結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、妻から「好きの感情はない」と言われたというコウジさんからのご相談。その後見つけた妻の日記に書かれていた「ショックな出来事」とは……
コウジさん(仮名)からのご相談
妻が私の顔を見て話さなくなり、態度が冷たく、妻から話をされることもなくなりました。
2年前から妻の態度が冷たくなり、誘っても更年期を理由にセックスレスでした。1年前に妻に私の事を好きかどうかと聞くと「好きの感情はない。家族として大切な存在」と言われました。
妻がパート先で飲み会があると言って、終電近くに帰宅することがありました。それまでは終電近くに帰宅したことはなく、普段あまり酒を飲まないのですが、その日は相当酔って帰宅してきました。
4か月前に、妻の日記を見つけて内容を見てしまいました。そこには、パート先の既婚男性(上司か)とデートを数回して、LINE交換を毎日していること、そして、相手への恋心があることが書かれていたのです。
日記には、この状態が続くことを願い、私には嘘を突き通すつもりだと記載がありました。
日記を読んだことを妻に話しました。
妻が言うには、相手は既婚者で子供が2人おり、妻とは会社の飲み会で気が合い、相手からLINE交換を始めようと提案があったとのことでした。昨年相手からデートに誘われ、映画、食事に行き、パート先の飲み会のときは何件かの店に相手と一緒に行って、帰りが遅くなったそうです。
肉体関係はないとのことですが、相手のことを好きになったと話されました。
その後、相手とのLINEは削除しました。妻のスマホを見ながら、削除したところを私も確認しました。
妻はパート先を退職し、別のパート先を探して勤務を始めています。趣味で始めたバイオリンの教室も退会しました。
私自身の気持ちとしては、信用していたのに裏切られたというショックが大きく、再度の浮気が心配で妻を信頼できません。
会社の福利厚生でカウンセリングがあり、活用しています(ただし夫婦関係の専門ではない)。現在までに8回程度カウンセリングを受け、まずはアサーションの本を勧められましたが、それでも私の気持ちの浮き沈みが激しいため、次に安東先生の本を勧められました。
発覚当初は離婚や自殺まで考えましたが、現在は関係修復を模索しています。
私から妻を旅行や食事に誘い一緒に行動をしましたが、妻の気持ちに変化はありませんでした。妻から「発覚当初は好きになろうとしたが、もう好きになれない。現在は家族としてしか見れない」と言われました。
結婚23年目、年齢は夫婦ともに今年53歳です。結婚時に妻から子供が好きではないと言われましたが、私は1人ぐらい子供が欲しいと言って、今年の4月より大卒で社会人になる息子が1人います。
13年前に私は仕事の多忙と会社の人間関係が悪くなり、うつ病を発症し1年半休職していました。その頃は妻も育児ノイローゼ気味で家庭も大変でしたが、家事や育児は妻まかせであったと思います。
今後は、関係修復、仮面夫婦、離婚など、どうするのが良いのか分かりません。一番は関係修復を望んでいますが、上手くいかないです。
(夫・コウジ、妻・ミッコ)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
まずは不安定な心の状態を見直してみる
妻であるミッコさんの浮気を発見してしまったことを機に離婚や自殺まで考えてしまったというコウジさん。
20年以上共に歩いてきたパートナーの思いもよらない行動は相当ショックだったことでしょう。
すでにカウンセリングも受けられているということですが、状況を考えれば、まだまだ気持ちがアップダウンしてしまうのもムリはありません。
それほど、信頼していた相手の浮気というのは、心に大きなダメージをもたらします。
関係修復を望まれている、ということで、時系列も詳細にお知らせいただいていますので、今回は前半・後半と2回に分け、夫婦関係のリカバリーについて考えていきたいと思います。
それは「浮気」なのか? 認識は合っているか?
デートはしていたものの身体の関係はない。でも好きになっていた。
この状況に「それって浮気なの?」という意見も出てくるかもしれません。
「身体の関係がないならそこまで気にしなくても」
「でも、気持ちが傾いているなら嫌だよね」
と、様々な捉え方が生まれるのは、「浮気」の概念がひとつではなく、またそれぞれの価値観や考え方にも左右されるからです。
大切なのは当事者である、コウジさんミッコさんの間でこの出来事がどのように捉えられているか?ですが、ミッコさんの日記や発覚後の反応からは、少なくとも、同僚との関係が「良くないこと」という認識はあったようです。
ただその事がコウジさんをここまで傷つけることになるとは、というのもまた、正直なところではないでしょうか。
確かに、客観的に見ても起こった出来事と、それによって被る精神的なダメージとのバランスはやや不均衡に思えます。
妻が他の人を好きになった、というのは決して気分が良いことではありませんし、辛く感じるのも分かります。
ただそれでも、自死まで頭によぎるのはアンバランスです。
夫婦関係のリカバリーには、まずはこのアンバランスから見直していく必要があると思います。
不安な気持ちが事態をより深刻にする
夫婦間に起こっている問題や軋轢を正しく理解するには、心の動きに注目する必要があります。
「こんなことくらいでそんなに怒らなくても」
という声をよく聞きますが、確かに「今ここ」で起こっている出来事は些細なことなのかもしれませんが、そこに積み重なった気持ちのわだかまりがあると、思わぬ感情が溢れてきたりもするものです。
起こった事象に対して、釣り合いが取れない感情の動きや、一見アンバランスにも思える心理状態も、そこに至るまでの心の動きを見れば理解が進むものです。
コウジさんにとって、ミッコさんの日記を見つけるまでというのは、心の中に芽生えた小さな違和感が徐々に膨らみ大きな不安へと育っていく道のりだったのでしょう。
セックスを断られるようになった事、好きではないと言われた事に、いつもとは違う行動(酔って帰宅時間が遅くなる)が重なれば、最悪の事態を想像してしまっても不思議ではありません。
日増しに大きくなる不安な気持ちをベースに、密かな思いを綴った日記を見てしまったなら、そこで受ける心理的ダメージは実際に起っている事象以上に大きくなることも十分に考えられると思うのです。
でも、そうであるからこそ、ここは客観的な視点を取り入れることが重要で、もしかするとコウジさんとミッコさんの夫婦関係は、コウジさんが考えるほど深刻な状態ではないのかもしれません。
「好きではない」とはどういう状態なのか?
