夫婦喧嘩となる原因は、日々の生活にあふれる「些細な出来事」から「不倫やセックスレス」などの生々しい問題まで多岐にわたります。
その背景には「態度や言葉遣いといったコミュニケーション」「価値観の違い」「感情のわだかまり」が大きく潜んでいますが、これらに加え「発達障害の特性」が影響していることも。
夫婦コミュニケーションにおける発達障害にまつわる悩みや疑問、問題の捉え方、適切なアプローチ、関係改善に役立つ知識を夫婦カウンセラーの安東美紀子先生がお答えしていきます。
※2022年に発効された世界保健機関(WHO)の疾病国際分類ICD-11では、発達障害は「神経発達症」と表記されます。「障害」という言葉が与えうるデメリット等を考慮して日本でも神経発達症とする流れになりつつありますが、お困りごとを抱えているご夫婦に届きやすいように、本稿では当面「発達障害」として解説します。

「愛しているのに、できない」——発達障害の特性が隠れたセックスレスの原因に。修復へのステップ
夫婦の悩みの中でも、特に相談しづらいのが「セックスレス」の問題です。
「自分に魅力がないのではないか」「パートナーに愛されていないのではないか」と一人で抱え込み、自信を失ってしまう方も少なくありません。
しかし、カウンセリングの現場で詳しくお話を伺うと、その背景に発達障害(ASD、ADHD)の特性による「脳の仕組みの違い」が隠れているケースが非常に多いことに気づかされます。
今回は、特性ゆえに起こるセックスレスのメカニズムと、二人の心地よい距離感を見つけるためのヒントをお伝えします。

なぜ「特性」がセックスレスを引き起こすのか?
多くの場合、悪意や拒絶ではなく、以下のような「感覚や認識のズレ」が原因となっています。
1)感覚過敏・感覚鈍麻(ASDに見られる傾向)
音や光、匂い、肌ざわりなどに敏感で、不快感やストレスを強く感じたり、強烈に好きな触感や匂いがあったりします。これが「感覚過敏」。反対に、感覚に著しい鈍さがあることを「感覚鈍麻(どんま)」といいます。
セックスにおいては☞
• 触覚の過敏
相手にとっては愛情表現のハグやキスが、発達特性をもつ方にとっては「痛い」「不快」「鳥肌が立つ」と感じられることがあります。
・感覚のスイッチ
日中の仕事で感覚を使い果たし、夜には「シャットダウン」状態(感覚を一切受け付けない状態)になってしまうことも珍しくありません。
2)過集中と優先順位(ADHDに見られる傾向)
ADHDには注意欠如や多動・衝動がある一方で、興味をもったことには過剰に集中してしまいます。高い集中力はメリットでもありますが、周りが見えないほどに集中しすぎてしまうことで引き起こされるデメリットもあります。ゆえに、注意欠如や衝動なども重なって優先順位が消えてしまいます。
セックスにおいては☞
• 脳の切り替えが苦手
仕事や趣味に没頭していると、パートナーとの親密な時間へと意識を切り替えることが難しくなります。「後でね」と言ったまま、他の刺激に意識が移り、悪気なく忘れてしまうケースです。
3)「暗黙の了解」が伝わらない(ASD・ADHDに見られる傾向)
ASDはコミュニケーションを言葉通りに受け取るという特性があり、相手の気持ちや意図を“想像で補う”ことに負荷がかかるといわれています。ADHDでは注意が持続しにくいため、相手の感情を読み取る前に注意が逸れたり抜けたりしがちです。
セックスにおいては☞
• 「察して」が届かない
ムードや視線による「誘い」のサインが、特性を持つパートナーには届きません。誘った側は「拒絶された」と感じますが、誘われた側は「そもそも誘いだと気づいていなかった」というミスマッチが積み重なります。
• 不適切なタイミングでの誘い
逆に、喧嘩中など「今はそんな雰囲気ではない」という状況を読み取れず、衝動的あるいは「約束の日だから」という理由で誘ってしまうケースもあります。これによりパートナー側が「大切にされていない」と傷つき、心理的な距離が広がってしまいます。
修復のための「3つのアプローチ」
ここまで読んで、「どうすればいいのだろう」と感じた方もいるかもしれません。
セックスレスの背景にある“脳の仕組みの違い”を理解したうえで大切なのは、無理に変わろうとすることではなく、二人に合った関わり方を見つけていくことです。そのための具体的なアプローチを、3つの視点からご紹介します。
① 「性」をコミュニケーションの「予定」にする
情緒的なムード作りが難しい場合は、あえて「ルール化」を検討しましょう。
・言葉で明確に伝える
「察して」を卒業し、「今日はハグしたいな」とストレートに言葉にします。
・スケジューリング
カレンダーに「二人の時間」を書き込むことで、脳が事前に準備を整えやすくなるカップルも多いです。
② 「快・不快」のすり合わせ(取扱説明書の作成)
セックスそのものだけでなく、前後のコミュニケーションも含めて「何が心地よくて、何が嫌か」を具体的に共有します。
• 感覚を言語化
「首筋を触られるのは苦手」「この照明の明るさが落ち着く」など、五感の好みを言語化しましょう。
③ 「性交」だけをゴールにしない
「挿入を伴う行為=ゴール」という固定観念がプレッシャーになっている場合があります。
・マッサージをし合うだけ
・手を繋いで眠るだけ
といった、「肌の触れ合い(スキンシップ)」そのものを目的とすることで、脳の緊張を解いていきます。