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「いつも笑顔でいたい」と思いながらも、子育てと家事や仕事の両立に疲弊し、イライラを爆発させてしまうお母さんお父さんたちへ。社会学者、生物学者、保育のプロなどの専門家にインタビューし、さまざまな角度から子育てがしんどい背景とその解消法を探ります。
 今回は、10年以上保育士を務め、自身の書籍、Youtubeやラジオなど、さまざまなメディアで子育てに関するアドバイスを発信しているてぃ先生にお話を伺いました。

文=松倉和華子

てぃ先生
保育士

保育歴13年目の現役保育士。Twitterフォロワー数は50万人以上、YouTubeチャンネル登録者数も48万人以上で、保育士としては日本一のフォロワー数を誇る。『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』『園児がくれた魔法の言葉』『きょう、ほいくえんでね…!!』など著書多数。最新刊は『子どもが伸びるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育て◯×図鑑』(ダイヤモンド社)。その他、子育て情報をSNSやメディアで発信。年間50本以上の講演活動も行う。他園で保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」の創設と就任など、保育士の活躍分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。

 

発達を「後追い」している親たちの脳はキャパオーバー!

エディター平澤:現在、2歳になる子どもがいるのですが、子育てをしている中で自分の感情のコントロールが効かないと感じることがあります。まず、ママたちがそんな気持ちになるのはどうしてなのでしょうか?

てぃ先生:一般的なご家庭での子育ては、子どもの発達を「後追い」している状態なんですよね。

 保育士は当然、子どもの発達や成長について勉強します。だから保育園でも「今、1歳3ヶ月でこのくらいの成長だから、そろそろ1歳4ヶ月頃に起こる変化に対応しよう」と計画を立ててから実行するし、気になる姿があっても「今はこういう時期、発達段階だ」と理解したうえで動きます。

 しかし、発達を後追いしている親御さんは、子どもたちの成長の過程でさまざまな問題が起こったときに、慌ててその問題について考え、対処しようと動く。起こった問題にぶっつけ本番の対処となると余裕もなくなるし、イライラするのも仕方ないと思います。

エディター平澤:子どもが生まれる前から、育児書を読んで備えるお母さんもいると思うのですが、それでも知識が足りないのでしょうか?

てぃ先生:たまに「育児書を読んだが無駄だった」と言われる方がいますが、決して無駄なのではなく、自分の子どもには上手くいかない場合もありますし、いくら子どもの発達や対処法を学んだとしても、余裕がないとそれを実践することもできないですよね。

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ライター松倉:余裕……なくなりがちです。

てぃ先生:つい子どもにイライラしてしまうという親御さんたちは、そもそも頭の中が仕事や家事、雑用など、日々の大小さまざまなタスクでキャパオーバー状態です。そのような状態だと、心に余裕も持てず、時間もない中で育児書を見て、子育ての方法を模索する。そうなると、頭の中にたくさんの情報が溢れかえり、それがキャパオーバーの原因になってしまいます。

エディター平澤:なるほど…。

てぃ先生: 家事や育児の負担の上にさらに子育てメソッドも詰め込んでいるので、整理ができずに余裕がなくなり、いざという時にそれをうまく活用できません。そうすると、「こう書いてあったのにうちの子はダメだった」、「こう言っていたのにうまくいかない」と感じるし、失敗経験ばかりが積もり積もって、自分はダメな親だと思ってしまう。心が病んでくるのも当然ですよね。

時間と気持ちの余裕があればいい子育てはできる

エディター平澤:余裕を作るためにはどうしたらいいですか?

