?「日本人はフィジカルで世界に勝てない」「ドイツ語を話せない日本人が主将を?」…常識を次々と覆した遠藤航がはじめて明かす日本が世界で勝つ思考のヒント。


カタールワールドカップが開幕する。ドイツ、コスタリカ、スペインと戦う日本代表・森保ジャパンのなかで重要な役割を果たすのが遠藤航だ。ブンデスリーガで2年連続デュエル勝利数1位に輝いた遠藤のその哲学、そして日本サッカー論を記した新刊『DUEL』の「はじめに」を公開。

 はじめ

 僕には子どもが4人いる。

 一番下の子はいま3歳なので、僕にとっては4回目の「3歳児の子育て」中だ。はじめて「父親」になったのが20歳のときだから、「父親歴」はまあまああるほうだ。

 加えて、仕事であるサッカー選手は、平日に練習があるけど、午前で終わることも多く、子育て時間は一日の半分近くあって、さらにいえば、歳の離れた妹がいる僕は、小さいころからおむつ替えをやっていたし、なんとなく「子どもの面倒を見る」ことに慣れていた。

 若くして父親になったとき、「自分ならできる」という妙な自信を持っていたくらい。

 だけど……いまでもふとしたときに思う。……子育ては難しい。

 例えば〝言われたことをすぐやらなかったりする〟とつい怒ってしまう。あとで「ああ、もう少し優しく言えばよかったかな」と振り返って、「よし、もう怒らない」と心に決める。で、その数時間後にはまた怒っている。

 またやってしまった……と反省する。

 はたまた、昨日は「これをやりたい!」と言って楽しそうにしていたから、今日も「それ」を勧めると「やりたくない!」と駄々をこねる。

 なんで!?苦笑いがつい出てしまう。

 4人の子どもと一緒に生活をし、奥さんと試行錯誤をしながらの日々。

 子育ては何度やっても難しいもんだな、と感じていたとき、ほかの「お父さん・お母さん」の話を聞く機会があった。

 それは、僕が毎月配信している『月刊・遠藤航』というコンテンツの中でのこと。

「サッカー選手・遠藤航」ではなく「父親・遠藤航」としての日々や、そこで考えていることを話すのがテーマだった。

 参加してくれているみなさんから質問をもらったのだけど、その質問の内容が「あー、わかる!」「うちもそうだ」「むしろそのやり方、みんなに聞きたい!」と思うことばっかりだったのだ。

 なるほど、みんな同じように感じているのか。

 ちょっとした発見だった。

「子育て」というと、自分が知らない「正解」や、すごい人が見えないところでやっている「秘訣」みたいなものがあるはずだ──漠然とそんなことを思っていた。

 かくいう僕は「ほかの人がどうしているか」ということがほとんど気にならないタイプなんだけど、こと「子育て」に関しては、「正解」「秘訣みたいなもの」があるなら、知りたいと思っていた。

 きっと、同じように考えている人も多いんじゃないだろうか。そして、ついつい「正解探し」をしてしまう。

 いろんなところで、「あの子は〇〇をしていたから有名になれた」「あの子は□□をしていたから頭が良くなった」とか、「自主性を伸ばすにはコレ!」「厳しくしたほうがいい子になる」、「自由にしたほうが発想力が……」といった「正解」みたいな情報を目にするから、仕方がないと思う。

 でも、同じく「子育て」をする人たちの話を聞いて確信した。「子育てに正解なんてない」と思えるようになった。

「こうすれば必ずこうなる」みたいなものはないのだ。

 サッカーと同じだ。

 僕はサッカー選手をしている。

 はじめたのは幼稚園のころだから、もう25年くらいプレーしている。いろいろなチームを経験してきて、サッカーをすることに慣れている自負がある。

 だけど……いまでもふとしたときに思う。……サッカーって難しい。

 例えば、あるミスをしてしまったとき、二度と繰り返さないと思っていても、また同じミスをしてしまうことがある。のちのち書いていくことになるけど、特に、若いころは一つのミスが尾を引く選手だったと思う。

 余談だけど、先の『月刊・遠藤航』の中で16歳のころから僕を知っていて、恩師ともいえる曺貴裁(ちょうきじぇ)(京都パープルサンガ監督)さんと対談をしたとき、「航は出会ったときから、同じミスを繰り返さなかった」と話してくださっていた。

 とてもうれしい評価だった。

 でも、選手個人として自分のプレーを振り返ったとき、「あ、またやってしまった」と反省することはあるのだ。

 はたまた、前の試合で「素晴らしい連係を見せられた」「このポジションの取り方はいいな」と思い、次の試合でも同じことをしようとするとまったく通用しない。

 なんで!?と思うことが幾度もあった。

 湘南ベルマーレ、浦和レッズ、シント=トロイデン、シュツットガルト、さらには各年代の日本代表。いろいろな舞台で、何試合もプレーをさせてもらった。

 勝ったことも負けたこともある。いいプレーができたことも、全然ダメだったこともある。それを繰り返してわかったこと。

 こうすれば必ず守れる。

 こうすれば必ず得点できる。

 こうすれば必ず勝てる。

 そんなものは存在しない。

 サッカーは二度と同じシーンが現れることがない。似たシーンはあっても選手、環境、コンディション……さまざまなものが違って、毎試合、新しい判断を繰り返している。まったく同じことはないのだ。

