パパ活、海外売春、女性風俗、複数愛――。現代の日本人は「性」とどのように向き合っているのか。本企画では、性をめぐる多様なテーマを扱った書籍から、その実態や変化を読み解いていく。『風俗嬢のその後』(ちくま新書)から一部を抜粋し、性風俗で働いた女性の歩みを3回にわたって紹介する。前回は、学費と家賃のために性風俗で働き始め、複数の業態を経験するまでを紹介した。大学卒業後、看護師として働き始めた彼女は、仕事にどんな困難を感じ、なぜ性風俗をやめることにしたのか。
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性風俗以外のコミュニティ
働いている中で、同業の女の子とのつながりはほとんどなかった。
「接客は頭を使って疲れるので、待機時間はなるべく頭を休ませるのに使いたかった。女の子特有のグループ行動に対する苦手意識があったので、SNSでのつながりや交流もなかったです。大学のコミュニティやLGBTのコミュニティで友人がいたので、特に繋がりを求めていなかったのですが、もし風俗一本の生活だったら、同業の女の子との交流を求めていたかもしれません」
大学を卒業後、看護師の免許を取り、精神科の閉鎖病棟で働いた。
「精神科を選んだのは、発達特性でミスをしてしまったとしても、精神科なら命に関わるようなことはない、つまり人を殺さなくても済む、と考えたからです。
しかし、結局一年でやめました。他の看護師と同じようにマルチタスクをこなすことができなかった。患者のAさんに点滴を落としている間に、Bさんを検査に送り、Cさんからのナースコールに対応して、Dさんの家族に声をかけられて対応しているうちに、Aさんの点滴が終わる……という感じで、同時並行が当たり前の職場だったのですが、ポロポロタスクが抜け落ちてしまう。病棟の戦力外看護師として、いたたまれなく過ごしていました」
病院をやめた後は、アルバイトをしながら、就労移行支援事業所に通って障害者枠での仕事を探した。
「就労移行支援事業所は、たまたま市役所のポスターで見つけて、三カ月くらい通いました。看護師の資格を活かしたいという思いはあったのですが、正直難しいと思ったので、障害者枠で仕事を探すことにしました。障害に配慮してもらえる環境で働いたほうが、長い目で見て絶対に良いと思ったので。看護師としてのキャリアは諦める方向で、心の整理をしていました」
性風俗の仕事は看護師になってからも細々と続けており、障害者枠での仕事を探している間は、性感エステの店に週三日ほど出勤しながら、昼はティッシュ配りや企業の健康診断で血圧を測るバイトをした。
仕事を探し始めて半年後、食品工場の正社員として採用された。給料は手取りで約十四万円で、ボーナスは十万円程度だった。
「生活できなくはなかったけれども、ギリギリよりも余裕で黒字のほうが安心できるので、正社員になった後も、風俗の仕事は続けていました。
また工場の勤務を開始して以降、腰痛が悪化して、湿布やロキソニンなど、日々の出費がかさむようになったので、プラスアルファの収入を得る必要もありました」
食品工場の仕事は二年間続けた。その間に、障害者枠の公務員試験を受けることを決意し、勉強を始めた。ちょうど法改正によって、身体障害だけではなく、精神障害や発達障害の人も公務員試験を受けられるようになった時期だった。公務員の仕事自体には関心がなかったが、周りに公務員の友人がいて、給与と安定に魅力を感じたことも一因になった。
公務員試験に向けた勉強を開始したタイミング、二十五歳の秋で、性風俗の仕事をやめることにした。
「工場の仕事、公務員試験の勉強、風俗の三つを掛け持ちするのは辛いので、やめました。公務員の試験に何が何でも受かる、という気持ちがあったので、風俗への未練に思いを馳せている余裕はなかったです」
<次回>【性の世界を語る本 】『風俗嬢のその後』(坂爪真吾・著)#3
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、障害者の性問題の解決に取り組む非営利組織「ホワイトハンズ」を立ち上げる。脳性まひや神経難病の男性重度身体障害者に対する射精介助サービスを全国各地で実施。2015年、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」を立ち上げる。
「見えづらい」「つながりづらい」と考えられてきた風俗の世界で働く女性たちに対して、SNSでの情報発信やデジタルアウトリーチを通してつながり、弁護士とソーシャルワーカーの相談会につなぐ仕組みを構築。9年間で延べ1万人以上の女性に支援を届ける。
2025年4月、夜職従事者のための伴走AI「YOLUMINA」の開発を行う団体・ヨルミナを立ち上げる。『風俗嬢のその後』(ちくま新書)など、性と社会をテーマにした著書多数。
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