吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第76回は東海大学付属大阪仰星高等学校(大阪府)#4
シリーズ最新刊『吹部ノート 第73回全日本吹奏楽コンクール』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
天真爛漫なテナー吹きの思い
あの子は入部したときからすごすぎた。
私は高1も高2もトゥッティメンバー(コンクールメンバー外)だったのに、同じテナーサックスのあの子はずっとコンクールメンバー。正直言って、悔しかった。
でも、あの子のことを一度も嫌いになったことはないし、それどころか尊敬している。
謙虚な姿勢、人柄の良さ、演奏のうまさ……。
高校で良きライバルに出会えたことを、私は心から感謝している——。
東海大学付属大阪仰星高校吹奏楽部の部長・八田菜愛(やつだなお)が語る「あの子」とは、同じく3年生の江口季(とき)のことだ。
マーチングの名門である大阪市立堀江中学校吹奏楽部の出身で、中1と中3のときには全日本マーチングコンテストで金賞を受賞。現在はマーチング係チーフ(マーチングのリーダー)を務めている。
落ち着いた雰囲気の菜愛とは対照的に、季は明るくてふざけるのが大好きな天真爛漫な性格。周囲からは「ときぷー」というあだ名で親しまれている。モットーは「睡眠は元気のもと」で、特技は早寝だ。
季の今年の目標は、吹奏楽コンクールはもちろん、マーチングコンテストでも全国大会に出場し、W金賞を受賞することだ。
コンクールメンバー55人の枠に入れなかった同期もいる。悔しさを抱えた仲間たちといっしょに全日本マーチングコンテストの会場、大阪城ホールで仰星サウンドを響かせるのだ。
「今年、マーチングに参加する3年生が多いのは、江口のおかげやな」
顧問の藤本佳宏先生も、季のリーダーシップや人望を高く評価している。
中学時代に果たせなかった「吹奏楽の甲子園」出場という夢をいだいて、季が東海大仰星の門を叩いたのは2024年春のことだった。
入部早々、さっそくチャンスが巡ってきた。コンクールとマーチング、どちらもメンバーに選ばれたのだ。
だが、手放しには喜べなかった。東海大仰星のテナーサックスの枠は例年2名。オーディションの結果、その年は季と3年生で部長だった辨野心望(べんのここみ)先輩が選ばれた。一方、同期の菜愛、2年生の戸川悠愛(ゆめ)先輩は涙をのんだのだ。
「複雑やな……」
いつも明るく元気な季が、暗い気持ちになりかけた。
そのとき、心望先輩からLINEでこんなメッセージが届いた。
自分も1年の時そうやったから気持ちわかるけど、その先輩の分まで取り組むのがやっぱり1番やと思う! 一緒に支え合いながら頑張っていこうね!
それを読んで季の気持ちは一瞬で晴れた。先輩の言うとおりだ!
心からの感謝を込めて、季はそう返信した。
尊敬する心望先輩と予選を勝ち抜き、全国大会に出場することができた。
前夜は緊張もせず、得意の「早寝」でぐっすり睡眠もとれた。本番は最高の演奏になった。
「ここが夢の舞台なんや!」
幸せな12分間は一瞬で過ぎ去った。だが、結果は銀賞。季は悔しさに号泣した。
翌年、高2のコンクールでは、オーディションで季と悠愛先輩がテナーサックス担当に選ばれた。同期の菜愛はまたしてもメンバー外だった。
(自分が菜愛ちゃんやったら、悔しくてたまらないやろうな……)と季は思った。
だが、菜愛は感情をこらえ、トゥッティメンバーのリーダーとして応援動画を送ってくれたり、お守りを作ってくれたりもした。そのおかげで季は迷いを振り払い、コンクールに挑むことができた。
東海大仰星は全国大会に出場。季はこの年もぐっすり眠って本番に臨んだ。結果は創部初の全国大会金賞。菜愛たちトゥッティメンバーも一緒に獲得した快挙だと季は思った。
私たちの「12分間」を奏でよう
今年、高校生活最後のオーディションを受けた後、季は蒼ざめていた。「3年目にしてメンバー落ちしたくない!」という焦りと緊張から、すべての音が震えてしまったのだ。...
