吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。

本連載「吹部ノート」では、部員たちの熱いドラマをお届けしているのだが、その指導にあたる顧問の先生は、何を考え、何を生徒たちに伝えているのだろうか。

今回は東海大学菅生高等学校吹奏楽部 顧問・加島貞夫先生に話を聞いた。

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加島貞夫(かじま・さだお)先生
1961年3月29日生まれ。東京都昭島市出身。法政大学第二高等学校を経て、法政大学文学部英文学科卒業。1983年、開校(当時は東京菅生高等学校)より英語科教員となり、吹奏楽部初代顧問に就任。全日本吹奏楽コンクールに10回出場(金賞5回)、全日本アンサンブルコンテスト20回出場。2026年現在の肩書は校長補佐。
 

右耳の聴力がない指導者

 東京を代表する強豪バンドの一角として、これまで全日本吹奏楽コンクールの舞台でも目の覚めるような名演を残してきた東海大学菅生高校吹奏楽部(東京都あきる野市)。

 創部から指導にあたり、「菅生サウンド」と呼ばれる深みと迫力、歌心があるサウンドをつくり上げてきたのが顧問の加島貞夫先生だ。

 なんといっても鮮烈だったのが、2018年から5大会連続となる全日本吹奏楽コンクールでの金賞受賞だ。

 そんな加島先生の指導論を伝える上で、まずは先生の人生を振り返ることから始めてみたい。

 

 これまで全国大会の指揮台で凄まじい演奏を指揮し、2026年現在も100人を優に超える部員たちに音楽教育を施している加島先生だが、実は生まれつき右耳の聴力がない。そして、そのことが吹奏楽を始めたきっかけにもなっていた。

 加島先生は語る。

「右耳が聞こえないことで、小学校のときに登校拒否をしたり、いじめに遭ったりしたんです。それが悔しくて、中学に入ってから仕返しをするためにやんちゃをした。当然、先生に叱られるわけなんですけど、先生は僕の姉が吹奏楽部にいることや僕も音楽好きだということを知っていて、『そんなことやってないで、吹奏楽部に入れ』と勧めてくれたんです」

 任された楽器はユーフォニアムだった。しかし、トランペットのかっこよさに惹かれ、顧問には内緒で貯金を使ってトランペットを買い、こっそり練習をしていた。あるとき、そのことを母親が顧問に話してしまった。叱られるかと思ったが、顧問は「トランペットが吹きたいのか?」と加島先生をトランペット担当に代えてくれた。

 

先輩は全日本吹奏楽連盟理事長

 吹奏楽の楽しさを知り、高校は吹奏楽部が力をつけてきていた神奈川県の法政大学第二高校を選んだ。

「入るために勉強は相当頑張りました。当時は男子校で、全日本吹奏楽連盟理事長の石津谷治法先生が2つ上にいました。面白くて、後輩思いの先輩でした。中学の吹奏楽部はコンクールに出ていなかったので、なぜ法政二高の先輩たちがそんなにコンクールに夢中になっているのかわからなかったんですが、高1のコンクールに出て『金賞』という発表を聞いたとき、『こんなに面白い世界があったのか!』と衝撃を受けました」

 加島先生は高校3年間のコンクールで、苦しさや喜び、感動を味わった。先輩や後輩、同期、顧問と絆を感じ、人の優しさを知った。そのときに受けた思いが、いまでも加島先生を動かす原動力になっているという。

 右耳のハンディキャップも、吹奏楽をやる上では大きな問題にはならなかった。

「トランペットをやるなら、やっぱり1st(ファースト=首席奏者)をやりたいじゃないですか。でも、1stの位置に座ると、右側にいるパートの仲間たちの音が聞こえない。合わせるのが難しい。だから、メトロノームやチューナーを使って、徹底的に自分の音感やテンポ感を鍛えるようにしました。先生もわかっていて『ちょっと違ってるよ』と教えてくれたり、同期の友だちが一緒に吹いてくれたりと助けられました。苦労をしたという記憶はないですね」

 高校卒業後は法政大学に進学。大学ではビッグバンドでジャズを演奏し、吹奏楽は立川市吹奏楽団という一般楽団で楽しんだ。

 そして、1983年、加島先生が大学を卒業するタイミングで開校した東京菅生高校(現在の東海大学菅生高校)に採用された。大学は文学部英文学科に所属していたこともあり、担当教科は英語だった。

「教師を目指したのは、中学時代に僕に吹奏楽を勧めてくれた先生の影響が大きかったですね。それから、高校での先輩との関係、コンクールの経験、大学時代の一般楽団での経験……そういった中で『教師になって、吹奏楽部の顧問をやりたい』と思うようになったんです」

 こうして加島先生の教師人生はスタートしたのだった。

 吹奏楽指導をする上で、右耳のハンディキャップで苦労したことはほとんどないと先生は語る。バンドとの距離が近いほど右側が聞こえにくくなるため、ホール練習など厳密なチェックや指導が必要なときは先生はバンドから離れるようにしている。そうすれば、左耳で全体の音を均等に聴くことができる。

「たぶん、僕の耳のことを気づいている生徒はいないんじゃないかな? それくらい自然に指導ができています」

 

<次回>【吹奏楽指導新論 第4回】東海大学菅生高等学校 顧問・加島貞夫先生#2 

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