吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。
本連載「吹部ノート」では、部員たちの熱いドラマをお届けしているのだが、その指導にあたる顧問の先生は、何を考え、何を生徒たちに伝えているのだろうか。
今回は玉名女子高等学校吹奏楽部 顧問・米田真一先生に話を聞いた。
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部顧問、音楽科教諭。1969年生まれ。熊本県出身。熊本県立宇土高校を経て武蔵野音楽大学卒(ホルン専攻)。1992年より玉名女子高校吹奏楽部の顧問に就任。同部の全日本吹奏楽コンクール出場16回のうち、15回は米田先生の指揮によるもの。

全国大会金賞は「たまたま」
自由曲《サントス・デュモンの大空への夢(2024年版)》の演奏が終わると、万雷の拍手が鳴り響く中、玉名女子高校吹奏楽部の顧問・米田真一先生は客席を振り返り、「ありがとうございました」とつぶやきながら頭を下げた。
それは全日本吹奏楽コンクールに出るたびに米田先生が繰り返してきた流儀だった。
「玉女(たまじょ)」こと玉名女子高校にとっては通算16回目、14大会連続の全国大会出場。そして、2025年で12大会連続の金賞受賞という偉業を成し遂げた。
コンクールだけではない。全日本マーチングコンテストは27回出場で金賞23回、全日本アンサンブルコンテストは13回出場で金賞3回。まさに、地元熊本県のみならず九州が誇る「最強の女子校」となっている。
全国大会で金賞を受賞した後、米田先生は必ずこうコメントする。
「金賞はたまたま。いい演奏をした後にもらえるおまけみたいなものです」
これは決して謙遜ではない。先生の本心だ。
改めて、2010年の全日本吹奏楽コンクール以来続いている金賞受賞(途中、三出休みとコロナ禍による大会中止を挟む)について聞いてみると、米田先生はこう答えた。
「本当にたまたま。連続金賞の記録がどうとか言われることもありますし、こうして続いていることが途切れるのは残念なことかもしれません。でも、毎年うちの演奏を聴いてくださっているお客さんや審査員の方々が金賞だと判断してくれているのがたまたま続いているだけ。いつも考えているのは『玉女らしい演奏をする』ということです」
米田先生は穏やかな笑みを浮かべていた。
コンクール曲の選曲理由
自由曲《サントス・デュモンの大空への夢(2024年版)》は樽屋雅徳が2012年に作曲した原曲を、玉女のために編み直したものだ。
「この《2024年版》は、2024年の12月、当時の3年生が年明けのニューイヤーコンサート(玉女の定期演奏会)で演奏することを前提に樽屋先生に書いてもらったものです。うちが得意とする歌い方、サウンド、フレーズにマッチするよう、原曲よりさらにゴージャスにしてもらいました」
いまや名指導者として誰もが認める存在になった米田先生だが、もともと前年度の3年生のためだった曲をなぜ自由曲に選曲したのだろうか?
「2024年度、いまの2、3年生は演奏面で当時の3年生にがっつり頼っていました。《2024年版》の途中にサックスアンサンブルのパートがあるのも、当時の3年生のサックスに非常に力があったためです。その3年生がいなくなり、じゃあ、2025年の自由曲は何にするかとなったとき、《サントス・デュモン》か《無辜の祈り 奇跡の一本松〜再び海へ〜ほんとうの幸福》(樽屋雅徳)しかなかった」
米田先生は、いわば消去法で《サントス・デュモン》を自由曲に選んだという。そして、実際に2025年度のメンバーで演奏してみた。
「これが、まぁ、うまくいかない。やっぱり去年の3年生の力は大きかったね、と生徒たちに言いました。でも、妥協せんやった。やれることは全部やろうと。サックスのパート練習、ホルンのパート練習……できる限り、『これでダメなら仕方ないよね』というレベルであらゆる練習に僕が関わったんです」
手間も時間もかかったが、部員たちは米田先生の熱意に応えるかのように大きく成長してくれた。
一方、課題曲《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》の選曲や仕上げ方には、米田先生ならではのこだわりがあるという。
「課題曲で僕が気をつけているのは、何かに固執しないということです。僕のような姿勢を正しいと感じる人、違うという人がいるでしょうし、審査員でも賛否両論あるのはわかっています。ともかく、僕は課題曲ではすべての要素を平均値にして、どちらかに偏ったり、何かにこだわったりはしない。極端な音楽表現は避けています」
基本的に行進曲(マーチ)を選ぶのは、マーチングの名門でもある玉女だからこそ、というのもあるだろう。部員たちの体にはフロアでのテンポを揃えた行進や演技が染みついている。
とはいえ、《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》には苦戦したと米田先生は語る。
「とても難しい曲でした。ただ、『今年、課題曲の演奏はダメだ』とさんざん言いながらも、本番になるといい演奏になっているのがうちの特徴です。全国大会の直前には、自由曲よりも課題曲の練習を多く重ねます。課題曲が良くないと自由曲を高く評価してもらいにくくなるからです」
