日本テレビ「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」の大人気コーナー「吹奏楽の旅」でも話題となった東京の八王子学園八王子高校吹奏楽部、通称「八学吹部(はちがくすいぶ)」。
オザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)には、番組だけでは紹介しきれなかった青春の日々が記されている。
吹奏楽にすべてをかけた当時のことをどう思っているのか、創部初の全国大会金賞を受賞した部員たちに話を聞いた。
悲願の全国大会金賞を受賞した八学吹部
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールに出場することを目指しながらも、八学はさまざまな大会で5年間「負け」続けた。
そして迎えた2024年。八学は東京都大会でついに悲願の全国大会出場をつかみ取り、さらに、全国大会では創部初となる最高賞の金賞を受賞したのだった。
「笑ってコラえて」の番組内では、東京都代表に選ばれた瞬間、さらに全国大会で金賞を受賞した瞬間に、ステージ上に代表者として出ていた八学の男子2人が熱いハグをし、嬉し涙を流す姿が視聴者の感動を呼んだ。
その男子たち——コントラバス担当の部長・飛川希(とびかわのぞみ)くんとトロンボーン担当の学生指揮者・田代海人くん(いずれも当時3年生)が経験した青春と挑戦の物語はノンフィクション書籍『吹部ノート 12分間の青春』(日本ビジネスプレス)に詳しく記されている。
また、彼らの同期で、副部長だったファゴット担当の土方稜香(ひじかたいちか)さんとサックス担当の黒澤あかりさんのエピソードも描かれている。
超満員のホールで奏でられた「青春の音楽」
さて、「笑ってコラえて!」の中でも映像で紹介されていたが、八学吹部は3月23日、定期演奏会を開催した。すでに学校の卒業式も終わっており、飛川くんたち3年生にとっては高校生活最後のステージだった。

立ち見が出るほどの超満員のホールで1日に2公演をおこない、第2公演では全国大会金賞に輝いた自由曲《吹奏楽のための交響曲「モンタージュ」》(ピーター・グレイアム作曲)も披露した。
コンクールメンバー55人の個々の演奏技術の高さはもちろん、それぞれの音と思いが融合する一体感や集中力、そこから生まれるサウンドのきらめきは、全国大会金賞にふさわしい感動的なものだった。
音符のひとつひとつまで神経を行き渡らせ、数え切れないくらい繰り返し練習してきた曲だ。だが、もう同じメンバーでこの曲を演奏することはないだろう。
演奏の途中で、指揮をする顧問の髙梨晃先生はギュッと目を閉じて感極まった表情を見せ、メンバーの頬にも涙が光っていた。
高校時代だからこそできる、高校生だからこそ奏でられる「青春の音楽」がそこにはあった。

定期演奏会のラストでは飛川くんと田代くんが3度目の、そして、最後のハグを見せ、3年生ひとりひとりが万雷の拍手を浴びながらステージを後にした。
『吹部ノート 12分間の青春』の後日談
終演後、いわば『吹部ノート 12分間の青春』の後日談のような形で飛川くん、田代くん、土方さん、黒澤さんの4人にインタビューをした。

まず、部長を務めた飛川くんは定期演奏会の感想をこう語ってくれた。
「客席からの拍手の圧がすごくて、幸せを感じました。《モンタージュ》を演奏するのもこれが最後。練習してきたことや大会のことなど、ひとつひとつを思い出し、噛みしめながら演奏しました」
その《モンタージュ》は田代くんが「やりたい」と提案した曲だが、定期演奏会でクライマックスに演奏された《交響詩「ローマの松」》(オットリーノ・レスピーギ作曲)も実は田代くんのリクエストが実現したものだった。
「《モンタージュ》と並んでコンクールの自由曲にしたいと思うくらい大好きな曲。最後に思いっきり吹けて、3年間の吹奏楽生活の集大成を味わうことができました。客席も立ち見が出るほどの満員で、『きっともう一生こんな景色を見ることはないんだろうな』と感慨深かったです」
土方さんは、《モンタージュ》のファゴットの演奏でうまくいかない部分があったという。
「全国大会でも完璧に演奏できなかったので、定期演奏会こそはと思っていたんですけど、ちょっと残念でした。演奏中は髙梨先生が指揮をしながら泣いていたのが印象的でした。《モンタージュ》はちょうど1年前の定期演奏会で初披露した曲でもあります。それが自由曲になり、全国大会でも演奏でき、1年かけてまたこのステージで演奏できた。もう演奏できないのがちょっと寂しいですね。それに、もう明日から楽器吹かないんだな、みんなでチューニングをすることもないんだな、と思うと悲しくて、今日はずっと泣き続けている変な人になってしまいました(笑)」

東京の名門、小平市立小平第三中学校吹奏楽部を経て八学にやってきた黒澤さんは、3年間の部活動生活をこんなふうに振り返った。
「中学のときと同じ吹奏楽をやって、同じ3年間なのに、高校時代はあっという間でした。八学に来て、こんなにいろんな考え方をする人がいるんだなということもわかりましたし、自分は演奏面でも知識でも足りないところがあると気づかされました。そして、吹奏楽は知れば知るほど楽しいとわかった3年間でもありました」

誰かに挑戦する勇気を与える物語
振り返ると、彼らはひたすら挑戦し続けた代だった。最終的には全国大会で最高賞を手にすることができたが、それまでは「負け」てばかり。悔しさと涙に塗りこめられた日々を送ってきた。
挑戦の先頭に立ち、みんなを鼓舞してきた田代くんはこう語る。
「『同じことをして負けるなら、挑戦して負けたほうがいい』というのが僕の信念でしたし、先生やみんなにもそう伝えました。結果的に僕たちは『勝つ』ことができましたが、挑戦にはリスクが伴います。当時は、未来がどうなるのかわからないまま頑張っていて、先が見えない恐怖もありました。ただ、やっぱりリスクをとってでも挑戦しないと望むものはつかめない。
今回、僕たちの軌跡が『吹部ノート 12分間の青春』という本になったことは嬉しいですし、この本を通じて挑戦することの大切さが全国に広がっていくことを願っています」

田代くんの盟友である飛川くんも同じ思いを口にした。
「よく『青春の1ページ』と言われますけど、『吹部ノート 12分間の青春』はまさに僕たちの青春がぎゅっと詰め込まれた本です。僕自身、負け続けて悩んでいたときに、『改革を起こした人や、不可能を可能にした人はどんなことを考えて、どんなことを実行していたんだろう?』と気になりました。もしも、挑戦したい人と思っている人に、この本を通じて僕たちの思いや青春の記録が届き、一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しいです」
人間とは不思議なもので、誰かが真摯に頑張っている姿を目にすると、自分も同じように頑張りたくなるものだ。「負け」続けた八王子学園八王子高校吹奏楽部が見事に栄冠をつかんだ実話は、きっと飛川くんや田代くんが願うとおり、一歩を踏み出すことに躊躇している誰かの背中を押し、挑戦する勇気を与えることだろう。

ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。

記事、映像、音声など。全てのコンテンツが閲覧可能な月額サブスクリプションサービスです。
🔰シンクロナスの楽しみ方
全国の中学高校の吹奏楽部員、OBを中心に“泣ける"と圧倒的な支持を集めた『吹部ノート』。目指すは「吹奏楽の甲子園」。ノートに綴られた感動のドラマだけでなく、日頃の練習風景や、強豪校の指導方法、演奏技術向上つながるノウハウ、質問応答のコーナーまで。記事だけではなく、動画で、音声で、お届けします!
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。