脱いでも稼げない「裸のデフレ」の時代、コロナ禍がその状況に拍車をかけた。夜職で働く女性たちが収入を失い、困窮化。性風俗産業は女性の貧困とからめて取り上げられるようになった。
その一方で、稼げる女性と、そうでない女性が二極化しているともいわれている。ではその背景には何があるのか。社会全体で格差が拡大するなか、性の世界にもその影響はあるのか。
本企画では、風俗の世界で働く女性たちへのインタビューを行っていく。記事だけでなく、動画、音声、LIVEなどのイベントを通して、格差が生じる要因を探る。前回に引き続き、速水理沙さん(仮名)の話をお届けします。
速水理沙さん(仮名)
月収 100万円以上
お金の使い道 7000万円の戸建てを購入
ソープの仕事を再開し、2年で1000万円稼ぐ
離婚して全てを失った理沙さん。これからどうしよう……と途方に暮れたが、彼氏による支配から離れて、自分の気持ちを最優先にして考えた結果、もう一度ソープの仕事に戻ることにした。今度は、彼氏のためではなく、自分のために稼ぐことを目標にした。
「一度はやめたんですけど、もう一回同じお店で働くことにして、『1000万貯めてから辞めよう』と決意しました」
ソープの仕事を再開して、2年足らずで1000万円を貯めることができた。目標を達成した時点で、理沙さんは29歳になっていた。
「1000万を貯めたと同時に、ソープの仕事はスパッとやめました。 ただ、その後にやりたい仕事が見つからなくて。 大学に入ったのも結局、親に言われて、たまたま受かったから入ったって感じで、特にやりたいことがあったわけではない。ちょうど私の世代は就職氷河期で、 めちゃくちゃ就職が大変だった時期でした。やりたいこともなく、親からも逃げたかったので、彼との同棲生活を始めて、そういう道に入っていった・・・という感じでした。
でも結局、風俗で働いてるだけでは「先がない」って思ったんですよね。自分の価値が保たれているのは若い期間だけであって、この先はどんどん消費されていくだけなのだろうなって。
ずっとお店でナンバーワンをキープしていたのですが、年齢を重ねれば重ねるほど、次から次へと若い子が入ってくる。若くて可愛い子が過剰なサービスをしたら、お客さんは絶対そっちに行くっていうのは分かっていたし。ランキングをキープする力も限界に達したので、30代ではもう絶対働けない。この先何も持たずに、社会に出て、どうやって生きていけばいいんだろう、と思っていました。
そこで色々と自己分析をしてみたんですよ。 それで、やっぱり私は自己肯定感がめちゃくちゃ低いっていうことがわかって。元々低い上に、夜の仕事をしているから、さらに下がってしまう。自分で自分の自己肯定感を下げている、ということに気づきました」
武器としての国家資格
ソープの仕事でナンバーワンを取り続けていても、自己肯定感は全く上がらなかったのだろうか?
「ナンバーワンであることに対して、変なプライドみたいのはあるんですよ。だけど結局、世間からみたら、ただ身体売ってるだけじゃないですか。存在価値としては低いので、 むしろ底辺だと思っていました」
理沙さんは、前述の通り中高一貫校の出身である。周りの友達は、恵まれた家庭で育った人が多かった。
「同じ学校のクラスメートたちは、普通に大学を卒業して、就職氷河期でも割とみんないいところに就職していました。 そういう子たちは、29歳ぐらいになれば、そこそこのキャリアを築いているわけですよ。 真っ当な生活を送っていて、結婚をして、子供がいる人とかもいて。 そうした人たちと比べて、私に勝てるものがあるのか、と言ったら何もなくて、結局お金しかないんですよね。でも、お金だってたかだか1000万円程度です。真面目にコツコツ貯金してた子たちと比べれば、同等ぐらいかもしれない。そうだったら、自分にはもう何も価値がないなって思って。自分の存在価値を少しでも上げるためにはどうしたらいいのだろう、と考えたとき、何らかの武器を身につける必要があると感じたんです」
きちんとした資格を取らないと、年齢の面でも普通には就職できないだろうと考えて、理沙さんは就職の武器となる国家資格を取ることを決意する。
「海外旅行が好きだったので、人のためになる仕事で、海外につながれる仕事がいいなぁと思って。 最初は国際看護師になろうかなって思ったんですよ。でも調べたら、まず日本で看護師の資格を取り、その後さらに海外の学校に行かなきゃいけなくて、合計で確か7年ぐらい必要だったんですね。私は当時29歳だったから、今から7年って考えたらちょっと無理だな・・・と思い、却下しました」
そんな折、友人で放射線技師として働いている人がおり、その影響もあって、ある医療関連の国家資格に関心を持った。
「この資格にしようと決めて、29歳から専門学校に行きました。3年間で資格を取って、無事に就職して現在に至る、という感じです。32歳ぐらいで就職活動をした時には、履歴書が空白でした。でも私は海外が好きだったから『バックパッカーで世界を渡り歩いていた』ということで押し通しました。 海外で培った経験値とコミュニケーション力を活用して、色々なことに興味を持って仕事ができます、ということを売りにして、就職活動に臨みました。そうしたら、希望したところにすぐ入れました」
就職して以来、風俗の仕事には一度も戻っていない。
依存への自覚、そして結婚
改めて、彼氏に言われるがままにソープで働いていた当時の自分を振り返ると、「人に流されるタイプだった」と感じている。
「結局、私は人に流されるタイプなんですよ。彼氏と別れた後も、男性がいないと生活ができない感じの人になってしまっていて。ソープの仕事をやめてからも、金銭感覚がズレたままで、男性に対して「私がお金出すよ」とか「これ買ってあげるよ」みたいな対応をやってしまいがちでした。
結婚していた頃は、彼がお金の管理を全部していたので、自分の手元に何千万のお金があるっていう感覚が全然なかったんですよね。 だから離婚後、毎日10万稼いで、そのうちの7万を彼に振り込んでいたように、お金の価値を全く分かっていなかった。今では感覚的におかしいとわかるのですが、そうなるまでに結構年月を要しました。
男性に主導権を握られやすい傾向についても、自分で気づくようになりました。彼と別れた後に付き合った人が、彼と性格がそっくりだなと感じて、苦しくなったんですよね。『なんかこれ、どこかで味わった感覚と一緒だな』『これは良くないな』って気付いて。 その人と別れた後は、意識して1~2年ほど、彼氏がいない期間を作りました」
自分が無意識のうちに取っている行動や思考のパターンについて、自分一人の力で自己分析をして気づけるという人は、なかなかいないはずだ。夜の世界で生きている女性の中には、同じような相手と繰り返し付き合い、何度も同じように苦しんでしまう、というループにハマってしまう人が少なくない。理沙さんは、自分一人の力で気づいて、立ち止まることができた。
「彼氏のいない期間を作った後、やっぱり結婚はしたいなって思ったので、普通に婚活サイトに登録して、出会いは求めてましたね」
一回やってしまったことは、もう二度と戻らない
40歳のときに、現在の夫と結婚した。夫には、過去にソープの仕事をしていたことは、一切話していない。...
