演劇、映画、本、音楽——さまざまなエンタメについて、芸人・鈴木ジェロニモがただひたすらに感想を語る。考察・分析は一切無し、実際に作品に触れて浮かんだままの言葉を書く。自由で不可解、でもなんとなく頷いてしまう、そんな「コンテンツ語り」をお届けします。連載の詳細はこちら

今回は、ロロによる演劇公演『ウルトラソウルメイト』について。

 

 ロロ『ウルトラソウルメイト』を観た。

 池袋の東京芸術劇場。起きたとき降っていた雨が止んでいて、じゃあ折り畳み傘がちょうどいいと持参して家を出るとまあまあ降ってきてそれなら普通の傘が良かったんだけどと思いながら電車に乗り、池袋で降りる。

 開演まで30分。まあまだ良いでしょうとコンビニで草餅を買って広場、傘に隠れて食べてから建物の中へ。念のため、とトイレに行ってから受付。10分前。何に何分かかったのか分からず、しかしおそらく全ての動作が「あと30分」というゆとりによって優雅化したのだろうと結論づいて座席へ。

「場内大変混み合っておりまして、あちらのお席いかがでしょう」。係の方がちょうど一席空いている椅子を教えてくれる。その通り満席の椅子の間をアッ、スッ、アッアッ、スイマセンスイマセン、アッスイマセン、と自分のふくらはぎの太さに辟易しながら通り抜け着席。

 ようやく落ち着いて舞台を見ると磨かれた洞窟のようにどあーんとひらけている。舞台という毛布が客席にゆっくり被さってくるような優しい迫力。自分なりの観劇姿勢をもぞもぞ整えている間に音と光が降りて、開演。

 見終わってぐおーんと体を伸ばし、それによって全身に感慨が来る。出るとロロのスタッフの方がいらっしゃる。「ジェロニモさん、ありがとうございます。よろしければ楽屋ご案内します」。あっありがとうございます。以前ロロの公演に出演させていただいたことがあり、それ以来ロロの皆さんは仲間のように迎えてくださる。

 通路をすり抜けて舞台裏つまり楽屋前に着くと、出演されていたそれぞれの俳優さんごとに島ができていて、にこにこ、どきどき、話している。わあどうしよう、と一瞬たじろぐ。するとご挨拶を終えたであろう関係者のお一人がこちらの出入り口に向かって戻ってくる。あれ、たぶん、お顔をお見かけしたことがあるような。直接お話ししたことはなく、でも会うということをしていなかっただけで会う以外の全てをしたような親近感のある、そうだ脚本家の方だ。挨拶するぞ、という気持ちの矛先が出演者の方々よりも先にその方に向かい、えいやっ、と声をかける。

 あのすみません、〇〇さんですか? わたし鈴木ジェロニモと言いまして……。言い終わる前に「ああ!」とにこやかに返してくださる。「前回ロロの『まれな人』でアフタートークに出てらっしゃいましたよね?」。あっはい。「僕それを観ていて。過去は夜空の星のように頭の上に並んでいる、というお話がすごく良くて」。ああ、ありがとうございます。「今回のロロの作品にも繋がってるんじゃないかと思ったんです」。

 そんなわけない、とも、そうですね、とも言えない、それについては一度考えてみたい、という気持ちで、ふう、と受け止める。謙遜や自慢ではなく、そういうことが確かにあると思う。

 いるのにいないみたい。いないのにいるみたい。過去なのに未来みたい。未来なのに過去みたい。認識とも言い換えられる私の魂を中心として、それ以外の全ては魂から距離をとって、まるで星のように点在している。自分の身体ですら、魂そのものではないから距離がある。カレーを食べるとき私の身体は魂に近いが、サッカーをするとき私の身体は魂から遠い。満員電車で隣り合う他者とはあんなに身体が近いのに、ゆるし合っていないから魂は谷底のように遠い。

 終演の瞬間、誰もいなくなった舞台に、私は全員を見た。いないのにいる。いや、いないからいる。忘れない、ちがう、無限回思い出す。もしかしたら魂が重なることを「思い出す」と言うのかもしれない。ウルトラソウルメイト。時間を超越した魂の友人たち。美しすぎて透明になった彼らはきっと写真には映らない。友人なのに、友人だから、今はそこにはいないのだ。

終演後、亀島さんとお話しできて感想をお伝えする。以前ご一緒したときに私が2ℓの水を飲んでいただけで「すごいなあ、かっこいい」と褒めてくださった優しさそのままに、にこにこ話してくださる。「三浦には会いました?」。あ、いやまだお会いできてなくて。「あれえ、どこだろう」。なぜかそこにいないというのがいかにも三浦さんらしく、嬉しかった。
外食で食べるスパゲッティの茹で加減に家でやるとどうしてもならない。食べるまで忘れていて、食べる度に思い出す。
ロロ新作本公演『ウルトラソウルメイト』
脚本・演出:三浦直之(ロロ)
出演:亀島一徳(ロロ)、篠崎大悟(ロロ)、荒木知佳、大場みなみ、門田宗大、新名基浩、野口詩央(劇団かもめんたる)
日程:2026年5月15日(金)〜2026年5月24日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
🔗ロロ オフィシャルサイト

【次回更新は2026年6月6日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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