結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
前回から引き続き、セックスレスからの夫の不倫に関するご相談への回答をお送りします。
「自己信頼感」を取り戻して、自分が望むあり方を考える
夫の不倫を知ってから辛い日々が続いているというちひろさん。
これからどうしていけば良いのか? というご相談に、こんな時は「どうするのか?」を決めようとするのではなく、「どうしたいのか?」を決められる状態に戻ることが大切、というお話をしてきました。
後半となる今回は、「これから」を決めるために必要なプロセスについて考えてみたいと思います。
これからの事を考えると不安になる
これから起こることは誰にも分かりません。わからないから私たちは、未来の出来事を予測することで、不測の事態に備えようとします。未来を予測するには、過去の出来事を参照する事が役に立ちますし、思いがけない事態に備えるには、プラス思考よりマイナス思考が有効です。
不安に感じることのほとんどは起こらない、と言われますが、私たちは「不安」という感情を使って、何が起こるか分からない未来の対策を講じたり、心の準備を整えます。
「また、喧嘩になってしまうのでないか」
「今度も約束を破られるのではないか」
こんな風に考えるのも、不安な気持ちになるのも、ある意味自然な事なのかもしれません。
いっぽう、不安ばかりでは前を向いて歩くことが難しいもの。不安な気持ちを抱きつつも「大丈夫、なんとかなる」と思えることが大切で、この感覚を取り戻すことが、これからどうしたいのか?を決められるようになる上で、とても重要です。
私なら大丈夫、と思えているか
不安な気持ちは未来に備えるために必要な感情ですが、どんなに備えを整えても不安が完全になくなることはありません。
「何があってもなんとかなるか」
そんな、根拠のない自信とも取れる心境になるには、私なら大丈夫、と自分を信頼できていること=自己信頼感が必要です。
自己信頼感は、「自分ならできる」という自己効力感、「どんな自分でも大丈夫」という自己肯定感と並び、幸せな人生を歩く上で重要な要素のひとつです。
ちひろさんは今、この「自己信頼感」が揺らいでいるのかもしれません。揺らいだ自己信頼を回復するには、信頼が揺らぐ原因となった出来事から見直す必要があります。
相手の責任まで背負わない
自己信頼を取り戻すには、自分のできることにだけ集中することが大切です。
例えば、雨が降ったからといって自分のせいだと考える人はあまりいないはずです。なぜなら、空模様を変える力を持っていないことを分かっているからです。
自己信頼感を取り戻すにはまず、自分の責任と相手の責任とをきちんと選別して、相手の責任まで負ってしまわないことが重要です。
余談ですが、インドネシアには雨を降らせたり止ませたりする祈祷の仕事があるそうで、もしかしたらそのような祈祷師たちなら空模様に責任を感じることもあるのかもしれません 。
ちひろさんはどこかで、彼の不貞も、今なおその相手と親密な関係を保っている事も、まるで自分の責任であるかのように受け止めているように見えます。夫婦であっても別の個人、相手の言動や選択に影響を与えることはできても、そのものを変えることはできません。
彼のしていることは、彼の責任。
もし、相手の負うべき責任まで背負っているとしたら、まずは持ちすぎた責任を降ろして、自分の責任範囲にだけ集中することが大切です。
不倫は誰の責任か?
前回の記事では、夫婦の間で起こる問題には、夫婦で取り組むべき課題と、夫側、妻側、それぞれが主体となって取組むべき課題とがある、というお話をしました。課題を分けてみれば、自ずとそれぞれの責任範囲が見えてきます。
夫とのセックスに違和感を抱きつつも、限界がくるまで我慢をしてしまったのは、ちひろさんの責任かもしれません。
また、好みや頻度の違いを理解して歩み寄る努力が不足していたのはふたりの責任でしょう。
では、夫であるエンテさんの責任は? というと、問題を夫婦で改善しようとするのではなく、不貞を選択したことではないでしょうか。
「セックスはほかの誰かを見つけてして欲しい」と言ってしまう程、自分を追い込んでしまったのは、ちひろさんの責任ですが、夫婦間の信頼関係を根底から壊す恐れのある選択をしたのは彼の責任です。
「私があんなことを言わなければ」と夫の不倫の責任まで、ちひろさんが背負う必要はありません。
「私」の責任にだけ集中する
「これから」の事を考える時には、自分のできる事、負うべき責任にだけ集中することが大切です。抱えきれない問題を念頭に、前向きな選択をすることは難しいからです。
「仲直りするなら他の誰かとしてもらうしかない」と考えている、ちひろさんですが、辛い気持ちを抱えつつもそれで良いと思えるなら、その選択も良いかもしれません。
ただ、もしそうであったとしても、「今の相手女性だけは耐えられない」という気持ちを、きちんと伝えることは、ちひろさんの責任として残ります。また、その気持ちを伝えた上でどうするのかは、エンテさんの選択であり、責任です。
こうしてそれぞれの責任範囲を明確に、「私」の責任にだけフォーカスをしていくと、もつれあっていた思考の整理が進んでくるはずです。思考がクリアになると、気持ちも少し軽くなってくるものです。
ただ、ここでもうひとつ、考えておきたいことがあります。それは、ちひろさんの望む「夫婦のあり方」についてです。
夫の望むカタチに寄り添うのではなく、「私」が望む夫婦のカタチについて考えておくこともまた、ちひろさんの責任だと思うのです。
「私」の望むあり方を考える
夫婦といえど元は他人。それぞれ異なる考え方と価値観、好みを持っているのは当然のことです。「違う」からこそ、不満に感じることが生まれるのも当然で、それを伝えあって互いに理解を深めていくことは、夫婦の課題であり責任でもあると思うのです。
夫婦の課題に取り組むには、それぞれ自分がどんな価値観と考え方、望む夫婦のあり方を持っているのか?を理解をしておく必要があります。自分自身が理解していない事を、相手に理解してもらえるように伝える事はできないからです。
ちひろさんは、どんな夫婦関係が理想でしたか?
どんな風に関わり、どんなパートナーシップを育みたいと考えていたのでしょう?
大好きな夫の望みに寄り添いたい、というのが「私」の望みだったのでしょうか?
もしそうであったとして、夫の望みに寄り添えるなら、「私」の我慢は我慢ではないのでしょうか?
ちひろさんのように、相手の望みに寄り添いたいと考える人は、自分の望む事は後回しか、無頓着になる傾向があります。
だからこそ、ここはまず、ちひろさん自身がどんな夫婦のカタチを望むのか? 夫にはどんな人であって欲しいのか? を見直してみることを提案したいと思います。
夫婦間の問題を解決するのは夫婦の課題であり、責任ですが、「私」がどんな生き方をしたいかを考え、実践するのは「私」の課題であり責任です。
どんな選択であれ、ちひろさん自身が幸せと思える選択が大切です。
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