W杯で頂点を見据える日本に、いま本当に足りないもの

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6月11日に開幕するワールドカップ(W杯)に向けて現在、日本代表は欧州列強との真剣勝負となる英国遠征(スコットランド戦、イングランド戦)の真っ只中にある。

こうした重要な局面において、遠藤航や南野拓実、冨安健洋、板倉滉など、チームにとって「計算できる経験知」を持つコアメンバーが負傷離脱中。主力不在時こそ、チーム全体の「経験の層の厚さ」が試される。

日本代表が悲願のベスト8超え、そしてその先の頂点を目指すなか、いま改めて突きつけられている現実がある。それは、世界との距離を測る真の物差し――「CL(チャンピオンズリーグ)経験知」だ。

W杯は、CLの経験が左右する大会と言われている。言い換えれば、CLでの結果がそのままW杯の成績につながると言っても過言ではない。

そこで今回はCLとW杯の関係性に注目!

W杯優勝へのバロメーター「CL経験知」が足りない日本はどう戦うべきか?W杯で頂点を見据える日本に、いま本当に足りないものは何かーー。

長年日本サッカーを見続けてきたスポーツライターのミムラユウスケ氏と、サッカージャーナリストの河治良幸氏が、日本代表が真の列強へと進化するための「世界のバロメーター」を炙り出す。ぜひご覧ください!

2021〜22年、CL決勝トーナメント出場ゼロが示す現実

前回のカタールW杯では、2021・22年シーズンCLで決勝トーナメントのピッチに立った日本人選手は一人もいなかった。「CK経験知」の足りない日本、どう戦う?

――カタールワールドカップ前の2021・22年シーズンのチャンピオンズリーグ(以下、CL)で、日本代表選手がどの程度出場していたかをデータ化してみました。その結果、決勝トーナメントのピッチに立った日本代表選手は、一人もいなかったことが分かりました。

ミムラユウスケ(以下、ミムラ): (現在の代表では)南野拓実選手だけなんですよね。リバプールでグループステージ4試合に出場し、決勝でもベンチには入っていますが、決勝トーナメント(の試合)には1試合も出ていないんです。

――日本を破ったクロアチアには、ルカ・モドリッチ選手(レアル・マドリード)のように長年クラブの中心にいて、かつ代表でもW杯3位や準優勝を経験している「頂点を知る存在」がいます。こうした存在がチームにもたらす影響はいかがでしょうか。

ミムラ: 非常に大きいでしょうね。クロアチア代表GKのリヴァコヴィッチ選手(※1)について、有名なエピソードがあります

日本戦の少し前、ミスをした彼に対し、モドリッチ選手が「お前にしかできないことがある。自信を持て」と必死に声をかけていた。それが日本戦のPK戦での活躍に繋がったという動画があるんです。ああいう存在がいることは、チームにとって大きな財産です。

(※1)ドミニク・リヴァコヴィッチ
クロアチア代表GK。2022年カタールW杯の日本戦PK戦で、シュートを4本中3本セーブする驚異的な活躍を見せた。
精神的支柱、ルカ・モドリッチ(左)。彼のリーダーシップが、窮地の守護神リヴァコヴィッチを救い、日本戦の勝利を引き寄せた。

長谷部誠が語った「世界トップ」の境界線はCLベスト8

河治良幸(以下、河治): リーダーは本当に必要ですよね。CL決勝の経験者でなくとも、チーム内における「経験のある選手の割合」はクロアチアの方が日本よりはるかに高く、そこがアドバンテージになっていた可能性はあります。

――やはりそこで声をかけられることで、勇気づけられる。そうした振る舞いができるかどうかは、経験の差なのでしょうか。

ミムラ: キャラクターもありますが、経験に裏打ちされたものはあるでしょう。

河治: それまでに築き上げた信頼関係が重要なんです。モドリッチは、若手が代表に入る前からスターとして君臨し、脈々と信頼を積み上げている。「あの選手がこれだけの振る舞いをしている」という見本であり、くじけかけた時の支えでもある。そういう象徴的な選手がいるだけで全然違います。

ミムラ: 長谷部誠選手(フランクフルト)が話していたことで印象的だったのが、「CLはベスト8からが本当の戦い。そこからが世界のトップレベルだ」という言葉です。ベスト8にコンスタントに出場できる選手が何人いるかは、一つの重要な指標になります。

河治: 確かにそうですね。一発勝負の決勝は「水物」な側面もありますが、ベスト8は欧州のビッグクラブが常にしのぎを削る場所。リーグ戦でも常にトップ5に入り続けるような競争力の証明です。

元日本代表主将・長谷部誠。彼が説く「ベスト8」という世界基準に到達できる選手が何人現れるかが、今後の日本代表のバロメーターとなる
 
 

 

