吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第60回は玉名女子高等学校(熊本県)#4

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。

【前回までのあらすじ】
12大会連続全国金賞という金字塔を打ち立てた熊本県の玉名女子高校吹奏楽部。リーダーの川上はなは、仲間と描いた「大空」のイメージをマイハープに託し、最高の舞台を完結させた。だが、その華やかな栄光の陰で、人知れず孤独と葛藤を抱えていた少女がいた。川上の隣で表彰式に臨んでいたクラリネット担当、青木楓凜那(かりな)。「自分はただそこにいただけ」と感じていた彼女が、真の自分の存在意義を見つけるまでの物語が、幕を開ける。

父と姉妹の大家族が生む音楽

「玉名女子高等学校——ゴールド金賞!」

 2023年におこなわれた全日本吹奏楽コンクールの表彰式。会場が歓声に包まれる。記念すべき10大会連続金賞、栄光の瞬間。

 だが、そのとき客席にいた楓凜那は、表面上は笑顔で喜びながらも、心の中にはぽっかりと穴が空いていた。夢にまで見た、玉名女子高校吹奏楽部の一員として出場する「吹奏楽の甲子園」だった。しかも、高1でクラリネットパートのメンバーに抜擢されていた。

(でも、これはまわりのみんなが頑張った結果だ。私はただそこにいただけ……)

 表彰状に貼りつけられたメダルも、トロフィーも、金色に輝いていた。だが、楓凜那は心の空洞を秋風が冷たく吹き抜けるのを感じていた。

 日本各地に数ある吹奏楽の名門校の中でも、「玉女サウンド」と称される玉女の純度100パーセントの音は唯一無二のものだ。

 その秘密は「家族」にある。

 部員たちがいつも練習している合奏場には、歴代の卒業生たちが残していったメッセージが貼りつけられている。そこには「ホルンパートのかわいいかわいい妹達へ」「57代目のお姉ちゃんたちより」「大切な大好きな59代目の妹たちへ」といった文字が書かれている。

 

 顧問の米田真一先生も、コンクールのときなどに応援に集まってくれた人たちへ挨拶する際、部員を「娘たち」と呼ぶことがある。

 妹、姉、娘たち——。そう、玉女は米田先生を父親とした、姉妹の集まりなのだ。そんな疑似家族が成り立つのも、部員のほとんどが寮生活をしていることが関係しているのではないかと米田先生は思っている。

「親元を離れているからこそ、部員たちは僕を父親のように見るし、ファミリー感があるのかもしれない」

 長い時間を同じ場所で過ごす。ひとつ屋根の下で生活し、同じものを見て、同じ空気を吸い、同じ音楽をともに奏でる。家族のような関係性が玉女の音楽に抜群の統一感と聴く者の心にしみ通るぬくもりを与えているのかもしれない。

 だが、玉女に来れば、誰もがすぐに家族になれるわけではない。

 鹿児島県出身の楓凜那にとって、それは決して簡単なことではなかった。...