結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

 さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

 夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

 前回から引き続き、妻が他の男性とデートをしていたことを知ってしまった、というご相談への回答をお送りします。現在は関係修復を模索しながらも、なかなか上手くいかないとのことですが……

【前半記事】「もうあなたを“好き”になれない」別の男性を好きになったという妻と関係修復できるか?

関係修復のために、相手が必要としているものを考える

 妻であるミッコさんの浮気を発見してしまったことを機に離婚や自殺まで考えてしまったというコウジさん。

 前半の記事では、問題の捉え方と不安な気持ちへの対処法についてお伝えしました。

 後半となる今回は関係修復のために必要な視点について考えてみたいと思います。

ネガティブな感情の影響を理解する

 コウジさんがミッコさんの様子に変化を感じ始めたのは2年前。どこか態度が冷たくなり、「好きの感情はない」と言われたのが1年前。そして、職場の同僚への恋心を記した日記を見つけたのが4ヶ月前のことでした。

 コウジさんにとって、日記を見つけるまでの1年半というのは、心の中に芽生えた小さな違和感が徐々に膨らみ大きな不安へと育っていく道のりだったことでしょう。

(写真:Kseniya Ovchinnikova / Moment / Getty Images)

 思考と感情はお互いに強く影響しあっていて、ネガティブな思考は負の感情を呼び起こし、負の感情は目に入るものを実態以上にネガティブに映し出します。

 ミッコさんがコウジさんに対して「好き」を感じられなくなった背景はわかりませんが、「好き」でないことと、「嫌い」はイコールではありませんし、長い年月を共に歩く中では、心が近づく時期もあれば、離れる時期もあるものです。

 ところが、妻の態度が変わってきたこと、好きではないと言われたことなど、日増しに大きくなる不安を抱えてきたコウジさんにとって、ミッコさんの行いはひどく深刻な裏切りのようにも見えてしまったのかもしれません。

 大切なのは、今ふたりの間に起こっている問題を正確に理解することです。

 現実から目を逸らして楽観視しすぎるのもよくありませんが、実態以上に重く受け止めてしまうのもまた、避けておきたいところ。

 ここではネガティブな感情の影響から離れて、客観的な視点を取り入れることが欠かせません。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

相手の視点に立ってみる

 問題を客観的に捉えることに加えて、何がそれを引き起こしたのかを見直すことも大切です。 

 そんな風に言われると、原因はあなたにもある、と言われているように感じるかも知れませんが、ここで重要なのは問題となっていることの背景に目を向けることで、誰が悪いのかを追求することではありません

 ミッコさんの態度が変わった背景には何があるのか?

 夫婦間のコミュニケーションは充分だったか?
 自分の価値観ばかりを押し付けてはいなかったか?
 ポジティブな気持ちを伝え合う機会を持っていたか?

 と、これまでの関わり方についてチェックをしていきます。

 

 私たちは皆、それぞれの視点からそれぞれの価値観や考え方、経験してきたことを通して世界を見ています。同じ場面、同じ出来事を経験していても、必ずしも同じ景色を見ているとは限りません。

 違った景色を見ているのですから、そこで生まれる気持ちも反応も違って当然なのですが、とりわけ夫婦の間柄というのは他の誰がわかってくれなくても「あなただけはわかってほしい」という期待が生まれやすいものです。

 期待が大きいからこそ、期待が外れた時の失望もまた大きくなるもので、そんな失望の積み重ねが、ふたりの間に少しずつ溝をつくり、心が離れていく要因にもなります。

 コウジさんがミッコさんの態度に変化を感じたのが2年前ですから、それ以前にはミッコさんにとって気持ちに変化が生まれる何かがあったのではないでしょうか。

 いただいたご相談にそれ以前の情報はありませんから、ここで見立てを立てていくことは難しいのですが、「好きではないが家族として大切な存在」というミッコさんの言葉から想像するに、夫婦の関係性を大きく損なうような問題があったとは考えにくいように思います。

 簡単なことではありませんが、夫婦関係のこれまでを、相手側の視点に立って振り返ってみることは関係を改善していく上でとても大切なことだと考えています。

(写真:Jacques Julien / Moment / Getty Images)

