吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第72回は出雲北陵高等学校(島根県)#4
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出雲北陵高校吹奏楽部のホルンパートを支えるのは、高3の米田舞衣と岩成那佳(いわなりともか)。「おてんば」と「聖母」という対照的なキャラでありながら、自他ともに認める“ニコイチ”のふたりは、高1から「上吹きコンビ」として難曲に挑んできた。長くて地味な基礎練習で地力を蓄え、度重なる全国大会での悔しさを糧に、最後の夏へ向けて「全国大会金賞」の夢を重ね合わせた——。
“ホルン殺し”の難曲に立ち向かえ!
この春、コンクールの自由曲が超難曲《フェスティバル・バリエーション》になるのではないか、というウワサが出雲北陵高校吹奏楽部の中で流れ始めた。
「やばー。“ホルン殺し”の曲だ……」と米田舞衣は蒼ざめた。
通称《フェスバリ》は、ホルン奏者でもあった作曲者のクロード・トーマス・スミスが敢えてホルンパートに高難度のパッセージを課した曲だ。
もちろん、舞衣も《フェスバリ》を知っていたが、改めて音源を聴いて言葉を失った。
「ソロも長いし、この高い音ってハイF(高音のファ)だよね? ありえない……」
ハイDくらいなら出せる。でも、ハイFとなると異次元の領域だった。
ウワサはウワサのまま終わってほしいと願った。が、しばらくして原田実先生から「今年は背伸びをして《フェスバリ》をやります」と正式発表された。部員たちは「やばいやばい!」と大騒ぎ。ソロの多い曲でもあるので、ソロ担当パートの部員は興奮していた。
舞衣は配られた楽譜を開いてみた。
「これってホルンの楽譜じゃないんじゃない?」
いままで目にしたことがない音符の並びに絶望した。
「ともかく……あのやばいとこ、吹いてみよう」
試しに、ハイFが出てくる難所をホルンで奏でてみた。
「……あ」
舞衣は言葉を失った。音源で聴いたり、楽譜で見たりする以上の、目がくらむほど高い山がそびえ立っていた。本当に自分はその山を越えていくことができるのだろうか?
舞衣と「上吹きコンビ」を組んでいる那佳も、当初は「原田先生っぽくない曲だし、《フェスバリ》はないでしょ」と高をくくっていた。それだけに、自由曲決定を知ったときには仰天した。さらに、原田先生からの言葉が追い打ちをかけた。
「この曲はホルンの音で決まるぞ」
身震いするほどプレッシャーのかかる言葉だ。特に、曲の冒頭はホルンパートの斉奏で始まる。ここが決まるかどうかが演奏全体の出来を左右する。
「もし音を外したらどうしよう……」と那佳は不安に襲われた。
だが、そこでつぶれる上吹きコンビではない。楽譜を前に、舞衣と那佳は語り合った。
「《フェスバリ》をやるからには、全国大会で金賞とりたいよね」
「やっぱ全国金賞は諦めたくない!」
ふたりは手を取り合い、そびえ立つ《フェスバリ》という山に登り始めた。
どちらが吹いても「ふたりのソロ」
5月の定期演奏会で、出雲北陵は初めて《フェスバリ》の演奏を披露した。那佳はホルンを吹きながら「悪い意味ですごい演奏だな」と思った。
「このままだったら、中国大会で落ちるかもしれん。頑張らんといけんな……」
演奏することがここまでしんどく感じる曲は初めてだった。...