吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第77回は常総学院高等学校(茨城県)#1
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茨城県土浦市にある共学の私立高校。1983年の開校と同時に吹奏楽部が創設。当時は男子校で、1年目の部員数はわずか6人。2年目から学校は共学になり、吹奏楽部はコンクール(B部門)に初参加。4年目には関東大会(当時は東西に分かれていなかった)に初進出し、7年目には全日本吹奏楽コンクールに初出場で金賞を受賞。全国大会に通算23回出場(金賞14回)。2026年度の部員数は98人。

《全日本吹奏楽コンクールまで、あと49日——》
小林茉緒はポニーテールを揺らしながら自転車をこぎ、正門に続く坂道を登っていく。大きな瞳が夏の朝日を浴びてきらりと輝き、白い頬を透きとおった汗が伝っていった。
茉緒は東関東の名門、茨城のトップバンドとして知られる常総学院高校吹奏楽部の3年生。パートはクラリネットだ。
学校に到着すると、校舎の4階にある音楽室を目指す。もうあちこちから今年の自由曲《バレエ音楽「くるみ割り人形」より》を練習する音が聞こえてくる。楽器を奏でる仲間たちも茉緒自身も、みんな臙脂(えんじ)色のジャケットを身につけている。
茉緒はいつもの朝練の風景の中に母の面影を見る。母も常総学院の吹奏楽部で青春を過ごし、全日本吹奏楽コンクールに出場していた。きっと同じように朝からこの場所で、臙脂色のジャケットを身につけてサックスを吹いていたのだろう。
(今年は絶対にお母さんと同じ全国大会の舞台に立って、結果で恩返ししよう!)
茉緒はそう心に誓い、朝の光の中、相棒のクラリネットに息を吹き込んだ。
全国大会出場をかけた勝負の東関東大会まで、残り1カ月を切っていた。
♪
常総学院は、千葉県の習志野高校や市立柏高校と並んで「東関東の御三家」と称され、全日本吹奏楽コンクールに通算23回出場。うち14回は金賞を受賞している。
顧問となって44年目の本図智夫先生の指導から生み出される、オーケストラを思わせるような重厚で深みのある常総サウンドにはファンも多い。
2023年から昨年まで3年続けて惜しくも東関東代表を逃し、全国大会を知る部員はいなくなったが、ベテランの本図先生は焦ってもいなければ、困難も感じていなかった。
「今年はメンバーが粒ぞろいで、どのパートにも穴がない。部員たちはプレッシャーを感じているだろうけれど、東関東大会ではきっと僕の予想を超える演奏をしてくれるんじゃないかという予感がする。できる限りの努力をして、感動的な、最高の演奏がしたい。それでダメならしょうがない——」
部員たちも、本図先生の思いにこたえ、最高の《くるみ割り人形》で全国大会へのとびらを開こうと、日々音楽と向き合いつづけていた。
1年前に経験した東関東の涙
茉緒が中学校で吹奏楽部に入ったのも、常総学院に進学を決めたのも、母の影響だった。
定期演奏会のDVDを見せてもらったとき、演奏する母の姿を見て「かっこいい!」と興奮した。それだけでなく、常総学院の一体感のある演奏にも圧倒された。母からは当時の部活やコンクールの話、本図先生の話などをたくさん聞かせてもらった。
茉緒が常総学院に入りたいと言うと、全国大会を目指す厳しさを知っている母は「本当にいいの? つらい時間も多いよ」と案じてくれた。だが、茉緒の常総学院へのあこがれは強く、「がんばります!」と宣言して母の母校に飛び込んだのだった。
よく周囲から「茉緒ちゃんは猪突猛進だね」と言われるが、そのとおりの決断だった。
常総学院では、コンクールシーズンには雪組(55人のコンクールメンバー)と星組(それ以外のメンバー)に分かれて活動する。
茉緒は高1のときは星組、高2で念願の雪組となった。その時点で2年連続で全国大会出場を逃しており、部内は「今年こそ三度目の正直で全国へ!」と盛り上がっていたが、それが茉緒に強烈なプレッシャーとなってのしかかってきた。中学時代は30人前後の小編成。強豪校で頂点を目指す現実の重さを、茉緒は初めて全身で感じたのだ。