てぃ先生:環境を変えることだと思います。やらなきゃいけないと思っていることを減らすこと。

 子育てに限らず、「頑張ろう」という気持ちがモチベーションを上げるわけでもないし、愛情と呼ばれるものが子育てを楽しくするわけでもないと僕は思います。

 例えば受験生がいて、当然勉強を頑張らないといけない。でも「頑張ろう」って言ったからって頑張れるわけではないし、目の前にゲームやスマホがあれば、勉強するのは難しいですよね。だから気持ちの問題ではなく、テレビやスマホなどを遮断した部屋など、環境を作ることが必要です。

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 育児でいえば、例えばいつも食事を毎日三食、手作りしている家庭なら、1週間のうち2日間は夕食を冷凍食品やお惣菜にする。そうして食事を作る時間が減った分、子どもとゆっくり過ごしたり、子どもにどんな言葉がけをしようか考えたりもできますよね。

 または親御さんが映画を見たり、ゆっくり過ごす時間にあてれば、充実した気持ちになって子どもにも優しく接せられますよね。自動掃除機や乾燥機付き洗濯機を導入するのでも良いと思います。少しでも親御さんの負担を減らすことで、その分の時間を確保できます。

ライター松倉:時間ができれば、少し余裕が持てますね。

てぃ先生:これは別に物を買えばいいということではなく、どんな方法でもいいから親御さんたちに余裕が作れる手段を探して欲しいということです。そのくらい、とにかく子育てで大切なのは、お父さんとお母さんの気持ちと時間の余裕なのです。余裕があれば、もし子どもが出掛けた先でぐずっても落ち着いて、育児書にある対処法を実践することもできますよね。

エディター平澤:そうですね。

てぃ先生:まずは時間と気持ちの余裕をお父さんとお母さんが持つこと。そのための環境を整えること。そこから子どもへのイライラの原因や、子どもたちとの関わり方について考えるといいと思います。

子どもを幸せにしたいなら、自分たちの幸せも大切にする

エディター平澤:子どもとの関わり方に悩む方やこれから子育てをする方が知っておいたほうがいいことはありますか?

てぃ先生:まずはお父さんお母さん自身が、自分がどうしたら楽しいか、幸せかについて考えることです。子育てにはさまざまな考えやメソッドがありますけど、子どものことを最優先にしたからといって、親の思い通りになんてなりませんから。

 それに、自分の中で「子どものために」と思ってやっていることって、いずれ「子どものせいで」に変わってしまうことが多いんです。

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 「子どものために」オシャレを我慢した、趣味をやめた、仕事を変えた、キャリアを諦めたとしても、自分に余裕がなくなった途端に「子どものせいで、私はこうなった」と思ってしまう。子どもが楽しそうにしていても、気付いたら自分は空っぽで好きなこともすべて手放して、子どものお世話にだけに明け暮れているのでは辛くなってしまいます。「私はこんなに我慢してるのに!」とイライラの原因になるのも仕方ないと思います。

ライター松倉:そうですね、考えただけでもキツいです。

てぃ先生:だからいい子育てがしたいと思うのなら、子どもと同じくらい自分のことも大事にしてほしいんです。

 子どもが生まれたからと言って、家の中のヒエラルキーのトップが子どもで、両親が下になるということはなく、誰しも人生はたった一度きりですし、1日が24時間というのも同じです。だから、子どもの幸せもお父さんお母さんの幸せも同列におかなくてはいけない。そのほうが結果的に子どもも幸せだと思います。

エディター平澤:まさに、子育てはどこか自己犠牲が当たり前だと思っていました…。

てぃ先生:だとしたら、自分たちの両親はどう思うかと考えてみて欲しいです。我が子に「幸せになってほしい」と思うのと同様に、自分たちの親も私たちに幸せになって欲しいと思っているはずなんですよ。子どもだって、「自分の幸せのために」と言いながらやつれたり、辛そうにしている親は見たくないはずです。

ライター平澤:言われてみれば…。

てぃ先生:子育てが大変だと思ったら、できるだけ気持ちと時間に余裕を持てる環境をつくること。そうやって親が幸せで満たされていれば、自然と子どもにも笑顔で接することができるし、少しぐずっても優しくできると思います。