コウジさんが事態を重く受け止めてしまう理由のひとつは「好きの感情はない」というミッコさんの言葉でしょう。
「あなたのことは好きではない」
好きな人に言われてこれほど傷つく言葉はないのかもしれません。
でも、たとえ仲の良い夫婦であっても恋愛期のような恋焦がれる感覚をずっと抱き続けている、なんてことはあまりないのでは、とも思うのです。
コウジさんは23年の結婚生活を通して、ずっとミッコさんのことを好き、という気持ちを抱いていたでしょうか?
「はい、私はずっと妻のことが好きでした」
と、答えられるようなら、ごめんなさい、私自身がコウジさんをまだ理解できていないのかもしれません。
でも、もしかするとその「好き」は恋愛時期の情熱的な「好き」ではなくて、もっと穏やかな「好き」なのではないかと思うのです。
そして、ミッコさんの「好きの感情はない。家族として大切な存在」というのは、情熱的な「好き」は感じないけれど、家族としては大切に感じている、という穏やかな「好き」を表しているのでは、とも思うのですが、どうでしょう?
嫌いな日もあるのが夫婦
夫婦になっても恋人同士のような関係でいられるのは素敵な事です。
パートナーをずっと好きでいるための努力も、好きでいてもらえるための努力も必要なことだと思います。
いっぽうで、相手のことがどうにも嫌いになってしまう日があるのも夫婦なのではないでしょうか。
外から帰っても手を洗わない。
食器の洗い方ひとつを指摘される。
そんな日常のひとコマひとコマに行き違いを感じたり、イライラが募ったりすることもあります。
ケンカになれば配慮のない言葉を投げかけてしまう事もあるかもしれません。
仕事や育児に疲れ果てて「好き」かどうかなんて気にかける余裕もないことだってあるでしょう。
ミッコさんがコウジさんに対して「好き」を感じられなくなった背景はわかりません。同僚との親密な交流が影響している可能性も否定はできません。
でも「好き」でないことと、「嫌い」はイコールではありませんし、長い年月を共に歩く中では、心が近づく時期もあれば、離れる時期だってあるものです。
大切なのは心が離れてしまったと感じる時の対応で、そのリアクション次第で関係が改善することも、却って気持ちが遠ざかってしまう場合もあります。
離れていく心を繋ぎ止めるためは?
コウジさんにとって、ミッコさんの心が離れたように感じるのは相当な痛みでした。
痛みを感じると人はどうしてもネガティブに考えてしまいやすいものです。
「好きではない」は「嫌い」に聞こえるかもしれませんし、「家族として」を「男として見れない」と、解釈してしまうかもしれません。
ネガティブな考えは視野を狭め、不安な気持ちを増大させます。
まずここは、不安を大きくするネガティブな思考から離れることが大切。
「妻は私を好きじゃない」
から離れて、
「妻は私を大切な存在と言ってくれた」
に焦点を合わせましょう。
離れる心を近づけるための取り組みは、どこか綱引きに似ていて、引き戻そうとすればするほど、引き戻されまいとする力が働いてしまうものです。
まずは今の状況は思うほど悪くないのかもしれない、とそんな風に捉えてみること。
そこから次のステップ、夫婦関係を修復するための道筋が見えてくるのではないかと思いますが、ここからは次回、後半回で。
【次回・後編は4月15日(月)更新予定】
【前回記事】「旦那が嫌いで一緒にいると苦しい」怒りが抑えられず子どもの前でも喧嘩してしまう夫婦
夫婦関係の悩みや疑問を募集中!
夫婦関係の改善をサポートするQ&A企画『夫婦リカバリー相談室』では、皆さまから寄せられた悩みや疑問に、夫婦関係専門カウンセラー・安東秀海先生がお答えします。
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。
夫婦カウンセラー・安東秀海先生による、夫婦関係改善のヒント。不仲、不倫、離婚…… 皆さまから寄せられたご相談にお答えします!
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。