「気になるところが見えた瞬間に、そこが悪いと思ってしまう」 。
シカゴ・カブスの鈴木誠也選手が明かした「自分の打撃のスロー映像を絶対に見ない」というこだわりに対し 、「めっちゃ分かる!」と強く共鳴するのは、元楽天イーグルス監督の平石洋介だ。
プロ野球選手として、そして指導者として第一線を歩んできた平石は、テクノロジーが進化し、誰もが手軽に動画分析を行える現代だからこそ、その「弊害」に警鐘を鳴らす 。
自分の理想とするイメージと実際の動きが乖離したときに生まれる深い迷い 、そして情報が溢れる時代に求められる「自分に落とし込む力」とは何なのか 。
テクノロジーがどれほど進歩しても変わることのない「人対人」の指導の本質を語る。
スロー映像で実際の動きを見て全然違っていたら……本当に悩み出す
平石洋介(以下平石) 鈴木誠也選手は、自分のバッティングのスロー映像を絶対に見ないと言います。その理由は、「気になるところが見えた瞬間に、そこが悪いって思ってしまうから」というものです。
私はその話を聞いて、「めっちゃ分かる」と思いました。
自分の中でいいと思っているイメージを持って打席に立っているのに、スロー映像で実際の動きを見てしまったとき、それが全然違っていたら——本当に悩み出すんです。あれこうなのか、いやこうじゃないのか、と。
これは誠也だけの話ではありません。
打席を終えて裏に戻り、めちゃくちゃスロー再生して「こ、こ、こ、こうやな」と細かい動きをチェックしている選手も実際にいます。見ているこちらからすると、「そこを気にするの?」と思うこともあります。
だからこそ、誠也の言いたいことはめちゃくちゃ分かりますね。
「10人に同じことを言えば、10人が同じ動きになるのか」——動画・AIと野球指導の難しさ
平石 インターネット、動画、AIの時代が来たことは、私も実感しています。
この時代の流れを否定するつもりは全くありません。むしろ、ついていかないといけないとも思っています。
でも、例えばゴルフを考えてみてください。アマチュアゴルファーはおそらくたくさんの動画を見ていると思います。いろんな人がいろんなことを言っていて、「こうだ、ああだ」と教えている。
そこで私がいつも思うのは、10人いたとして、その10人全員に同じことを言えば、10人全員が同じ動きになるのか、ということです。
「こうしないといけない」という教え方が多い中で、それが本当に自分に合っているのかを、ちゃんと自分自身に落とし込んで考えてほしいと思います。
「なぜそうなのか」「こうって言っているけど、こうじゃだめなのか」——そういう疑いの目は持ち続けてほしいですね。
ゴルフでは「これをトライしよう」と思ったら、いろんな情報でパニックになって、わけが分からなくなっていくアマチュアゴルファーがたくさんいると思います。やってみて「おっ」と思ったけど、次にやるときには全く分からなくなっている、ということが多いのではないでしょうか。
それは野球にも通じるところがあります。
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『平石洋介の探球論』
元楽天監督・平石洋介と一緒に「野球を探求」していくコンテンツ「探球論」。毎週の野球分析記事やLIVE配信、対談など「プロの現場レベル」のお話を話していきます。連動企画書籍『人に学び、人に生かす。』は好評発売中。
指導者だからこそ、動画は使う。でも、使い方次第
平石 私は指導者になってから、動画を意識して見るようになりました。
普通に流れているものを見るし、スローで細かく確認することもあります。選手に見せることも、良くも悪くもあります。「ほら、こうなってるやろ」と指摘するために見せたり、「極端にこうやるくらいが今ちょうどいいんじゃないか」と伝えるために使ったり。
ただ、そのときに気をつけているのは、「極端にやっているつもりなのに、実際の動きが全然極端になっていない」ということもあるということです。だから動画で確認する意味はある。使うべき場面では使っていきます。
誰でも配信できる時代に、情報の質にも疑いの目を持ってほしいというのが正直な気持ちです。
平石 動画やAIの話を続けてきましたが、結局、私が大切にしたいのは「人対人」という関係です。
例えば、取引先との間に問題が起きたとします。そのとき、ロボットのウェイトレスが「申し訳ありません」と言いに行っても、心は通じません。ちゃんと出向いて、顔を見て、心を込めて言葉を伝えることが必要な場面は、今もこれからもあると思います。
もちろん、人間関係はめんどくさいこともあります。いじめがあったり、人のことで悩むことも全部「人」が原因です。
でも助けてくれるのも人なんですよね。
だから人というのは、やっぱり大きな存在だと思います。テクノロジーがどれだけ進んでも、その本質は変わらないんじゃないかと感じています。
「インターネット・動画・AIの時代の到来を感じますか?」——正直、ついていけていないところもある
平石 時代の変化は感じます。感じていますが、正直についていけていない部分もあります。
携帯すらついていけていない、というのが本音です。子どもたちのほうがよっぽど知っている。
でも、だからこそ思います。この時代に合わせながらも、「疑い」の目は大切にしてほしい。情報があふれているからこそ、自分に本当に合っているものを見極める力が必要になってきます。
便利な世の中ですが、なんでも受け入れるのではなく、ちゃんと自分に落とし込む。その姿勢は、野球でも仕事でも変わらないはずです……。
フルバージョン【平石洋介、秘話語る】もしPL学園に行かなかったら?/苦い青春時代「控えのキャプテンと呼ばれるのが嫌だった」/スロー映像は見ない鈴木誠也に大賛成「めっちゃ分かる!」
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1980年4月23日生まれ。大分県出身。野球指導者・解説者。高校時代を名門PL学園で過ごし、3年時には主将として甲子園に出場。松坂大輔擁する横浜高校と延長17回の死闘を演じるなど注目を集める。卒業後、同志社大学、トヨタ自動車を経て、2004年ドラフト7位で楽天に入団。11年限りで現役を引退したあとは、球団初の生え抜きコーチとして後進の指導にあたる。16年からは二軍監督、18年シーズン途中に一軍監督代行となり19年に監督に就任。クライマックスシリーズ進出を果たすも退任。20年から2年間はソフトバンクのコーチ、22年は西武の打撃コーチとなり、23年に西武のヘッドコーチに就任24年限りで退団した。