重要なのは「イメージ」だ
玉女の自由曲には、ほかのライバル校とは違う明確な特徴がある。ひとつは、標題音楽(曲名があり、具体的なストーリーや情景、イメージなどを伝える音楽のこと)であること。もうひとつは、演奏曲が高難度ではないことだ。
標題音楽を選ぶことについて、米田先生はこう語る。
「うちは2011年の《ラッキードラゴン 〜第五福竜丸の記憶〜》(福島弘和)から標題音楽にしています。理由は、生徒たちが音楽のイメージを作りやすいから。僕自身は絶対音楽が苦手というわけではありません。でも、絶対音楽を生徒たちと共有するのはハードルが高いかなと。だったら、より具体性のある曲を使って共有したほうが、音楽づくりはしやすいと考えたんです」
2025年の《サントス・デュモン》でも、部員たちは曲の背景を調べ、自分たちなりに具体的なストーリーを考え、絵を描くことでイメージを共有した。また、課題曲に歌詞をつけるのも同じだ。
そして、極端に難度が高すぎない曲を選ぶのは、技術の高さよりも、表現の深さを米田先生が大切にしているためだ。これも「イメージの共有」につながっている。
「音楽の持っている世界観、ドラマをよりしっかりと表現できたらと常に思っています。うちには特別なものは何もありません。楽曲に対してみんなでシーンを作ったり、色を考えたり、物語を作ったり。演奏しながら目頭が熱くなるような音楽を目指しています」
玉女が高く評価されているのは、自分たちが目指している音楽、「目頭が熱くなるような音楽」が観客や審査員に届いているからかもしれない、と米田先生は言う。
米田先生の吹奏楽指導において「イメージ」は非常に大きな意味を持っている。
たとえば、「音型は音符の形をイメージする」と先生は部員たちに教えている。音符の形とは、♩♪などのことだ。いわゆるオタマジャクシの頭の部分はすべて丸い。つまり、「音の形は音符の形、つまり、丸いもの」というのが先生の教えだ。
また、サウンド面においても「イメージ」は重要になる。米田先生は「より身近なもの」「より具体的なもの」「より共通したもの」を使ってサウンドのイメージを考え、伝えるように指導している。たとえば、温度・色彩・形状・肌触り・匂い・心情などだ。それが有機的な音楽へとつながっていく。
例を挙げよう。「scherzando(おどけて、戯れるように)」という表情記号があったとき、部員たちに「ここはおどけるように演奏してみましょう」と言っても、部員たちには明確なイメージが伝わりにくい。そんなとき、米田先生はこう言う。
「春の川原で、小鳥たちが楽しそうに水遊びをしながらじゃれ合ってるように」
さらに、実際に先生自身が小鳥の真似をして見せる。それがイメージの共通認識につながるのだ。
米田先生は表情記号だけでなく、強弱記号などに関しても同様の具体的なイメージで伝えること、そのイメージを全員で共有することを大切にしている。
なお、あらゆる曲において基礎となるのはメゾフォルテだと先生は考えている。先生が決めたメゾフォルテの定義はこうだ。
「リラックスした状態で出せる、いちばん豊かで響きのある音から生まれる音楽表現音量」
すべての音は豊かで響きのある音であるべきだ。そして、その基本、基礎、基準となるのがメゾフォルテなのである。
ゆえに、ほかの強弱記号は次のように表現できる。
・メゾピアノ……夕日が顔に当たる少し暖かい温度のメゾフォルテ
・フォルテッシモ……力士が四股(しこ)を踏むような力強いメゾフォルテ
ピアノやフォルテになったとき、音が硬くなったり開いたりするのはよくない。常にメゾフォルテをベースとした豊かなサウンドで強弱を表現していくことを米田先生は提唱している。
ほかにも強弱記号の表現方法はある。
「音量の増減や数値で音楽を表すことはしません。いちばん豊かなメゾフォルテを基本に、たとえば遠く離れたらメゾピアノ、近づいたらフォルテ。あるいは、温度が上がったらフォルテ、下がったらピアノ。色が濃くなったらフォルテ、薄くなったらピアノ。そんなふうに伝えることで、音に立体感が出てくるんです」
つい指導者が口にしてしまいがちな、「もっと音を出して」「そこ、もっと強く」といった指示は米田先生はほぼ言わないという。
また、「玉女の3原則」というものもある。
・同じ音質
・同じイメージ(アーティキュレーション、フレーズ)
この3つを合わせることが、純度100パーセントの「玉女サウンド」につながる。
米田先生の持論に「音だけで8割が決まる」というのがあるが、その根本にあるのが「3原則」。先生の言う「いい音」とは、「3原則」が揃ったところから生まれてくるサウンドのことなのだ。
<次回>【吹奏楽指導新論 第2回】玉名女子高等学校 顧問・米田真一先生#2
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🔰シンクロナスの楽しみ方
全国の中学高校の吹奏楽部員、OBを中心に“泣ける"と圧倒的な支持を集めた『吹部ノート』。目指すは「吹奏楽の甲子園」。ノートに綴られた感動のドラマだけでなく、日頃の練習風景や、強豪校の指導方法、演奏技術向上つながるノウハウ、質問応答のコーナーまで。記事だけではなく、動画で、音声で、お届けします!
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