アート鑑賞をもっと楽しみたい方、独学から一歩踏み出して「本物の知性」に触れてみたい方へ。

NHK『3か月でマスターする西洋美術』でも話題の田中久美子教授(文星芸術大学)が、普段美大の講義で伝えている最先端の西洋美術史をわかりやすく体系化してお届けするコンテンツが始まります。

ラスコーの洞窟壁画や古代ギリシャ彫刻から、ルネサンスの三巨匠、そして20世紀の現代美術まで——。 単に作品を鑑賞するだけでなく、当時の文化・社会・時代の「網目」をひもときながら多層的に徹底解説。誰もが知る名画の隠された文脈や、美術史を語る上で欠かせない重要作品の魅力を余すことなく紐解きます。

一度学んだ方の「学び直し」はもちろん、次の美術館めぐりが何倍もワクワクするものに変わるでしょう。

 

*第1章「古代」は、全10回でお届けします
 古代美術の歴史は、人類が祈りを込めて動物を描いた洞窟壁画に始まり、死後の永遠を求めたエジプト美術、理想の人体を追究したギリシャ美術、巨大帝国ローマが築いた建築と都市、そして信仰を形にした初期キリスト教美術へと大きく進化していきました。
 彫刻や絵画、建築などの代表作を鑑賞するだけでなく、時代背景や宗教、思想とともに古代美術を読み解き、西洋美術の礎がどのように築かれたのかを探っていきます。

 

《アッティカ出土のクーロス》紀元前590年〜前580年頃 大理石 高さ194.6cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館

アルカイック期の大理石彫刻

 古代ギリシャ美術といえば大理石彫刻とパルテノン神殿をイメージする方が多いと思います。ギリシャ美術にとってとても重要ですので、今回から3回に分けて彫刻と建築を中心とした美術史を紹介します。今回はアルカイック期について学んでいきましょう。

 紀元前7世紀中頃、エジプトがアッシリアから独立すると、エジプトとの交易を通じて、大型石像の技法や人体表現が伝わります。紀元前7世紀頃には大理石の大彫刻が登場し、この時期の美術様式をギリシャ語で「古式な」を意味する「アルカイック」と呼びます。

 紀元前650年頃〜前490年頃に数多く制作された等身大の男性の裸体立像が「クーロス像」です。クーロスはギリシャ語で「青年」という意味です。クーロス像は直方体の大理石の4面に一定の比率の人物の輪郭線を描き、彫刻したものです。正面を向き、腕をまっすぐに下ろし、片方の足を少し前に踏み出したポーズは、第2回で紹介した《メンカウラー像》のように、エジプトのファラオ像と同様のポーズです。ひとつの形式を規範として守りながら、そのなかでいかに人間らしい肉体を表現するかがこの時代の課題でした。

《アナヴェソスのクーロス》紀元前530年頃 大理石 高さ194cm アテネ国立考古学博物館

 紀元前530年頃に作られた《アナヴェソスのクーロス》は、初期のクーロス像より人間に近い姿です。また、口角を上げて微笑む「アルカイックスマイル」と呼ばれる謎めいた表情をしています。アルカイック期から約1200年後の飛鳥時代の日本や、中国の北魏時代の仏像などにも同じ表情がみられます。このようにクーロスは、より自然な人間の表現へと発展していったのでした。

《オーセールの貴婦人》紀元前640年〜前620年 石灰岩 高さ75cm パリ、ルーヴル美術館 ルーブル美術館 CC BY 2.5 via Wikimedia Commons

 同時期に制作された女性立像を「コレー像」といいます。コレーはギリシャ語で「少女」や「娘」を意味します。正面向きの直立姿勢で、片足をわずかに前へ出しているのはクーロス像と共通しますが、クーロスとの大きな違いは服を着ていることでしょう。《オーセールの貴婦人》は(紀元前640〜前620年)はクレタ島出土とされる初期のコレー像で、髪型やポーズにエジプト美術の影響がみられます。 《ペプロスのコレー》は、古代ギリシャの女性が着ていた襞(ひだ)のある衣服「ペプロス」をまとっていることから名付けられたコレー像です。肉体表現よりも「衣装」とその「襞」を描写することに重点が置かれています。《ペプロスのコレー》は発見当初、赤や青などの色彩が残っており、当時の彫刻が鮮やかに彩色されていたことが証明されました。

《ペプロスのコレー》紀元前530年頃 大理石 高さ120cm アテネ、アクロポリス博物館 アクロポリス博物館 CC BY-SA 2.5 via Wikimedia Commons

 クーロス像やコレー像は神の恵みに感謝して捧げられた奉納像でした。当時、神は人と同じ心と身体を持っていると考えられ、人間の最も理想的な姿は単に美しいだけではなく、神につながる尊いものと考えられました。これを「神人同形(アントロポモルフィズム)」といいます。

 

動きのある人体表現とコントラポストの誕生

 アルカイック期に続く「クラシック期」は、「厳格様式期」(紀元前480年〜前450年頃)、「盛期クラシック期」(紀元前450年頃〜前420年頃)、そして次回紹介する過渡期と呼ばれる「豊麗様式」時代(紀元前420年頃〜前380年頃)、「後期クラシック期」(紀元前380年頃〜前330年頃)という時代に分けられます。豊麗様式は盛期クラシック期に活躍した彫刻家フェイディアスの名を取ってポスト・フェイディアス時代とも呼ばれます。

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