演劇、映画、本、音楽——さまざまなエンタメについて、芸人・鈴木ジェロニモがただひたすらに感想を語る。考察・分析は一切無し、実際に作品に触れて浮かんだままの言葉を書く。自由で不可解、でもなんとなく頷いてしまう、そんな「コンテンツ語り」をお届けします。 第1回(無料)を読む
今回は、全国劇場公開中のオリジナルアニメ映画『我々は宇宙人』について。


試写で観る機会をいただき、それがもう凄かったので劇場公開初日に映画館へ。新宿のTOHOシネマズが満席のため新宿バルト9へ。
観終わり、やはり凄いと思っているとひとつ前の座席にいたスポーティな男子学生風の3人組が「え、やばいやばい」「さすがに名作だろ」と、もはや笑うしかないといった様子で興奮を漏らしている。自分が制作に関わった訳でも何でもないのになぜか嬉しくなる。彼らの人生を震わせた瞬間に、立ち会った。そういう類の誉の気持ちがあった。
2回観たということで、体験としての凄みに加えて細部の説得力にも興味が踊る。鑑賞後の感想として「どちらに感情移入したか」というものが多いと思う。
〈翼〉と〈暁太郎〉という2人の出会いから大人になるまでが物語の中心として描かれており、あえて簡単に分けてしまうなら翼は客観型で、暁太郎は主観型。2人の人生が交差する中でそれぞれの喜びや苦しみ、衝突や解放、豊かさや冷たさが力強い絵で飛び出してくる。
多くの芸人仲間が観ていて、彼らの多くが暁太郎の目線で観たという。私もどちらかというとそうだ。
暁太郎は小学校低学年のときはクラスのヒーローだった。彼の独創性はヒーローにふさわしく、友人たちはヒーローとして現れた暁太郎をヒーローとして扱うことによって適切な関わりを達成する。しかし1年、2年と時が経ち、暁太郎は当たり前の存在になる。〈ヒーロー〉を見る目が、〈クラスメイト〉を見る目に変わる。暁太郎はヒーローだったから、クラスメイトとして求められる振る舞いを会得していない。バイト先でキッチンからホールにポジションが変わったのに、客を無視していつまでもハンバーガーを作っていたら、いやあなたホールでしょ、ちゃんと接客してくださいよ、と指摘されるだろう。その衝突が起きている。
しかし自分の小学生時代を思い返せば分かることだが、当時はそんな明確な役割意識を持って周囲を把握できていない。偶然ハマった人間関係はグッドでハマらなければバッドという、ガチャみたいなものだった。特に暁太郎のような主観型の人間は、私がそうだから痛いほど分かるが、察知して徐々に対応していくということが難しい。自分が変形をしないから、自分の形そのままを、周囲に受け入れてもらうしかない。
私は暁太郎とリンクしながら、暁太郎のような小学校高学年から中学にかけての他者とのすれ違いによる傷付き、というものを、私の記憶においては幸いにも喰らうことがなかった。なぜだろう。私と暁太郎の違いをあえて見出すならば、家族だろうか。
暁太郎は家族から褒められる。祖母から「暁ちゃんのことを悪く言う奴はおばあちゃんが許さない」的なことや、父から「お前はやっぱり天才だなあ」的なことを言われて育つ。愛されている。全く悪いことではないしむしろ良いことだと思う。しかし家庭よりも教室が先に社会化してしまう。去年までは、家では、ヒーローだったのに。どうしてここではヒーローじゃないんだ。どうしてクラスメイト扱いなんだ。
私の記憶では、私は家族から冷静に見られていたと思う。「あなたが良いと思ったのなら良いんじゃないですか」というようなコミュニケーションが多かった。それが居心地悪かったとかは全くなく、むしろ良かった。価値観を育てないという育て方。勝手に育ちなさいという愛し方。
さらに私は幼少期から体が大きく、幼稚園では突っ立ていた私に友人がタックルしてきてその友人が弾け飛んで怪我をして「自分がでかいということをさ、これはもうしょうがないから、ねえ」と諭されたことによって自らの無意識的な加害性への検閲が異様に厳しくなった。だから私は主観型の傾向がありながら、それと周囲との摩擦を執拗に気にした。気にしすぎて、誰とも接触しない虚空をポジティブに希求した。
大人になって、暁太郎が翼から「いつまでそんなこと言ってんだよ」的なことを言われる場面が印象的だ。暁太郎にとってショッキングなように描かれるが、私は実は、暁太郎はもっと早く、それを言って欲しかったのではないかと思う。
独創的な人は、あなたは独創的だと、あたたかくも冷たくも言われて育つ。なぜか覚えている言葉は、覚えていたくて覚えている。言わなくていいことを言い、言うべきことを言えないまま、私たちは大人になる。伝わらないという一面の夜空に、伝わったという星が光る。その光のことばかり、何度でも思い出してしまう。
【次回更新は2026年10月31日(土)正午予定】
プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

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