結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、夫の国境を越えた5年来の不倫が発覚した、というご相談。彼が言うには、夫婦のセックスへの不満が原因だということですが……
ちひろさん(仮名)からのご相談
57歳女性です。夫は某A国人、59歳。
20年前に結婚して以来A国に住んでいましたが、その2年後にB国に移住し、以来ずっとB国に住んでいます。彼は会社員で、私は在宅で仕事をしています。娘2人(16歳と18歳)がいます。
今年の初め、彼が5年前からA国の故郷にいる女友達と不倫をしていることを知りました。
彼に言わせれば、原因は、私がセックスに応じなくなったからというものです。応じたとしても仕方なくだし、回数も足りず、不満がたまっていたそうです。
確かに、彼のセックスは私には激しすぎて、長いです。頻度も多く、今でも週2回はしたいと言います。
それでも長い間がんばって応じていたのですが、8年ほど前からは年齢的にどうしても辛く、回数を減らすようお願いしました。すると欲求不満からか、彼の私に対する日頃の言動がきつくなり、私はよけい彼としたいと思えなくなって、さらに断ることが増えました。悪循環です。
そのうち本当に辛くなって、「もうセックスは他の誰かを見つけてして欲しい」と言ったこともあります。
そうして2023年の1年間は、彼から全く求められることがなくなりました。とうとう諦められたのかと半分ほっとしたような、半分申し訳ない気持ちでいたのですが、そんな折、彼の5年来の浮気を知ることになりました。
彼女と別れてほしいと頼んでも「嫌だ」の一言で、全く取り付くしまもなく、あらゆる正当化をして私が悪いと言います。私が、他の誰かを見つけろと言ったから、そのとおりにしたのだと。現状維持がいいといって譲りません。しかも、彼女を愛しているとさえはっきり言います。(私のことも愛していると言いますが)
彼は、ほぼ毎日相手と夜遅くまでチャットをしていて、しょっちゅう携帯を気にしています。私にはA国語がわかりませんので、眼の前でビデオチャットで話すこともありました。ただ、A国語がわかる娘たちは私よりずっと先に彼の浮気を知っていて、私には言えずにいたのだそうです。
それから幾度かのひどい修羅場の後、彼が、やはり家族を壊すわけにはいかないと、相手と別れることを決めました。連絡もとらないと約束してくれたので、ここから再構築をしようということにしました。
しかしその後、私と娘2人だけで4日間ほどの短い旅行に出かけたとき、彼が相手女性をB国に呼んで会っていたことが分かったのです。
このことは非常にショッキングでした。以来不信感にまみれ、悲しみと怒りで辛い毎日です。
今はただのルームメイトとして、少なくとも娘たちが手を離れるまで一緒にやっていこうとなりました。結局彼の望む「現状維持」です。
ただ、私だけがこんなに苦しんでいるのに眼の前で彼が相手女性と楽しくチャットをしているのを見ると、悔しくて、悲しくて、やりきれません。
彼は家族を壊したくない、私のことも愛していると言いながら、実際の行動は私の気持ちを軽んじ、家族をないがしろにしており、本当に屈辱的に感じられます。
そのため彼を許せず、ほとんど諦めようとも思っています。でも、離婚までは思いきれないのです。彼に、相手女性と完全に関係を切ってもらって、時間をかけても再構築したい気持ちもあり、自分でどうしたいのか分からないでいます。
もし仲直りするならセックスの問題が残り、私が彼を満足させてあげられない以上、辛いけどやはり他の誰かとしてもらっても仕方ないのかとも思います。ただ彼の今の相手女性だけは、彼がかなり精神的に入れ込んでいることから、どうしても私には耐えられません。
とにかく、今の辛い状況を脱する糸口があれば、どうかヒントを頂きたくお願いいたします。
(妻・ちひろ、夫・エンテ)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
自分ひとりで背負わず、それぞれの課題に向き合ってみる
夫が女性と親密な交際をしていることを知ってしまった、ちひろさん。
開き直りとも取れる彼の言動に、これからどうしたいのかすらわからないという中でのご相談ですが、こんな時には「どうするか」を決めようとするのではなく、「決めることができる状態」に戻ることが大切。
そのためにはまず、問題となっている事の責任範囲を明確にするところから始める必要があります。
夫婦の課題とそれぞれの課題
夫婦の間で起こる問題には、夫婦で取り組むべき課題と、夫側、妻側、それぞれが主体となって取り組むべき課題とがあります。
例えば、夫婦ゲンカが問題になっている場合、批判をやめて共感的コミュニケーションを心掛ける、というのは夫婦で取り組むべき課題ですが、ネガティブに考えやすい思考のクセや、感情的にヒートアップしやすい性格がケンカの発端になる、あるいは深刻化させているとしたら、それはその特性を持った個人の課題と言えるのかもしれません。
もちろん、夫婦関係を改善しようとするなら、夫婦の課題に取り組むことは欠かせません。けれどその前に、未着手のままネガティブな影響を夫婦間にもたらしている個々の課題があるようなら、まずはそれぞれ、その課題に向き合うことも必要だと思うのです。
ところが、ちひろさんのご相談からは、夫婦の課題も自身の課題も、そして夫であるエンテさんの課題さえも、自分ひとりで背負っている、そんな印象を受けます。
確かに理想とするセックスの頻度や、あり方についてエンテさんは不満を感じていたわけですし、それが不貞につながったと言われれば反論しにくいのも理解できます。ただ、不満に感じるところがあったのはちひろさんも同じですから、ちひろさんだけがこの問題の責任を負うことはありません。
セックスに限らず、価値観や考え方、好みの方向性が異なることはすべての夫婦に起こりうることです。だからこそ「違うこと」を理解し、アジャストしていくための対話を重ねるのは夫婦として取り組むべき課題といえます。不満に感じることについて、相手にばかり改善を求めたり、自分ばかりがガマンを重ねていたのでは、夫婦としての課題に取り組むことはできません。
ご相談からは、相当な辛さを抱えながらも彼の欲求に応えてきたちひろさんの様子を窺い知ることができる一方で、エンテさんがこの問題とどのように向き合ってこられたのかは見えてきません。これは想像でしかないのですが、エンテさんには、ちひろさんがセックスに関してここまで辛い気持ちを抱いていたこと、その上で自身の求めに応じて長い期間、努力を重ねてきたことが、あまり見えていないのではないでしょうか?
