小説を書きたいのに、なかなか筆が進まない。そんな悩みを持つ人は多い。
「1冊目に読みたい小説の書き方の教科書」を上梓した小説家・額賀澪さんは、小説を書きあげるテクニックがあるうえで、書き進められない人に共通する習慣があるといいます。
執筆が上達し続ける人とそうでない人の差は、いったいどこで生まれるのか? 創作を楽しく続けるためのメソッドを、プロの作家の言葉で紐解いていきます。
スランプになっても、書けるようにシステム化する
―― 作家として11年目を迎えた今、執筆を継続できている秘訣はどこにあるのでしょうか。
額賀澪(以下、額賀) 大きく分けると、マインドの部分とプロセスの部分の両方があると思っています。
マインドで言えば、シンプルに仕事が好きなんですよね。だからコンディションが多少悪くてもやれてしまう。デビュー前は書くこと自体が楽しかったし、今は作家という仕事そのものがおもしろくなっているので、それで続いているんだと思います。
プロセスの面では、書き方をできる限り自分の中でシステムに落とし込んでしまっています。たとえばシーンの書き始めは「誰がどこで何をしているか」から入るとか、説明したいことから逆算してエピソードを作るとか。
その仕組みができてしまうと、スランプになって詰まったとしても、一応書ける状態に持っていけるんです。
―― 書けない状態でも「形にはなる」という感覚ですか。
額賀 そうですね。まず形にしてしまえば、あとは直す作業になるので。0から1を作る労力に比べたら、1を磨く作業はずっと楽なんですよね。
小説ってあとから直すのがすごく簡単にできる創作物だと思っていて、それがすごくいいところだと感じています。
主人公とは、読者を物語に引き込むナビゲーター
―― 主人公を作るうえで、大事なポイントを教えてください。
額賀 まず、主人公の役割をちゃんと理解しておくことが大事だと思っています。主人公は読者が最も近くで物語を読み進めていく存在で、読者を物語の中に引き込んでいくナビゲーターなんです。
「共感できる人じゃないといけない」とか「悪い人だと読者がついていけない」という話をよく聞きますが、それはあくまで読者を引き込む力が弱まるかもしれないという懸念からきているものだと思います。
―― 実際には「いい人」でなくても機能する主人公はいますよね。
額賀 そうです。悪人であっても、読者を物語に引っ張ってくだけの魅力がはっきりしていればいいわけです。ただ、作りやすい主人公という観点で言うと、読者との「物語に対する理解度」が近い主人公が一番ついていきやすいと私は考えています。
たとえば『ハリー・ポッター』の主人公ハリーは、魔法使いはいないと思って育ってきたところから物語が始まりますよね。読者も当然、魔法の世界を知らない状態でページをめくる。
だからハリーが驚けば読者も驚くし、ハリーが知れば読者も知るし、ハリーが分からなければ読者も分からない。歩む速度が一致しているから、非常に読者がついていきやすい主人公になっているんです。
―― 額賀さんご自身はハリーと「仲良くできないな」と感じながら読んでいるとおっしゃっていましたね。
額賀 そうなんですよ(笑)。私は一読者として、ハリーとは仲良くできないなと思いながら読んでいました。でも主人公として機能しているから、ちゃんとついていけるし楽しめる。
性格が読者と相容れなかったとしても、物語の中でどういう思考回路で動いているかが丁寧に描かれていれば、主人公は主人公として機能するんです。そこが主人公作りの肝だと思います。
設定を説明するのではなく、エピソードに落とし込む
―― 世界観や設定の作り方についても聞かせてください。
額賀 作者が考えた設定を、読者が物語として実感できる形に落とし込むことが大事です。ところがどうしても、設定を説明する方向に頑張ってしまうパターンが多いです。
『なんとか帝国は西暦何年から隣国と戦争をしておりまして……』と延々と書いてしまうと、読んでいる人は物語を実感できずに、歴史を話されているような感覚になってしまいます。
―― ではどうすれば実感してもらえるのでしょうか。
額賀 シーンを書くのに必要なのは「誰がどこで何をしているか」です。人が特定の場所で動いてしゃべったり行動したりしている、それを通して設定を見せてあげる発想が必要です。
たとえば『何年も戦争が続く国で主人公はどんな日常を送っているか』を考えると、エピソードが作れます。徴兵されて若者がどんどん去っていくから村には女性しかいなくて、次は自分の番だと思いながら暮らしているシーンを書けば、読者は「そういう世界なんだな」と実感できる。説明よりエピソードで実感させる、というのがやはり大事です。
