街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

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鈴木ジェロニモの「耳の音」#54「着て行きます?」

 

 夏じゃんと外に出た。4月だというのに20℃代中盤から後半を記録すると天気予報のアプリが言っている。OK分かったよと半袖で打ち合わせに向かう。

 高円寺。アイスコーヒーの気分でいると相手がアイスコーヒーフロートを頼んだので、真似してさらに上乗せして、アイスコーヒーゼリーフロートを注文。「お、いいですねえ」。打ち合わせを良くしたいという気持ちが、私たちのアイスコーヒーにバニラアイスを乗せさせている。

 いい感じに打ち合わせて、この後ライブなんですよー、と外に出る。ではまたよろしくお願いします、と別れる。昼と思っていた時間は夕方に近くなって、正直言って涼しいというか、すみません、肌寒いです。

 ライブの入り時間を考えるとあと20分くらい余裕がある。高円寺。じゃあ、と心を決める。古着屋に行こう。ちょうど、パキッとしすぎていないてろっとした春らしいシャツを探したい自分がいた。薄手のシャツを買って羽織ってライブに行けたら素晴らしい。

 ああここ行ったことあるかもと1軒入って黄色っぽいベージュっぽいシャツを試着。うん、いい。いいんだけど何て言うか、あと2点足りないかなーみたいな印象。全然、買ってもいい。けれど買った場合その2点分はこっちから歩み寄ったことになるよ。自力で合格したんじゃなくて、こっちが譲歩したことになる。どうなんだろう。それってもしかしたら、入ってからが辛いかもね。全然、全然。ナイスパフォーマンスだよ。でも他の所の方がもっと輝けると思う。ごめんね。また良かったら受けに来てよ。私に試着されに来てよ。

 服との問答を、実際には無言のうちに繰り広げて店を出る。残り時間は10分くらい。まあまあ突然だったし別に、と思って駅に向かっていると左側にあらいいじゃんという店の気配。ラックに掛かるシャツを良く見れば青と緑のストライプだが葉桜のような穏やかさ。どれどれと試着。おお。いい感じっぽいし、さっき着たのよりサイズが大きくゆとりがあってちょうどいい。あと1点、いや全然合格って言っていいんだけど。

「それ上2つだけボタン留めるのおすすめです」。店員のお兄さん。...