吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第74回は東海大学付属大阪仰星高等学校(大阪府)#2

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【前回のあらすじ】
全日本吹奏楽コンクールで初金賞に輝いた強豪・東海大大阪仰星高校吹奏楽部。だが、新部長に選ばれた八田菜愛(やつだなお)は、過去2年連続でオーディションに落選した「メンバー外(トゥッティ)」の出身だった。人一倍の悔しさを胸に抱き、歴代部長の意志を継いだ菜愛。高校生活最後のオーディションで、ついに念願のメンバー入りを果たす。

誰にも負けない吹部への愛

 例年、東海大仰星では5月におこなわれる定期演奏会を最後に、受験勉強のために引退する3年生がいる。全日本吹奏楽コンクールに初出場した2019年には、部に残る3年生のほうが少ないくらいだった。

 だが、今年は3年生全員が活動を続けると決断した。

 顧問の藤本佳宏先生はその理由のひとつが部長・八田菜愛の存在だと考えている。

「人一倍の苦労をしてきたのに、ずっと高いモチベーションを維持してきてくれた。こんな子はなかなかいない。共感力も高く、素晴らしい部長や」

 

 だが、部長だからといって、コンクールメンバーに選ばれるわけではない。オーディションは実力勝負だ。全国大会を夢見る腕自慢の新1年生もたくさん入ってきた。菜愛にとっては高校生活最大の試練だった。

 しかし、オーディションのとき、菜愛はびっくりするほど落ち着いていた。演奏にも、この2年間の成長が感じられた。文句なしのメンバー入りだった。

 

 オーディションの結果を発表したあと、藤本先生は必ず55人のコンクールメンバー一人ひとりと話すことにしている。先生は菜愛にこう言った。

「八田の演奏からは、仰星高校吹奏楽部への愛を感じた」

(私の思い、伝わってるんや……)

 菜愛は胸が熱くなった。悔しい経験もし、進む道を見失いかけたこともあったけれど、根本にあるのは「音楽が好き、部活が好き」という思いだった。定期テストなどの部活の休止期間が明けたとき、菜愛は嬉しくてスキップしていたほどだった。

 先生はさらにこう付け加えた。

「とにかく、楽しんで」

 先生の言葉は、菜愛に「音楽と部活を楽しむ」といういちばん大切なことを思い出させてくれたのだった。

 一方、メンバー入りできなかった部員のことも気がかりだった。特に同期の3年生は、高校生活最後の年に全国大会を目指すことができないのだ。

 菜愛はメンバー発表のときの村田来瑠美(くるみ)の様子を思い出した。来瑠美は同期のトランペット奏者で、幹部のひとりだった。オーディションのとき、うまく演奏できなかった来瑠美は菜愛にこう言った。

「菜愛ちゃん、ごめん。もし幹部がメンバー入りできなかったら大変になっちゃうよね」

 菜愛は胸が苦しくなった。来瑠美は悔しいはずなのに、自分の感情に溺れず、幹部やみんなのことを思ってくれている。なんて強い人だろうと思った。

 メンバーが発表され、来瑠美の名は呼ばれなかった。「一緒に出たかった!」と号泣するトランペットの仲間たちを、来瑠美は無言で抱きしめていた。その姿にも強さを感じた。

 発表の日、帰宅するとファゴットの久田彩央依(あおい)からLINEでメッセージが届いた。彩央依もオーディションで名前を呼ばれていなかった。

「おめでとう。がんばってね」とそこには書かれていた。

 菜愛も2年連続でメンバーに選ばれなかったが、選ばれた人に向けてとても「がんばって」とは言えなかった。...