吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第59回は玉名女子高等学校(熊本県)#3

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。

【前回までのあらすじ】
県大会での「過去最低点」という挫折。「最強の女子校」と称される玉女のリーダー・川上はなは、組織の連携不足に悩みながらも、分厚い手帳に米田先生の教えを刻み続け、妥協を排した「攻めの姿勢」を取り戻していく。そして、自由曲のイメージを共有する「最後の1枚の絵」を全員で描き上げた部員たち。欠けていたラストピースを胸に、12大会連続金賞という金字塔へ向けて、いよいよ「吹奏楽の甲子園」に挑む——。

いざ全日本吹奏楽コンクールの舞台へ!

 手のひらにヌルッとした感触を覚え、川上はなは紺色のブレザーに手を擦りつけた。玉名女子高校吹奏楽部には、特別なステージ衣装はない。コンクールであってもごく自然体で臨もうという米田真一先生のポリシーで、全国大会もいつもの制服で出場することになっていた。

 

 隣にいる後輩が明らかに身を固くしているのがわかった。

「大丈夫だよ」

 はなは微笑みながら声をかけた。

(でも、たぶん私のほうが緊張してる……)

 はなは、また手のひらににじみ出してきた汗をブレザーで拭った。

 10月19日、宇都宮市文化会館。日本中の吹奏楽部員が憧れる全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部が開催されていた。

 玉女の出番は後半の部の1番目。駐車場で楽器を下ろすと、先生と管楽器奏者はチューニング室での最終調整に入ったが、打楽器パートだけは楽器とともにすぐ舞台袖に入り、出番まで待機する。

 はなたちが舞台袖に着いたときは、ちょうど前半の部の表彰式がおこなわれる直前だった。目の前には前半の部に出場した15校の代表者と指揮者の先生たちがずらっと並んでいた。見覚えのある有名校や強豪校のステージ衣装も見えた。破裂しそうなほどの胸の高鳴りが聞こえてきそうだった。

(何時間か経てば、私もあそこに並ぶんだな)とはなは思った。

 昨夜から緊張が続いており、ぐっすりと眠ることはできなかった。それでも、誰ひとり体調不良などで欠けることなく、全員で会場までやってくることができた。リーダーとして、本当によかったとホッとした。

 やがて、反響板の向こうにあるステージで表彰式が始まった。「○○高等学校——ゴールド金賞!」といったアナウンスと歓声、拍手が聞こえてくる。予想外の結果に会場がどよめくときもあった。

 ついさっき、後輩に「大丈夫だよ」と言ったが、本当に自分たちは大丈夫だろうかとはなは思った。期待した結果にならずに凍りつく自分の姿、静まり返る会場の様子を想像しそうになり、はなはネガティブな考えを必死に頭から振り払った。

 すぐ横には大切な相棒——マイハープがある。

 自分の楽器で出られる、最初で最後の全国大会だ。それに、結果よりも、玉女らしい演奏をして観客を感動させることが大事だ。いつも米田先生はそう教えてくれた。

 自分たちらしい演奏をすればいい。はなはそう考えるようにしたが、手汗は止まらなかった。

 前半の部の表彰式が終わり、チューニング室にいた管楽器パートが舞台袖へやってきた。

 後半の部の演奏は休憩明けになる。前に他の学校の演奏があると、その後、わずか数分で楽器のセッティングをしなければならない。出場順1番はプレッシャーがかかるし、審査では不利だという説もあるが、前の学校の演奏がないために楽器のセッティングはゆっくりできる。特に、いくつもの楽器を並べなければいけないはなたち打楽器パートにとってはありがたいことだった。

 打楽器を出場メンバーだけで運んだり並べたりするのは難しいため、メンバー外の部員がサポートとしてついてくれていた。本番だけでなく、これまでもずっとコンクールメンバーを手伝い、支えてくれていた部員たちだ。中には同期の3年生もいた。

「みんなの分も頑張るね」

 はながそう言うと、サポートの部員たちは涙を流した。

(いちばん近くにいる人たちに感謝しなきゃ。この子たちの思いも背負って演奏しよう!)

 係員からセッティングを始めていいというゴーサインが出た。ステージの手前に米田先生が立ち、拳を前に出していた。はなは自分も拳を出し、軽くグータッチした。

「大丈夫!」

 先生の言葉が、はなの心に力強く響いた。

「ありがとうございます!」

 はなは決意を固め、ハープを押してステージに出ていった。

少女たちは大空を飛んだ

 時間をかけて念入りに楽器をセッティングをした。管楽器の奏者たちは早々に自分たちの席についていた。

 だが、まだ後半の部の開始時間にならない。客席には観客が詰めかけ、ホールに異様な緊張感が充満していく。玉女の55人は薄暗いステージ上で、ただじっと待機することしかできなかった。...