 なにを当たり前な、と言われるかもしれない。

 これはサッカーに限らない話だけど、そんな「当たり前」のことを本当に理解できているのか、と言えば、実は多くの人ができていないんじゃないかと思う。

 そして、そういう人に限って、いつも「正解探し」をしてしまっているのではないか。

 僕自身、海外でプレーをするまで、いまほど「正解がない」とはっきり言い切れるサッカー観や考え方を持ち合わせていなかった。

 どこかで、海外のトップレベルには、日本にいてはわからないようなもの──例えば、「方法論」や「トレーニング」「戦術」といった「正解的なもの」──があるのではないか、あるなら知りたい、と感じていたと思う。

 でも、そうじゃなかった。

 例えば、僕はドイツ・ブンデスリーガにおいて2年連続で「デュエル勝利数1位」という結果を残すことができた。タイトルにもつけさせてもらったこの『デュエル(DUEL)』は僕の代名詞になっている。

 その詳しい中身はのちに譲るけど、簡単に言えば「1対1」の勝負のことだ。ブンデスは体格が大きくて屈強な選手が多いことが有名なリーグで、それに劣るとされる日本人選手である僕が、連続でデュエル1位になったことは驚きをもって受け止められた。

 自分で言うのは憚(はばか)られるけど、結果だけを見れば僕は、「デュエル」についてトップレベルを知っていることになる。

 じゃあ、デュエルで勝つ「正解」がそこにはあったのか。

──想像のとおり、なかった。

「1対1」で勝てるかどうかは、フィジカルはもちろん、技術、戦術、チームの戦い方、メンタリティ……さまざまな要素が絡み合って決まってくる。「こうすれば必ずこうなる」というものはないのだ。

 今回の本で重要な視点が、この「正解がない」ということにある。

「正解がない」なんていうと、「じゃあ、どうすればいいんだよ」と言われそうだけど、代わりにいつも僕が探していたのが「最適解」だった。

【最適解】 最も適した答え。現状から最適と考えられる解答。(大辞林)

 例えばプレーをしていて何かを判断しなければいけないとき、「正解」を探すのではなく「最適解」を探す。

 探している過程には選択肢が生まれる。

 今回は「この選択」をしたけど、違うシチュエーションでは「こっち」がよかったかもしれない、といった学びがそこにはあった。

 これらはすべて、「正解がないという考え方」を物事のスタートにすることで可能になったことだ。

 個人的にはこの視点からスタートしないと、人は成長できないのではないか、とさえ思っている。

 この本は、僕の歩んだ4年半、海外でプレーをするようになってからのストーリーが中心になる。

 4年半前、いまの自分を想像できたか? と言われればできなかった。

 自分で言うのも変だけど、ここまで成長できるとは思ってもみなかった。

 ただ、絶対無理だ、と思っていたかといえば、それも違う。

 こうなりたい、こうであったらいいな、と想像していたことが、実際に叶ったという感覚が強い。

 なぜ、叶えることができたのか。

 その「答え」はやっぱり簡単にはわからない。

 ただ、ひとつだけはっきりと言えることは、常に「最適解」を探し続けてきたからこそいまがある、ということだ。

 本書では、僕が具体的にやってきた「最適解」の見つけ方を紹介したいと思っている。

 サッカーの話は、ちょっとマニアックに言及しているけれど、なるべく多くの人に読んでもらいたいから、日常においても共通しそうな「考え方」「成長のためのヒント」を、「サッカーの話」から導き出してみた。

 サッカーが好きな人はきっと「遠藤はこんな考えなのか」ということがよくわかってもらえると思うし(そこに新しい発見があるといいな、とも思っている)、「サッカーの見方ってシステムとかが複雑でよくわからない!」と言う人には「ここがわかれば面白いし、通になれる」というポイントを提示している。

 なにより「サッカーには興味がない」けれど、仕事や日々の生活の中で成長を願っていたり、何かに悩んでいる人にとって有益な考え方や思考法となるように努めた。

 これは自分でもできそうだな、と感じ、明日への活力にしてくれたらとてもうれしい。

 最後に構成について。

 第一章で、「正解はない」ことから始めることの重要性を、選手、チームそして個人の三つの視点から紹介している。本書全体にかかわる「大枠」だ。

 第二章以下は、その具体的な事例、方法論を書いた。日本代表やシュツットガルトで経験した出来事、やり取り、チームメイトや監督との会話。そこには僕自身を成長させてくれたたくさんのキッカケやヒントがあった。

 第五章では日本サッカーについて個人的に感じている長所と課題に言及している。

 読み終えた後に、第一章を見直してもらえると、よりその言葉の意味がわかるのではないかな、と思っている。

 では「最適解」探しをはじめましょう。

2022年10月吉日 遠藤航
[本の詳細はこちら👉『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』