吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第70回は出雲北陵高等学校(島根県)#2
シリーズ最新刊『吹部ノート 第73回全日本吹奏楽コンクール』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽王国・出雲で「W全国大会ゴールド金賞」を目指す出雲北陵高校吹奏楽部。部長とドラムメジャーの重責を担う広島出身の本田友華は、念願のアルトサックスに戻れた喜びもつかの間、強豪校を率いる不安に襲われる。かつて中学時代に部長として「ダメなことはダメと言えなかった」後悔を胸に、彼女は覚悟を決めたのだった——。
サファリパークの23人
「今年の23人の3年生はまるでサファリパークみたいだ」
顧問の竹内康貴先生はそう思っていた。
個性的で、活力があふれている。思いがぶつかり合うこともあるが、基本は前向き。これまでの出雲北陵にはなかったタイプの学年だ。だから、動物たちが自然に近い状態でいきいきと活動するサファリパークのような部活にしたい、と竹内先生は考えていた。
春になり、進級した現在の3年生たちが部長の友華を中心に考え出した今年のスローガンが「奮迅」だ。言うまでもなく、由来は「獅子奮迅」。目標に向かってライオンのような勢いで取り組むという意味だ。さらに、友華たちは「W全国大会ゴールド金賞」という目標に食らいつき、必ず自分たちのものにする、という思いも込めていた。
まさにサファリパーク的な3年生にはぴったりのスローガンだった。
しかし、「奮迅」の持つ激しいイメージとは違い、出雲北陵の日々の練習は一見すると地味だ。朝練はほぼ基礎練習のみ。午後の練習でもまた基礎練習。おおよそ全体の練習時間の3分の2ほどがロングトーンやスケール練習などの基礎練習なのだ。
「なんでこんなに基礎練ばっかやるの?」と入部当初に友華は思ったものだ。
しかし、しばらくして「基礎で学んだことを意識したら、合奏にも応用できるんだ」と気づき、それからは積極的に基礎練習に取り組めるようになった。
実は、それこそが御年73歳となった原田実先生が、名門・出雲一中の顧問だったときから変わらず続けてきた指導法だった。基礎力があればこそサウンドが磨かれ、どんな曲でも対応できる——それが原田先生のポリシーだった。
そして、もうひとつのポリシーが、55人のコンクールメンバーを選ぶためのオーディションはせず、3年生はすべてメンバーに入れる、というものだ。原田先生には、いかに3年生たちが努力を積み重ね、顧問も含めて苦楽をともにしてきたかがわかっている。それも先生が出雲一中時代からやってきたことだった。
高1のときから数えて3回目のコンクールメンバーとなった友華、そして、仲間たちの「奮迅」がいよいよ始まろうとしていた。
「いくじなし」の向こう側
今年は38人もの新入部員を迎え、歴代最多の82人体制となった。マーチングコンテストも初めて上限人数で挑める。しかし、友華は楽観はしていない。
入部時の友華の目標だったW全国大会出場は2年連続で果たしたが、コンクールは2年とも銅賞。マーチングコンテストは2年とも銀賞。悔しい経験が続いていたのだ。
昨年の全日本吹奏楽コンクールの表彰式で「出雲北陵高等学校——銅賞」というアナウンスを聴いたとき、友華はこう思った。
「ああ、またか……。コンクールに挑戦できるのは残り1回だけか」
また同じ思いはしたくない。高校生活、もう後がない。
しかし、友華の目の前は壁だらけだった。...
