街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。(連載の詳細はこちら)

「これ以前の動画と比べて下の歯が異常に茶色になってるけど何かあったんか」。YouTubeのコメント欄。「ONICHAの味を説明する」と題した動画。iPhoneのカメラ機能や編集アプリやYouTubeの画質の向上は、私の歯の色を以前より明瞭に視聴者へ伝えている。
歯の色は正直言って油断していた。私はコーヒーやお茶を頻繁に飲むので、ステインと呼ばれる着色汚れが歯に付きやすい。磨いても落ちないので歯医者に行くしかなく、けれどまあ前歯の下の2本くらいだし見えないでしょ、と高を括っていた。
そんな中でのコメント。なんだよむかつくなあ、と思うこともできたかもしれない。しかしそのコメントを目にした瞬間の自分の心情は意外にも、あっオーケーじゃあいいよ歯医者行くよ、と順応した。いい加減手をつけるべき事柄の締切を知らせるように、そのコメントは許せる範囲の乱暴さで私の背中を行動へ押した。
数年ぶりの歯医者。レントゲンを撮り、院長先生の話を聞く。「鈴木さん、とても良い歯をしてますね」。ああ、ありがとうございます。ステインをコメント欄で指摘されて来たくせに、歯には自信があった。小学校1年生で学校のよい歯のコンクール的なものに選ばれ、学年を代表して賞状をもらった。以降6年連続最終候補まで選出され、1年生のときに受賞してるから他の人に譲っていいよね、みたいな忖度誘導をむしろ誇らしい気持ちで毎年承諾し続けた。だから私は歯の良さにおいて、自分を生まれながらの王族のように気高く扱った。
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