海外に行くことがすべてステップアップとかと言ったら…

 

 シンクロナスYouTubeで毎月配信中の『スポー“ツギ”ロン』から注目のテーマについてテキストで深掘りしていく本コンテンツ。

いま、日本の若者たちがこぞって海を渡っている。しかし、その多くが「ステップアップ」という言葉の裏で、自分の価値を買い叩かれ、消費されている現実を知る者は少ない。

「それは、ただのステップダウンじゃないですか」

そう一石を投じたのは、ドイツ6部でクラブオーナーを務める岡崎慎司だ。

なぜ、日本での実績を捨てて、言葉も通じない不条理な環境へ飛び込むのか。「誰かが助けてくれる」という甘えを捨て、どん底から自力で這い上がれるのはどんな人間か。

ドイツ在住25年の中野吉之伴とともに、サッカーという枠を超え、「自らの価値を、自らで正解にする」ための生存戦略を深掘りする。

「アジア人でいい選手イコール日本人」へ

――最初に、ドイツにおける日本人選手の評価の変化についてお聞きします。中野さん、ここ25年でどんな変化がありましたか?

中野吉之伴(以下、中野) まず全体的な評価として言うと、誰が来ても外れがないっていうコンスタントさが出てきたと思っています。

僕の周りのドイツ人に聞くと、技術レベルが高い、チームプレーに献身的、常に全力でプレーしてくれる、ファンを大事にするといった言葉が出てくる。日本人選手への評価は確実に高まっています。

以前は、岡崎さんや香川真司さん、内田篤人さんが活躍していても、彼らが日本人だということとシンクロしている人はそんなに多くなかった。「アジア人の岡崎慎司」「アジア人の香川真司」という認識が先にあった。

でも今は、「アジア人でいい選手イコール日本人」という図式が出てきたように感じますね。

――岡崎さんはご自身がプレーされていた頃と比べ、日本サッカーを見る目が変わっていますか?

 

岡崎慎司(以下、岡崎) 今、(ブンデスリーガの)マインツ05とやり取りをさせてもらっていますし、Jリーグのユースと提携しているチームの話を見ても、ドイツのクラブから日本へのアプローチは明らかに増えています。

以前は代理人を介してつながっていくのが主流でしたけど、今はクラブがダイレクトに選手を欲しがっているケースも多い。

特に若い選手への需要が強い。若いうちに取って成長させれば売れるという感覚が向こうにあるんだと思います。

中野 ビジネスの観点で言うと、費用対効果が高いというのも大きいですね。取る金額がまだそれほど高くないから、外れても損は少ない。

ただ、このマーケットは世界中にたくさんあって、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、東欧と常に新しい供給先を探し続けているのがヨーロッパのビジネスモデルです。日本がそのなかに入っていることは間違いないですが、この優位性がいつまで続くかはまた別の話なんですよね。

「呼ばれたからチャンスだ」と思う危険さ

――フランクフルトが若い日本人選手を獲得した例など、最近は直接ドイツのクラブに入る流れも出てきていますが。

中野 クラブ哲学と密接に関わりますね。

若い選手を取って自前で育て、主力にして上のクラブに移籍金つきで送り出すスタンスのクラブもあれば、シーズンに若い選手をたくさん取って一人でも当たればいいという考え方のクラブもある。

フランクフルトのセカンドチームは今5部ですが、そこからELやCLを目指すレベルまで上がれるかというと、現実的には難しい。だからレンタルで出すしかなくなって、所属クラブが定まらないまま若い選手のメンタルが削られていくケースも十分ありえます。

岡崎:セカンドチームのあり方って、トップチームに行くためだけじゃなくて、その選手のレベルを上げて次のステップに連れていくことでもあるんですよね。

僕の周りでも、6部リーグで一シーズン50点取った選手がいて、その選手がマインツゼロファイブのセカンドに引き抜かれて、そこでも7試合で4〜5ゴール取って、ついにはトップチームでデビューを果たしたんです。

ただ、そういう例は本当にめったにないことで、こちらでも話題になるくらいでした。

 

中野   呼ばれたからチャンスだと思って行くのは、やっぱり危険だと思います。

クラブの指針や監督哲学をある程度把握したうえで行かないと、行った先で苦労する。スポーツダイレクターがコロコロ変わるクラブは方針もブレるので、取ったときには「上に上げるよ」と言っていたのに、一年後に担当者が変わって話が変わるなんてことも全然あります。

 

 

スポーツギロン

スポーツ界のトピックについて、スペシャリストを招きながら、その「次」を探る、新感覚スポーツ討論コンテンツです。
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後編  元日本代表に聞く!W杯優勝の可能性は何%?
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後編 スカウト会議〜阪神名スカウトの仕事裏側に迫る!
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前編  WBC2026展望!データで見る優勝候補。どう攻略する?
後編 吉井理人が明かす!世界一の舞台裏&連覇のポイント
第6回:岡崎慎司×中野吉之伴
前編  海外に行くことはすべてステップアップなのか?
後編 「岡崎慎司が6部からブンデスへのルートを創る理由