クラリネットでペアを組む先輩のサポートも受け、奏者として成長した茉緒は、東関東大会では冷静に演奏をやり遂げることができた。
ところが、表彰式の代表校発表で常総学院の名前はアナウンスされなかった。
「あれ、もう終わり? 呼ばれてないよね?」
きっと選ばれるだろうと確信していた茉緒の思考は停止した。まわりの部員たちが泣き出し、ようやく「ダメだったんだ……」と理解した。
目の前には代表に選ばれた学校がいた。歓喜に湧く者たちと、落ち込む自分たち——その落差がつらかった。
バスに乗って会場から出発したが、車内では重い沈黙が流れていた。だが、途中から先輩たちがポツポツと会話を始め、最終的にはみんなで大会を振り返りながら、泣いたり笑ったりしながら帰ってきた。
学校では保護者がバスを出迎えてくれた。その中には茉緒の母の姿もあった。
「がんばったね、お疲れさま。演奏よかったよ」
母は涙を流しながらそう言葉をかけてくれた。ほかの保護者たちも、誰の子どもであっても関係なくねぎらいの言葉をかけてくれた。保護者たちの温かさに、茉緒はまた泣いた。
みんなのために、私は輝く!
「今年は絶対、うれし泣きでバスに乗りたいよね」
高校生活最後の東関東大会をひかえて、茉緒はよく仲間たちとそう話している。
目標は東関東代表に復活し、全国大会で金賞を受賞すること。だが、個人的な目標もある。「私が輝くこと」だ。
茉緒のポジションは1st(ファースト)クラリネットのトップ奏者を支えるアシスタント、通称「1アシ」だ。トップほどの花形ではないが、「アシだってこんなにできるよ」という演奏を見せ、「あの子、輝いてるね」と思ってもらいたい。そして、常総学院の復活に貢献したい。
そのための努力も重ねてきた。
個人で始めた「部活ノート」には「毎日必ずやること」を課題として書き出し、実践した。また、「音が出ない! 鳴らない! 息が入らない!」という問題点が生まれたときは、ノートを使って自分なりに原因と対策を研究し、改善策にたどり着いた。
楽器に息を細く流すイメージが本当に大切!!
川にまじって息を入れるイメージ
部活ノートに綴った自分の言葉だけでなく、仲間たちからの言葉にも励まされてきた。
県大会前には星組の後輩たちや同期からたくさんの手紙をもらった。本番前夜はさすがに緊張で心臓がバクバクしてしまうが、合奏練習の録音を聴きながらみんなからの手紙を読むと、茉緒の心は落ち着いた。「よっしゃ、がんばるぞ!」と気合が入り、翌日の県大会ではいい演奏ができた。
次はいよいよ東関東大会だ。
母と同じ舞台に立つラストチャンス。でも、茉緒にはもうイメージは完璧にできている。
本図先生の指揮で最高の《くるみ割り人形》を披露し、茉緒は1アシとしてキラキラ輝く。表彰式の代表校発表では「常総学院高等学校」の名前が呼ばれ、みんなで喜びの声を上げる。そして、うれし泣きでバスに乗り、学校で出迎えてくれた保護者たちと喜びあうのだ。
仲間たちと本気で切磋琢磨し、支え合える常総学院に入って本当によかった、と茉緒は心から思う。
あとはもう「猪突猛進」に駆け抜けていくのみだ——あこがれ続けた場所に向かって!
※冒頭の全国大会までの残り日数は取材日から換算したものです
<次回>【吹部ノート 第78回】常総学院高等学校(茨城県)#2
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🔰シンクロナスの楽しみ方
全国の中学高校の吹奏楽部員、OBを中心に“泣ける"と圧倒的な支持を集めた『吹部ノート』。目指すは「吹奏楽の甲子園」。ノートに綴られた感動のドラマだけでなく、日頃の練習風景や、強豪校の指導方法、演奏技術向上つながるノウハウ、質問応答のコーナーまで。記事だけではなく、動画で、音声で、お届けします!
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