パパ活、海外売春、女性風俗、複数愛――。現代の日本人は「性」とどのように向き合っているのか。本企画では、性をめぐる多様なテーマを扱った書籍から、その実態や変化を読み解いていく。『風俗嬢のその後』(ちくま新書)から一部を抜粋し、性風俗で働いた女性の歩みを3回にわたって紹介する。前回は、看護師や工場の仕事と性風俗を両立し、公務員試験に向けて性風俗をやめるまでを紹介した。公務員となった彼女は、かつての仕事をどう振り返るのか。「人の役に立っている」という感覚をめぐる思いを聞く。

 
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「健常者に快く配慮してもらえるような、無難な障害者」

 性風俗の仕事をやめた一年後、二十六歳の秋に、公務員試験に無事合格した。職場では、職員の休職手続きや文書の受付などの事務を担当した。三年半ほど働いたが、現在は体調を崩して休職している。

「公務員の仕事は、もう近々、やめようと思っています。工場の仕事は一人で黙々とやれるけれど、公務員は色々な人と協力しながら進めていかないといけない。健常者に配慮してもらわないといけない。

 公務員は異動が多いので、新しく異動してきた健常者の職員には、発達障害者との関わり方に慣れてもらう必要があります。公務員は福祉の専門家ではないので、障害に対しては、一般的な認識しかない。過不足のない配慮が定着するまで、数カ月はかかる。

 それだけの時間をかけて色々なことを調整して、お互いに阿吽の呼吸ができるようになっても、一年位で人が入れ替わってしまう。大変でした……。

 障害者って、嫌われると人権がなくなるんですよ。嫌われちゃうと、配慮されにくくなる。そうなると、仕事が進められなくなる。「健常者に快く配慮してもらえるような、無難な障害者」を演じ続けるのがストレスでした」

 現在は、精神科病院の社会復帰支援課が実施しているリワーク(精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーションのプログラム)に参加している。

 そうした中で、性風俗の世界で働いていた時のことが懐かしくなって、ふと「戻りたい」と思う時もあるという。

「発達障害を持っていると、仕事でもミスが多くなってしまい、常に「すみません」と謝り続けているので、一般社会で「人の役に立っている」という感覚をなかなか得られないんですよね。一生懸命真面目に働いて、人の何倍も努力をしているつもりなのに、怒られる。

 また建前としては、健常者も障害者も平等と言われていますが、実際には健常者が圧倒的マジョリティなので、どうしても力関係が生じる。

 でも風俗の仕事であれば、自分のペースで、自分のやりやすいように仕事ができる。心身の状態が不安定な人が多いので、当日欠勤せずに、シフト通りに出勤するだけで、頼られる。一般社会に比べて、求められるレベルは高くない。発達障害の人間でも「人の役に立っている」という感覚を得られる、とても貴重な場所だと思います」

 一方で、性風俗の世界でも、「人の役に立っている」「必要とされている」という感覚を十分に得られずに悩んでいる人は少なくない。「お金を払っても必要とされたい」という気持ちでホストに通う女性に対しては、複雑な思いを抱いている。

「SNSでホストにハマって身を滅ぼしている子を見ると、こっちまで辛くなってしまいます。ホストはお金を積めば、必要としてくれて、ちやほやしてくれる。あくまで商売でやっていることですが、風俗で働く女性は愛着形成が不安定な人が多いので、染まってしまう。私はセクシュアリティがたまたまレズビアンだったのでホストにはハマりませんでしたが、そうでなかったら、ハマっていたかもしれません」

工夫しないと仕事が来ない「商売」

 三十代になり、仮に性風俗の世界に戻ったとしても、昔のようには働けないだろう、と感じている。

「怖いのは、履歴書の空白です。二十代の時は、風俗の仕事と並行して昼の仕事をしていたので、履歴書の空白は生じなかった。

 今風俗一本になると、空白ができてしまう。空白防止のために、昼のアルバイトをしようかなと思っても、うつになってキャパシティが低下しているので、若い時のように並行してできなくなった。疲れやすくなったこともあるので、かけもちはしんどいです」

 公務員の仕事を経験した後に改めて振り返ると、性風俗の仕事は「商売」だった、と感じている。

「公務員は、特に頑張らなくても仕事が来るし、給料も安定している。でも、風俗は自分が頑張らないと仕事が来ない。どういうふうに写メ日記や自撮りをしたら、ターゲットのお客さんに響くのか、といったことを考える必要がある。

 色々な経歴や事情の人がいて当たり前、という前提のある世界だったので、居心地は良かった。息がしやすかったです。ただ、現役で働いている女性には、週一日でもいいから、昼の世界との接点を作っておいたほうがいい、と伝えたいです」

坂爪真吾(さかつめ・しんご)
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、障害者の性問題の解決に取り組む非営利組織「ホワイトハンズ」を立ち上げる。脳性まひや神経難病の男性重度身体障害者に対する射精介助サービスを全国各地で実施。2015年、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」を立ち上げる。
「見えづらい」「つながりづらい」と考えられてきた風俗の世界で働く女性たちに対して、SNSでの情報発信やデジタルアウトリーチを通してつながり、弁護士とソーシャルワーカーの相談会につなぐ仕組みを構築。9年間で延べ1万人以上の女性に支援を届ける。
2025年4月、夜職従事者のための伴走AI「YOLUMINA」の開発を行う団体・ヨルミナを立ち上げる。『風俗嬢のその後』(ちくま新書)など、性と社会をテーマにした著書多数。
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