それはなぜ必要だったのか? 問題の構造に目を向ける

 感情から距離をとって客観的に捉えてみること。
 相手側の視点からこれまでの関わり方を見つめ直してみること。

 二つの異なる視点に立ってみることで問題を立体的に捉え直すことができてきたら、もうひとつ視点を深めて「なぜそれが必要だったのか?」と、問題を構造的に捉えてみます。

 今回はミッコさん側からの考察が充分ではないので、偏った見立てになってしまう恐れもあるのですが、まずは、同僚との親密な交流がなぜ必要になったのか?という視点で考察を深めたいと思います。

 

 浮気をするのに理由なんてあるのか? 好きになっただけじゃないの? と思うかもしれません。

 確かに誰かを好きになるのに理由なんてないのかもしれませんが、それでもここは一歩下がって「好きになることの必要性」を考えます。

 なぜなら、私たちが意識的にも無意識的にも選択していることのほぼ全てには意味があって、それは自分にとって必要性があるから選ばれている、と考えているからです。

 では婚外恋愛や浮気がなぜ必要なのか?

 誰かに求められている実感が必要だったのかもしれません。役に立っている、という感覚が満たされていた可能性もあります。

 あるいは、日常から離れた非現実的な時間が欲しかったのかもしれません。

 また、誰かに甘えることや、好きと言ってもらえること、無条件に受け入れられること、助けてもらえることが必要だったのかもしれません。

 ミッコさんにとって同僚との交流がなぜ必要だったのかはわかりませんが、いずれにせよそれは彼女にとって必要だから起こったのであって、コウジさんへのダメ出しや批判のためではなかったはずです。

(写真:fizkes / iStock / Getty Images Plus)

離れた心を取り戻すための道筋

 必要だから起こったのだとすれば、不適切だからとただその関係を終わらせてしまうだけでは問題解決にはなりません。

 不倫や浮気の難しいところはここにあります。

 何を求めてその関係に入り込んでしまったのかにもよりますが、その関係によって必要性が満たされていた場合、関係を断ってしまうことで心のバランスが崩れてしまうことがあるからです。

 不適切な関係の発覚を受けて、本当に大切なものが分かった、と我に帰るように家族の元に戻ってくるケースならあまり心配をしないのですが、反省や罪悪感から関係を断ち切っている場合は要注意です。

 

 ミッコさんはどうだったのでしょう。日記の存在がコウジさんの知るところになり、何を考えどんな気持ちで転職をされたのでしょうか。

 もちろん深く反省をされているのであろうことは間違いないのですが、だからこそ心を閉ざすカタチで日々を送ってはいないか気になります。

 夫婦の関係を修復していくためには、ミッコさんが不適切と思える関係を通じて満たしていたものを、次はコウジさんや家族との日々で満たしていくことが欠かせません。

 客観的に捉えることも、相手の立場に立ってみることも、ミッコさんの心のバランスを保つことも、コウジさんから見れば、理不尽にも思えることかもしれません。それでも「妻は私を好きではない」と自分を傷つける方向にエネルギーを使うより、「妻の“必要”を満たすにはどうすれば良いか?」にフォーカスをするほうが、コウジさん自身の回復にもつながるのではないでしょうか?

 旅行やご夫婦での食事に誘うなど、それ自体は良い提案ではありますが、まずはミッコさんが必要としているものに心を寄せてみることが大切です。

 

 離れる心を近づけようと引き寄せすぎることで、かえって距離が生まれてしまう場合もあります。

 ここは無理にひっぱろうとしないで、ミッコさんのことを理解してみること、そして彼女にとって必要なことをサポートしてあげようというスタンスでいることが、ふたりの関係を修復するうえで必要なのではないでしょうか。

 繰り返しますが、簡単なことではありません。だからこそ、そうできたら現在の夫婦関係に大きな変化を与えてくれるはずです。

【次回は5月6日(月)更新予定】

【前回記事】「もうあなたを“好き”になれない」別の男性を好きになったという妻と関係修復できるか?

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