演劇、映画、本、音楽——さまざまなエンタメについて、芸人・鈴木ジェロニモがただひたすらに感想を語る。考察・分析は一切無し、実際に作品に触れて浮かんだままの言葉を書く。自由で不可解、でもなんとなく頷いてしまう、そんな「コンテンツ語り」をお届けします。

今回は7月17日公開のホラー映画『チルド』について。連載の詳細はこちら

 

 映画『チルド』を試写で観させていただいた。

 試写室、と文面にあった場所に行く。ガラス張りのビルに細く入館すると奥に案内され、そこに試写室がある。その空間はとても良い視聴覚室いや三分の一映画館と言えば伝わるだろうか。まるっきり映画館と同じ造りかというとそうではなく、席数は教室の椅子を横長に並べ直したような広がりで、けれど奥行きはそんなにない。映写機とスクリーンの間に横に長く3列ほどの椅子たち。それらが柔らかそう。

 座席の、ここかな、という位置に座る。「あ、ジェロニモさん」。えっ。隣の方がなんというか知り合いの方で、試写というこっそり感に浸っていた自分の体温が、ぐんと上がる。ああーどうもどうも先日はありがとうございました。隣の方と話したい気持ちがわいわい湧き上がるも、いやしかし周りの人に聞かれてるかも、と冷ややかな自分がすぐに現れ、盛り上がる手前で引き下がる。隣の方も同じ気持ちのようで、上げすぎず下げすぎず、安いカラオケの空調みたいに会話をちょうどよくし合う。

 係の人が現れ、予告を挟まずいきなり上映。そこからは生きた魚を掴むような生々しさと鮮やかさ。観ながら私は、汁のことを思う。

 人間は生きているだけで汁が出る。自分の汁ならまだいいけれど他人の汁はすごく嫌だ。『チルド』の予告編において印象的な綺麗にパックされたサラダチキン。そこから汁はこぼれない。おにぎり。弁当。スープ。パン。形を失うその瞬間まで、コンビニは汁のこぼれを許さない。人間らしさが汁ならば、人間らしくなくなる場所がコンビニなのか。その四角い箱はまるで透明な棺だ。

 コンビニは清潔すぎてむしろ清潔でなかった時間のことを想像させる。人間は汁を拭く度に、他人の汁がどんどん許せなくなる。殺菌、消毒、アクリル板。汁のことが特に許せなかった時期を思い出す。

 殺菌の殺は殺すと書く。受け入れたくない菌を、つまりは他人の汁を殺す。私たちは当たり前に殺している。私たちは私たち以外にとって、私は私以外にとって、とても異常な存在なのかもしれない。

 観終わってトイレに行く。用を足して洗面台で手を洗う。濡れた手を拭こうと備え付けのペーパータオルを引き出す。すざっ。硬く詰まっていて止まる。もう少し力を入れる。すざざっ。一枚が引き出せるとともに、やけに綺麗なトイレにその音が響く。今こんなに綺麗ということは、もしかしてそれ以前は。恐る恐る顔を上げる。鏡に映る自分の顔が自分のような表情をした。

反射して映り込む自分ごと撮る。
撤去予定の電話ボックスのちょうど電話の幅の棚。
『チルド』
主演 染谷将太/監督・脚本 岩崎裕介/製作・配給 NOTHING NEW
2026年7月17日(金) 全国劇場公開 🔗オフィシャルサイト

【次回更新は2026年5月30日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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