6部からマインツ05、そしてブンデスが見えてくるルートを作りたい
シンクロナスYouTubeで毎月配信中の『スポー“ツギ”ロン』から注目のテーマについてテキストで深掘りしていく本コンテンツ。
海外移籍を「ステップダウン」で終わらせないために、何が必要か。
その問いへの答えとして、岡崎慎司はドイツ6部の街クラブ「FC BASARA Mainz」を舞台に、前代未聞の挑戦を始めている。
その1つが、名門マインツ05との戦略的提携だ。アマチュアリーグからブンデスリーガへと直結する、かつてない「育成の高速道路」を自らの手で敷こうとしている。
なぜドイツの18歳は、日本のアスリートを追い抜いていくのか?
なぜ情熱だけでは、プロクラブの壁を越えられないのか?
ジャーナリスト中野吉之伴とともに、欧州サッカーの構造的な歪みと、日本人が見落としている「成長の余白」の正体を解き明かす。
「アジア人でいい選手イコール日本人」へ
――FC BASARA Mainzが目指すところと、現在取り組んでいることを改めて教えてください。
岡崎慎司(以下、岡崎) まず、プロの入口は3部リーグだと思っています。ブンデスリーガには1部、2部の下に3部リーグがあって、アマチュアから5部、4部のセミプロを経てここに入っていくのが、日本人選手にとって相当に難しい。それを突破するには、僕らが3部のプロクラブになることが一番の理想なんです。そこから2部、1部へ選手を送り出せる。今6部にいるけれど、バサラで頑張ればマインツ05も見えてくるし、さらにその上のブンデスも見えてくるっていうルートを選手に見せたいというのが一番の思いです。
セカンドチームが今9部にあるんですが、これを5部ぐらいまで引き上げて、トップはプロクラブとして3部を目指す。トップでチャンピオンズリーグやブンデスを目指すような選手を育てつつ、セカンドではアマチュアの選手を人間的に成長させて海外経験を積ませていく。これがバサラ全体の目標ですね。
――中野さんから見て、そういった野心的な目標を掲げるクラブは多いのでしょうか。
中野吉之伴(以下、中野) すごく少ないと思います。ドイツは100年以上の歴史を持つクラブがほとんどで、みんな自分たちの立ち位置をよく分かっている。8部、9部、10部あたりをうろうろするか、4部・5部・6部で地元の強豪として落ち着くか、どちらかが多い。たまに投資家が入って上を目指すクラブも出てくるけど、大抵は失敗します。投資家が抜けた瞬間に全部崩れるし、サッカー的なこととか地元との連絡が難しくなって、破産宣告して転がり落ちちゃうというパターンがニュースに上がってきやすい。
だから上がるためには、地元との関係性や、トップを目指す選手だけでなく「ここでやれてよかった」と思える選手を作れるかが大事。育成をどう使うかも含めて、総合的な自力をつけた先にしか上はないと思います。

――マインツ05とはなぜ組もうと思ったのか、改めて聞かせてください。
岡崎 プレイヤー時代にマインツ05でお世話になって、ファンも地域の人も良かった印象が強くある。ここに住んでいる人みんながマインツ05のファンというぐらいで、土曜か日曜のどちらかは必ず試合に行くという文化がある。
パブに行っても「岡崎さんじゃないですか」と言ってもらえるような経験を積んできました。
そういう人たちにバサラも応援してもらえたらと考えていたら、マインツ05側からもオファーがあって。自分みたいな選手はなかなかいないですよね、日本人で。日本のスポンサーをたくさん集めて、いろんな人とつながって挑戦しているという実績がある。ユーハイムさんをはじめ応援してくださっている方々も含め、企業もサッカーチームもつなげられると思った。
マーケティングの面でも、向こうは日本のマーケットを求めていて、僕らはドイツのマーケットを求めている。そこが一番の接点です。加えて強化部の人にも呼ばれて、日本の若い選手を一緒にスカウティングしていきたいという話もある。
例えばJリーグのユースチームを遠征で連れてきて、マインツ05の指導者に練習してもらい、いい選手はピックできるという形が作れたらすごくいいなと、今まさに強化部と話を進めているところです。
――その提携は、従来のブンデスクラブとローカルチームのパートナー関係とは異なるものですか。
岡崎 ブンデスのクラブとローカルチームの提携は裾野が広いけれど、それとは違う形を作りたい。マインツ05のアンダー23と同じぐらいのレベルで、彼らが抱えきれないインターナショナルな選手を僕らが見る、インターナショナルデベロップメントパートナーのようなイメージです。これが選手に対する最大のパートナーシップになるかなと思っています。
実際に、バサラ兵庫のユースが1週間遠征に来たとき、マインツ05のアンダー16の監督が練習を見てくれて、インターンとインディビジュアルコーチも加わって3人体制で指導してくれました。トランジションを重視して、とにかくハーフウェイラインまで押し上げ続けるというテーマを最後まで貫いていて、ドイツのサッカーをリアルに体験できた。日本のバサラ兵庫がそのドイツの育成の練習テーマを取り入れていくこともできるなと感じました。
スポーツ界のトピックについて、スペシャリストを招きながら、その「次」を探る、新感覚スポーツ討論コンテンツです。
👇これまでの主なテーマとスペシャリスト👇
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特別編 名スカウトが明かす「阪神ドラフト秘話」
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前編 WBC2026展望!データで見る優勝候補。どう攻略する?