もしそうであったとしたら、ちひろさんの課題は、感じていること(たとえそれが不満であったとしても)をきちんと伝え、対話の場をセッティングすることだったのかもしれません。
不満を感じるのは悪いことではない
「不満」を感じていることをテーブルに上げ、ちょうどよい落とし所を見つけるために対話を重ねていくことは、良好な夫婦関係を保つ上で、とても大切なことです。
いっぽう、いざ「不満」に感じる事象に直面した時、それをうまく伝えることは簡単なことではありません。つい否定的な言い方で相手を批判してしまったり、そうならないように感じている気持ちを飲み込んでしまったり。
ちひろさんはというと、どちらかといえば後者、エンテさんをがっかりさせないよう、自身の辛さや不満を飲み込んでしまう傾向があったのではないでしょうか? もちろん、そうすることが日々の安定的な生活やトラブル回避にプラスに働いていた側面もあったはずです。ただ、そのことによって心に大きな負担がかかってしまったのもまた、否定できないのではないでしょうか?
「もうセックスはほかの誰かを見つけてして欲しい」
こんな言葉が出てしまう程、ちひろさんは知らず識らずのうちに追い込まれていて、そんな心のクセは今もまた、ちひろさんを追い詰めているのではないかと心配しています。
繰り返しになりますが、問題や不満に感じていることがあるという時に、それをきちんと伝え合うことは、ふたりの関係を良好に保つために欠かせない「夫婦としての課題」です。でもその課題を実践するためにはまず、問題に感じていること、つらいことをきちんと伝える勇気が必要で、それは不満を感じている側の課題でもあるのだと思うのです。
不満を感じている側の課題
夫婦としての課題、ちひろさんの課題について考えてきましたが、ここで少し、夫であるエンテさんの課題についても触れておきましょう。
まず前提として、不満を伝える時には努めて批判的にならないよう配慮が必要です。
セックスについて満たされないところがある、それがエンテさんから見た問題でしたが、そのことを批判的ではないコミュニケーションで伝えることができていたか?には、検証が必要です。
そしてもうひとつもっとも重要なのは、自分の感じる不満と同様に、妻の不満にも耳を傾けることができていたか?ということ。どうもこの点については、エンテさん側に大きな課題が残るように思います。
夫婦間の不満というのは、それぞれの価値観や考え方、好みの違いによって生まれることが多いものです。それ故に、いっぽうの不満を解消することで、いっぽうに不満が生まれる、というケースも少なくありません。だからこそ、お互いが少しずつ歩み寄って、どちらかだけに負担がかからないよう調整していく感覚をもっておく必要があります。
問題に感じることをテーブルに上げることはできていたエンテさんですが、そこにちひろさんの意見も等しく載せることができていたか?というとそうでもなくて、これはエンテさん側の課題のひとつと言えそうです。
ネガティブな自分こそ大切な自分
ここまで、問題に直面した時のそれぞれの向き合い方について見直してきました。
問題解決のために不満を飲み込みがちなちひろさんと、自身の不満にフォーカスしやすいエンテさん。この傾向は現在も変わらず、新しい問題を引き起こしているように思います。
これからどうするのか?を決めることができるようになること、をテーマに考えてきましたが、ここはまず、ちひろさん自身が問題と向き合う時のクセを見直すことが必要。
「私がガマンすれば」と考える。そんなクセが今も、「私を苦しめている」のではないでしょうか?
夫や妻のリクエストに応えてあげたい、そう考える前提には相手のことを大切に思う気持ちがあるはずです。でもその前に、「私は私にムリをさせてはいないか?」という視点を持ってみる事も、大切なことです。
どんなに仲の良い夫婦でも元は他人、考え方も価値観も違うわけですから、お互いに不満を抱かない、なんてことはないはずです。不満があるからこそ、改善のための対話も生まれるわけで、不満を隠したまま生活をするには夫婦の時間は深く濃く、永すぎると思うのです。
だからこそ、まずはネガティブな気持ちを感じている自分の事を大切に、心に秘められた「私の声」に耳を傾けてみることが欠かせません。
これからの事を決めるのは、その次のプロセスになるのだと思うのですが、ここからは次回の記事で考えていきたいと思います。
【前回記事】「育休中で一緒にいすぎた」実家に帰って別居婚を望む妻と復縁したい【夫婦カウンセリング】
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