スポーツギロン

スポーツ界のトピックについて、スペシャリストを招きながら、その「次」を探る、新感覚スポーツ討論コンテンツです。

👇これまでの主なテーマとスペシャリスト👇
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第1回:柿谷曜一朗×橋本英郎
前編 どうなる森保ジャパン!?9月シリーズで見えた世界一への指標
後編  元日本代表に聞く!W杯優勝の可能性は何%?
第2回:菊地敏幸×菊地高弘
前編  2025プロ野球ドラフト会議 注目選手は? 
後編 スカウト会議〜阪神名スカウトの仕事裏側に迫る!
特別編 名スカウトが明かす「阪神ドラフト秘話」
第3回:石井琢朗×菊地高弘
前編 「ビッグスター・大谷翔平登場」で野球界はどう変わった?
中編 指導者・取材者目線!一流選手は「何」を持っている?
後編 消えゆく「昭和の練習」、指導者はどうなるべきか?
第4回:ミムラユウスケ×河治良幸
前編 「CL経験知」足りない日本、どう戦うべきか?
中編 森保ジャパンW杯悲願達成のキーマンは?
後編 南野、遠藤…主力選手の負傷の影響は?
第5回:吉井理人×中島大輔
前編  WBC2026展望!データで見る優勝候補。どう攻略する?
後編 吉井理人が明かす!世界一の舞台裏&連覇のポイント

 

 

実は世界でもレアケース? 次回W杯に引き継がれる日本の「継続性」

ミムラ: 過去にCLベスト8以上のピッチに立った日本人選手は、香川真司選手、本田圭佑選手、長友佑都選手、内田篤人選手と、極めて限られた人数です。

【CLベスト8以上の舞台を経験した日本人選手】
内田篤人(シャルケ): 2010-11シーズン、日本人初のベスト4進出。準々決勝で前回王者インテルを破る歴史的勝利に貢献。
本田圭佑(CSKAモスクワ): 009-10シーズン。セビージャ戦で伝説的な直接FKを叩き込み、クラブ史上初のベスト8進出の原動力となった。
香川真司(マンチェスターU): 2013-14シーズン。バイエルン・ミュンヘンとの準々決勝(第1戦・第2戦)にフル出場した。
長友佑都(インテル): 2010-11シーズン、名門インテルのサイドバックとしてベスト8に進出。準々決勝ではシャルケ・内田篤人と「日本人対決」を演じた。

日本人選手の欧州CL最多出場数(予選含む)
1位:香川真司(33試合)
2位:内田篤人(31試合)
3位:南野拓実(24試合)
4位:長友佑都(23試合)
5位:中村俊輔(19試合)

河治: シンプルな「個の力」で、日本はまだ本当の列強の仲間入りはできていない。スペインやドイツを破る力はあっても、長いスパンで見た時の総合力はこれからのステップアップに期待したいところです。

――もしグループステージを突破できたとしても、その先でブラジルやモロッコのような「一発勝負の経験値」が凄まじいチームと戦う際、やはりそこが壁になるのでしょうか。

河治: ただ、日本には面白いデータがあります。次の2026年大会、カタールW杯を経験したメンバーが26人中14〜15人は残るでしょう。これは他国と比べても、明らかに「W杯経験者の割合」が多いことになります。

――それは心強いですね。経験値がどうプラスに働きますか?

河治: カタール大会では、遠藤航選手や三笘薫選手、久保建英選手、冨安健洋選手といった主軸たちが、怪我や体調不良でベストとは言えない中で戦いました(※2)。

(※2)カタールW杯時、主力を襲った異変
遠藤航: 開幕直前の脳震盪。
三笘薫: 体調不良による合流遅れ。
久保建英: 決勝トーナメント直前の発熱離脱。
冨安健洋: 負傷を抱えながらの出場。※最新の英国遠征(26年3月)も負傷により不参加。
満身創痍でカタールを戦い抜いた主軸たち。この時の「悔しさ」を知るメンバーの多くが2度目のW杯を迎えることが、日本の「レアな強み」となる


その逆境を乗り越えた経験を、3年半でどうアップデートしているか。「W杯の舞台」が見えている選手が多いことは、チームに大きな勢いを与えるはずです。

伊東純也選手や遠藤選手らが引っ張る一方で、今の主軸の多くは20代で「2度目のW杯」を迎えることになります。この経験の蓄積こそが、日本代表にとっての大きなプラスアルファになると確信しています。

フルバージョン「ミムラユウスケ×河治良幸が白熱議論!CLの経験知が足りない日本、W杯優勝への可能性を探る!」👇

 【スポー”ツギ”ロン#3(ミムラユウスケ×河治良幸)のテーマ】
前編 「CL経験知」足りない日本、どう戦うべきか?
中編 森保ジャパンW杯悲願達成のキーマンは?
後編 南野、遠藤…主力選手の負傷の影響は?

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