後編 吉井理人が明かす!世界一の舞台裏&連覇のポイント
第6回:岡崎慎司×中野吉之伴
前編 海外に行くことはすべてステップアップなのか?
後編 「岡崎慎司が6部からブンデスへのルートを創る理由
「スタッフもインターンも選手も、同じ思いじゃないといけない」
――クラブ運営で現在抱えている課題はどんなことですか。
岡崎 フィジオやフィジカルトレーナー、広報、マーケティングを勉強したい子がインターンで来てくれていて、今はかなり彼らで回っています。生の経験ができて、それを生かして次へ進んでいくという循環ができている。
ただ、これまでは毎年インターンが入れ替わっていたので、しっかりしたものが作れなかった。今は分析の子も含めて雇えるようにしていきたい。ボランティアベースから変えて、いい人材を残していきたいというのが今の構想です。
もう一つ、今バラバラだなと反省しているのが、スタッフと選手の意識の差です。インターンもボランティアでやっているのに、選手だけやってもらって当たり前という感覚があると、それは当然おかしくなる。みんなが同じ思いでなければいけない。募集の段階からバサラをよりよく知ってもらう必要があるし、より詳細に僕らの活動を伝えていきたい。
中野 ドイツでも子どもたちがサッカーから離れていく傾向はありますし、ボランティアで指導者をやっている人の数も減っている。育成のコーチのクオリティも、20年前と比べると目をつぶらなければいけない部分が出てきている。
指導者にお金を投資できるようにするには予算が必要で、ボランティアベースだけでは難しくなってきている。モダンな形のスポーツクラブのやり方が出てきたらおもしろいなと思っていて、岡崎さんの取り組みはその一つの答えになり得ると感じています。
日本の子はうまいが、18歳での伸び代が問題
――バサラ兵庫のユースを見た中野さんは、日本の育成にどんな印象を持ちましたか。
中野 インテンシティが上がるとスピードは上がるけれど考えることをやめてしまい、考えることに意識がいくと足が止まってしまうという現象は、どの学年の子を見てもあります。納得してからのシフトチェンジが、日本の子は遅かったりなかったりという印象を受けました。
岡崎 判断のうまさは日本の子も高いと思っていて、日本のU-12の子はドイツのU-12で十分レギュラーで活躍できると思っています。ただそのレベルに達するまでにかかっている時間が、日本の子は圧倒的に多い。
練習量は間違いなく日本のほうが多いです。その結果、12・13歳でかなりのことができる子がいる一方、18・19・20歳になったときにもう一段階ステップアップできるだけの余白が残っているかというと、マックスでこれ以上成長できないという子のほうが多い気がします。
一方ドイツだと、17・18歳でもまだ荒い子が普通にいる。マインツのセカンドチームにいたある選手は、ボールを持ったらドリブルしかしないというぐらい荒削りだったけれど、持ったときの力はすごいし、もらい方もうまかった。
そこからトップでデビューして、翌年にはプレミアリーグのクラブへ移籍し、今では背番号10をつけている。今できること全部できるからいい選手だとは思っていないのが、ドイツのコーチの大きな違いだと思います。
「好きなものがあれば、人はいくらでも頑張れる」
――――実際にドイツへ来て挑戦することの意味を、どう考えていますか。
中野 サッカーに関してはシンプルに言えば、ドイツに来て「サッカーってこんなに楽しいんだ、開放的なんだ」と感じてから25年ここにいます。
プロの世界だけでなくアマチュアもグラスルーツも含めて、なんだこのワクワクする空気感はって思えたことが一番大きかった。ブンデスの試合を1試合でも中に入って、あの空気感の中で見たら、これが毎週あるんだというだけで新しい世界が開けると思います。
規模は小さくても、6部でも8部でも同じような空気はあって、観客は少ないけれどバチバチした緊張感の中でサッカーをできる環境がある。それはシンプルに人生を豊かにしてくれると思っています。
岡崎 僕はバサラでやることで、いろんな分野で成長させられると思っています。例えばカメラが好きでバサラに来た子がいて、ブンデスリーガの試合を取材できるようになって、今ではいろんな試合に撮りに行っている。サッカー以外のところでも、海外での経験を通じて新しい生き方を見出せることがバサラの価値だと思っています。
自分次第っていう話でもあって、こっちでの生活もバサラでどう評価されるかも、自分次第。成長したい人間、挑戦したい人間には与えられるものがあります。苦労するし、不満に思うこともあるだろうけど、その1・2年のチャレンジをポジティブに立ち向かっていったら、その先の60年間絶対にサッカーと一緒に幸せに生きていけると僕は思っています。好きなもののためなら、人はいくらでも頑張れるから。
――最後に、バサラで求めているのはどんな人材ですか。
岡崎 マインツ05とやるからには、ブンデスのクラブを目指すような、高い意識を持った子を来てほしい。挑戦の正解を作れるのは自分だけですから。知ってほしいし、来てほしいですね。バサラを。
フルバージョン「岡崎慎司×中野吉之伴が白熱議論!海外に行くことはすべてステップアップなのか?」👇
前編 海外に行くことはすべてステップアップなのか?
後編 岡崎慎司が6部からブンデスへのルートを創る理由
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