街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。


土曜日の夜の映画を予約して、それまでの時間を有効に使おうと映画館近くのファミレスを探す。ここいいじゃんと思って接近すると物理的に店という袋をキャパオーバーによって飛び出たような混雑具合の行列で、あー無理無理、と最初からそこを目指していない自分として足早に通り過ぎる。確か喫茶店あったよな、と過去の景色を照会してそこへ向かう。
「名前を書いてお待ちください」。ウェイティングボードには2組の待ちが書かれている。店内を見るに片付けが終わっていないだけの空席もあるのですぐ案内されるだろう、と記入。「1名でお待ちのスズキさまー」。予想通りすぐ呼ばれ、でも予想外に早くてびっくり嬉しい、みたいにあ、はいっ、と返事する。2人向かい合わせの席に1人。ソファ側に自分を、椅子側にリュックサックを座らせる。水を置きに来てくれる店員さん。「ご注文お決まりの頃お伺いしますね」。でも店内の混み具合的にこのタイミングで言ってしまったほうがいいだろう、店員さんもそう思いますよね、と眉毛で伺いながら、ドリップコーヒーのアイス、と伝える。
衝立を挟んで隣の会話が音として耳に入ってくる。私が首の長い妖怪だったら立ち上がってぐいっと見てどんな2人かすぐ分かるのかもしれないが、そうではないので音だけをぼんやり聞き続ける。するとだんだん立体的に、塗り絵のように彼らの姿が頭の中で彩度を増していく。2人ともおそらく40代くらいの、女性の方が若干年上? 保険とかの営業の、手続きがあらかた済んだ後半の雑談パートみたいな微細な緊張感と打ち解け具合。それがずっと続いている。2人とも第二の人生の友人やパートナー探しの初日、みたいなことかもしれない。一旦仮で自分の中に落とし込む。
「はま寿司は300円のグラスビールがあるから、ちょうどいいんです」。女性が言う。それまでの会話は全く立体的に入ってこなかったが、その発話だけが完全に聞き取れる。カクテルパーティ効果なのか何なのか、その話題は自分にも関係がある、と脳が判断したのだろうか。相手の男性は共感というより、ほう一体、と軽い疑問の様子。...