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小説を書きたい。そう思いながらも、どこから始めればいいのかわからない。書き進めても途中で止まり、未完の原稿だけが増えていく――。そんな悩みを抱える方が最初に読む一冊が「1冊目に読みたい小説の書き方の教科書」です。本書は、小説を書くために必要なライティングのテクニックから、ストーリーを考えるためのプロットの作り方、人称と視点を意識して、読者にどう物語を実感させていくかについて、わかりやすく解説します。
―― 書き上がったあとの推敲では、どんな意識を持つべきでしょうか。
額賀 読者の目線で読むことに尽きます。自分が頑張って書いたものは削りたくないし変えたくないという気持ちになるのは分かります。
でも作者の頑張りは読者にとって関係がない。このシーンはおもしろいのか、この流れは分かりやすいのか、この文章は読みやすいのか。そこだけを考えるのが大事です。
自分が頑張って書いた文章をどれだけ「そんなに大した価値はないもの」と思えるかが、推敲のときの核心だと思っています。
―― プロットから外れてしまった場合はどう判断するのでしょうか。
額賀 プロットは設計図なので、そこから外れたこと自体はだめじゃないんです。小説のいいところは、途中で変えたからといって家が崩れたり人が死んだりしない(笑)。大事なのはプロットから外れたうえで、ちゃんとおもしろくなっているかどうか、そこだけです。
手を動かさない人が上達することは、ほとんどない
―― 書き進められない人に共通するNG習慣があるとすれば、何でしょうか。
額賀 頭で考えすぎることです。それはイコール、最初から正解に行きたがっているパターンだと思います。書いたものを消したくないという気持ちから、手を動かす前に考えることに一生懸命になってしまう。それが一番だめなパターンじゃないかと感じています。
小説って文章だけで作るものじゃないですか。だから最初は0点だったとしても、書いてしまってあとで直すのが一番いい。
漫画は1回絵にしたものを全部消して冒頭の展開を変えるのは大変だし、映画は撮り直しに大変なコストがかかる。でも小説はそれがすんなりできる。だからこそ、試行錯誤のしやすい創作だと思っています。
―― 大学で創作を教えていらっしゃる中で、上達する学生の共通点はありますか。
額賀 手を動かす子ですね。最初はすごく下手だったとしても、とりあえずやってみるとか、締め切りまでにできたものを持ってきてあとは直すというスタンスを取れる子が、結局一番上達が早い。
学年が変わってメンバーが入れ替わっても、そこは共通しています。手を動かさない子が上達することは、ほとんどありません。
―― 先生自身が作家活動を続けられるのも、仕事を選び続けることと関係していそうです。
額賀 デビューしたころ、執筆ペースが早いところを見て「何があってもあなたは書くタイプでしょ」と複数の人から言われたことがあって。そのとき「確かにそうかもしれない」と思いました。
書くことを選ぶタイプの人は大丈夫、と言ってもらえて、それは今でも支えになっています。
書き手が増えれば、そこから先の上積みで世に出てくる作品もおもしろくなっていくと思っているんです。野球が日本で強いのは少年野球人口という土台があるからですよね。
小説も競技人口が増えれば質が上がる。だから楽しんで創作できる人が増えてほしいし、そのためのメソッドを提供し続けることが、出版業界全体を盛り上げることにつながると信じています。
フルバージョン【小説が書きたい人必見】人気作家・額賀澪が教える「伝わる文章」の作り方。読者の頭に“映像”を浮かばせる描写の極意とは?」
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1990年、茨城県生まれ。2015年『屋上のウインドノーツ』(「ウインドノーツ」より改題)で第22回松本清張賞、同年『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞。著書に、『タスキメシ』『さよならクリームソーダ』『拝啓、本が売れません』『風に恋う』『競歩王』『沖晴くんの涙を殺して』『世界の美しさを思い知れ』『弊社は買収されました!』『青春をクビになって』など。日本文藝家協会 会員。大正大学表現学部表現文化学科 客員准教授、日本大学芸術学部文芸学科 非常勤講師。シンクロナスでは受講生の作品を実際に講評「拝啓、小説を書いてみませんか」を大好評連載中。
