演劇、映画、本、音楽——さまざまなエンタメについて、芸人・鈴木ジェロニモがただひたすらに感想を語る。考察・分析は一切無し、実際に作品に触れて浮かんだままの言葉を書く。自由で不可解、でもなんとなく頷いてしまう、そんな「コンテンツ語り」をお届けします。 第1回(無料)を読む

今回は、港区・赤坂の草月ホールで開催された、第7回かが屋単独ライブ『かが屋の大カロ貝展3』について。

 

 かが屋さんの第7回単独ライブ『かが屋の大カロ貝展3』を観に行った。

 会場の草月ホールはどの最寄駅からも少し歩く、と記憶していたので少し早めを意識して電車に乗る。するとさらに少し早く着いて少し時間が余る。しかし喫茶店に入るにしては少しすぎる。そういえば、とGoogleマップを眺める。草月ホールの周辺には緑色、つまり公園的なエリアがいくつかあった。道を挟んで反対側は「迎賓館赤坂離宮」と言うらしく、名前の荘厳さ通り高い塀のようなものに囲まれていてこちらからはフラッと入れそうにない。ホールの隣に「高橋是清翁記念公園」。あえて深く調べない。少し、の時間を利用して、遠回りしながらその公園を目指そう。

 しかし。公園だけを目的にするにはその周辺はあまりにも魅力的。大きいマンションが新しさよりも伝統を重んじるような佇まいで森のように見惚れる。反対側には銀色の近代的な造り。周辺に大きくて平たい石が、明らかに何らかの意図を持っていくつか並べられている。マンション、いや、事務所かな。事務所、と狙いをつけておみくじのようにゆっくり入り口を視界に入れる。現れる入り口。ガラス戸の奥に効率的な郵便受けがいくつか設置されていて、マンションか事務所か、ちょうど分からない。なんだよおもしれーじゃん。楽しんでいたら5月なのに蒸し暑い。公園の気分じゃなくなって、少し、の時間は開場後すぐの客席で涼むことに充てさせていただきます。

 2階席。しばらくもぞもぞしていると、おそらく隣の席の人が来て、何やら私の視界に食い込むように近づいてくる。ん、なんだろう。隣人の領域に何か迷惑をかけてしまったか。でも大抵こういう違和感は知り合いの悪戯だったというハッピーエンドが多い。だから大丈夫でしょう、とやや安心寄りに顔を上げる。ん、ああっ。お疲れ様です。事務所の先輩のザ・マミィ林田さんだった。「よかった、仲間がいたよ」。はい。私も同じ気持ちだった。

 数秒後に「お疲れ様です!」。後輩芸人のムニエルが、林田さんと逆側の隣席に座る。林田さん、私、ムニエル。楽しいことがもう確定して、始まる前からわっはっは、と思う。

 開演。面白くて笑うということをかるがる飛び越えて、もはや気持ちよくなってくる。なんて体験なのだろう。情報が与えられ、理解し、手順を見逃さないよう注視する、というような堅苦しさが全くない。かが屋のおふたりが演じるキャラクターが、ただひたすらにそこに居る。舞台でありながら街の木陰であるような、コントに切り出された時間以外も確実に生きているふたりがいる。何を言ってくれても構わない。だって彼らは生きているんだから。そういう気持ちになる。

 生きていると縫い目の時間が訪れる。コンセプチュアルな建物がマンションか事務所か分からない。隣の席との緊張感が知り合いだと分かった瞬間にほぐれる。そういう縫い目が私たちの日々を繋ぎ合わせている。コントとして現れた縫い目の向こうに広がる絨毯。そこで寛ぐ想像が、私を気持ちよくさせたのだと思う。

かが屋さんのマネージャーさんが撮ってくださった良い写真。左上から時計回りに、サルゴリラ赤羽さん、ザ・マミィ林田さん、私、サルゴリラ児玉さん、かが屋賀屋さん、かが屋加賀さん、ムニエル。楽屋の照明について、林田さんの気づきがあり、いつかどこかで話したい。
終演後。林田さんが「ごはんもう食べた?」と誘ってくださり、ムニエルと一緒に3人で食事へ。メニューに「アイスバイン」とあって、おもしれーじゃんと注文。アイスだから冷たいのかな、などと盛り上がっていると鉄板に乗った骨付き肉が出て来て笑う。笑いながら食べる。うまっ。柔らかさの中に香りが宿っている。遠くで優しくされたような初めての気持ち。「次またどこかでアイスバインを見つけたら必ず注文しよう」。守りたい約束がひとつ増えた。

【次回更新は2026年7月4日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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