 

「J2からドイツ5部」はステップダウンである

――岡崎さんは対談のなかで「海外に行くことがすべてステップアップかって言ったら、ステップダウンだ」とおっしゃっていました。もう少し詳しく聞かせてください。

岡崎 シンプルに言うと、J2からドイツ5部というのは、僕からしたら普通にステップダウンだと思うんですよ。

でも、そこを選ぶってことはそういうメンタルをしているということで、日本でできなかったことを忘れてしまうケースが結構多いかもしれない。

日本でJ2、J1で大活躍できていたかどうかも、見てみないと分からなかったわけじゃないですか。

海外に行くことを正解にさせるのは自分なんです。結局自分次第というところは持っておくべきことだと思います。

中野 17〜18歳くらいって才能の塊に見える選手が山ほどいるんですけど、ほとんどはやっぱり成長しきれずに消えていくんですよ。

ヨーロッパでも世界中でも同じです。「ここからさらに化けるかもしれない」という選手がそのとおりに成長するかは分からない。だから多くの選手を取って試してみて、だめだったら次へというサイクルが回り続けている。

チャンスはあるけど、リスク管理というのは選手側も知っておかないと、「一度来てだめなら移籍すればいい」というほど移籍は簡単じゃないよということは知らないといけません。

岡崎 さっきの佐藤ケイン選手の話が出ましたが、ドイツ5部や6部に行ってみて「なんだこの環境」とギャップに驚いたと聞きました。

環境を知らずに行くと、そのギャップで頑張るのが本当に難しくなる。細かいことを言うと、地域リーグではスローインの投げ方のルールすら違って、ブンデスリーガでは普通に許されている形がファールスローになったりする。

そういうことにいちいちイライラしていたら、たぶんうまくいかないんです。生活もサッカーも、自分との戦いですから。

「誰かに何かをしてもらおう」では絶対うまくいかない

――――岡崎さんが立ち上げたバサラ・マインツについて聞かせてください。日本人選手の欧州挑戦を支援するクラブとして認知されていますが、実情はどうなのでしょう。

岡崎 よく誤解されるんですけど、選手の生活を丸ごとサポートするために作ったわけじゃないんです。留学とはまた違う。

僕らのところで一年間競争してもらって、活躍レベルに応じて次のステップに踏み出せるようにアシストしたい。ただ、アシストはするけど、自分でつかみ取ってくださいというのが基本方針です。なかなか「日本人がいる=助けてもらえる」というイメージが拭えなかったりするんですが、それは課題ですね。

中野 誰かに何かをしてもらおうと思うのであれば、絶対にうまくいかないです。これは例外なく断言できます。ヒントをもらう、相談するのはいい。

でも自分から動かないとか、やってもらって当たり前という気持ちがあるなら、もっと人として成長してから来てくださいと言いたい。

岡崎 うまくいかなくなってネットでドイツ在住の人に連絡してきて、一文目に「チームを紹介してくれませんか」というケースも多い。自炊ができるか、一日のスケジュールを自分で管理できるか、空いた時間に何をするか、そこまで含めて自立できていないと難しいです。

でも、本気で取り組んだ人が得る経験と成長は本物だと思っています。

大事なのは、5部でも「圧倒的な結果」を出せるか

――では最後に、それでも挑戦したいという若い選手たちへのメッセージを聞かせてください。

岡崎 どれだけ自分が成長できるかに目を向けないといけないと思います。五部がどうとか環境がどうとか言う前に、そのレベルで2部や3部からオファーをもらえるだけの結果を出せているかどうか。

泥臭いことでもがむしゃらにやる、守備も最後まで粘る、どんな状況でも諦めない——スカウトの目はそういうところで必ず止まります。気概と覚悟を持って飛び込む選手は、やっぱり大きなチャンスをつかむベーシックを持っているということだと思います。

中野 ドイツの現場を知っている人の言葉に真剣に耳を傾ければ、得られるものは本当に多い。カテゴリーは関係なくて、どのカテゴリーでも圧倒的な活躍をすれば上に行ける。それがすべてだと思います。挑戦するなら、中途半端な覚悟じゃなくて、本気でやってほしいですね。

岡崎 バサラ・マインツも今は6部ですが、ここで頑張ればマインツゼロファイブも見えてくるし、その先のブンデスリーガも見えてくるルートを見せたい。

選手に限らず、フィジカルトレーナーやマーケティングを勉強したいというインターンの子たちも来ていますが、彼らも生の経験のなかで新しい夢を見つけていっています。人生をより豊かにするのも、価値を上げるのも、結局は自分次第ですから。

 

フルバージョン「岡崎慎司×中野吉之伴が白熱議論!海外に行くことはすべてステップアップなのか?」👇

 【スポー”ツギ”ロン#6(岡崎慎司×中野吉之伴)のテーマ】
前編 海外に行くことはすべてステップアップなのか?
後編 岡崎慎司が6部からブンデスへのルートを創る理由
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