「自主性」という言葉が、高校野球の現場でも叫ばれるようになって久しい。
だが、何も知らない子どもに向かって「自分で考えろ」と言うだけで、果たして選手は育つのか。
PL学園の同級生であり、元プロ野球選手の平石洋介と上重聡が、指導者と親の関わり方、そしてデータ重視になりつつある高校野球の「進化」と「衰退」について、正直な言葉で語り合う。
自主性を押しつけるだけでも、データを追うだけでも、選手は育たないーー。平石と上重が語ったのは、時代が変わっても変わらない「野球の本質」と、それを次世代に伝えることの難しさだった!?
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「自主性」という言葉の響きは良いが…何も知らない子に言っても難しい
――令和の今、子どもたちに指導者や親はどう向き合うべきか、まずそのあたりから聞かせてください。
平石洋介(以下、平石) 年齢が低くなればなるほど、自主性というのは実はあまりないと思っていて。だって何も知らないわけですから。
何も知らない子たちに「自主性を持て」と言っても、逆にほんとに難しいですよね。
もちろん自主性は大事なんですけど、いろんなことを経験してある程度知識がついてきて初めて、主体性を持たせるということが機能してくるんじゃないかと思います。
――では、指導者がやるべきことは何でしょう。
平石 たとえば情報を1つしか与えなかったら、それがすべてになってしまうじゃないですか。こういうこともある、ああいうこともあると複数の選択肢を与えながら、実際に身をもって経験させてあげる。そういうことも指導者の役割ではないかなと。
もちろん、ゆくゆくは絶対に自分で考えてできるようにならないといけない。試合になったら誰も助けてくれないわけですから。ただ、そこに行き着くまでの過程が、必ずしも「自主性任せ」でいいとは思わないんですよね。
講座を主宰するなかで、受講生の方々がどんなところでつまずいているか感じることはありますか?
「好きなだけ走っていいよ」で100周走れる選手はいない
――上重さんも同じようなことを感じていますか。
上重聡(以下、上重) 最近よく思うんですけど、たとえばグラウンドを100周走れと言われたら、みんな100周走るじゃないですか。
でも「好きなだけ走っていいよ、自分のやりたいようにやって」と言って、100周走れる選手はまずいないんですよ。1周でやめる選手もいれば、自分に厳しい選手は100周走れる。そうすると99周の差がつく。
――それが今の時代の「厳しさ」ということですか。
上重 そうなんです。昔は「100周走れ」と言われたらみんな走って、そこにプラスアルファで自分で頑張るかどうかの差だった。
でも今は、やれる量に上限がなくなった分、自分次第でゼロにもなれるし、無限にも積み上げられる。
この差が激しいということは、ある意味で今のほうが実は厳しい時代だとも言えるんですよね。
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元楽天監督・平石洋介と一緒に「野球を探求」していくコンテンツ「探球論」。毎週の野球分析記事やLIVE配信、対談など「プロの現場レベル」のお話を話していきます。連動企画書籍『人に学び、人に生かす。』は好評発売中。
親は「木の上に立って見る」存在でいる
――お二人とも、中学時代に親から「練習しろ」と言われたことはなかったとか。
平石 ないですね。うちの近くにある長屋の前で素振りをしている自分の姿を、上重が何度も見てると言うんですけど、逆に言えばそれが環境だと思っていて。
あいつが今練習してるだろうなと思ったら、自分もなんかしないと負けてしまうという感覚になる。だから親に言われるまでもなく、むしろ止められることのほうが多くて。「ご飯だよ」「もう家に帰りなさい」って(笑)。
上重 練習しろとは言っていないんですけど……「じゃあやれよ」とは言ってきました(笑)。
平石 講演会でよく話すんですが、「親」という漢字は「木の上に立って見る」と書くんですよね。「言う」という字は入っていない。
グラウンドや試合を見には来るけど、ああやって打てとかこうして投げろとかじゃなくて、そっと見守ってくれる。あの距離感が子どもにとって一番いいんじゃないかなと思っています。
高校野球はデータ重視でいいのか――「打ち方が良くなっても、違うところを振っていたら当たらない」
――――高校野球そのものについても伺いたいのですが、近年の変化をどう見ていますか。
平石 年々、進化している部分と衰退している部分の両方があると思っていて。
たとえばスピードで言えば、かつて松坂大輔と荒垣渚斗の2人が150キロを出して異次元と言われた時代がありましたが、今はそれを超えるピッチャーがたくさんいる。
トレーニング、体の使い方、栄養面も含めて、いろんなことが見直されて進化している部分はたしかにある。
――一方で衰退している部分というのは?
平石 野球そのものをあんまり考えなくなってきているというか。スイングスピードを上げて打球速度が上がればヒットになる確率が高い、というのはそのとおりなんです。
でも、打ち方や体の使い方がいくら良くなったところで、まったく違うところを振っていたら一生当たらないじゃないですか。
自分を高める方向のデータばかりみんな気にしていて、対相手という視点が薄れているような気がして、そこはちょっと僕の中でクエスチョンなんですよね。
データは「次の球を当てに行く」ためではない
――上重さん、データの活用についてはどのようにお考えですか。
上重 誤解してほしくないのは、データというのは「次にスライダーが何割来る」というのを当てに行くためのものじゃないということです。
イニング、アウトカウント、点差、風の状況、バッターへの配球傾向……そういういろんな要素が絡み合ったうえで、心理戦として機能するものだから。
確率の高い球種だけに頼ったら、すべて裏を行かれることもある。
――では技術面で言うと、何が大事だと思いますか。
上重 直球をいかに弾けるか、それを待ちながら変化球にどう反応できるか、ファールで逃げられるか。たとえばスライダーを狙って打てるスイングができるかどうかとか。そういった技術をちゃんと磨きながらデータも活用する、という形が理想なんですよね。
平石 高校野球の難しいところは、プロみたいに対戦の機会がたくさんあるわけじゃないので、データが蓄積しにくい一発勝負の世界なんですよ。
だから技術とデータ、両輪でいかないといけない。ただ実際に今、速い直球に対応できないバッターがすごく増えてきているなと感じていて。
昔は「まっすぐ1本に絞れば、どんなに速くても打てる」という選手が結構いたんですけど、そういった技術は少し落ちてきているような気はします。
勇気を持ってトライすることを忘れてほしくない
――平石さんが現在関わっている選手たちにも、何か感じることはありますか。
平石 野球だけで考えてほしくないとは思っているんですよ。
(私がアドバイザーとして)関わっている大手前高松高校(香川県)は学力もしっかりした学校で、野球で上を目指したいという子もいれば、そうでない子もいる。だからいろんなことに触れてほしいし、野球の技術だけじゃないところも伝えたい。
ただ、最近感じるのは、選手たちがものすごく「小さく」なっているということで。なんとか粘ってバットに当てて転がして、という選手が多い中で、そもそも振る準備に入れていなかったりする。ファールで逃げようにも当たらないっていう状況ですよ。だから先月も「まずちゃんと振ることをやってみたらどうか」という話をしてきたんですよ。
上重 自分の中でいいイメージを持っていて、でも実際の映像を見たら全然違ったとなると、そこから本当に悩み出す選手もいますよね。
平石 そう。気になるところが見えた瞬間に、そこが悪いと認識してしまって、もう見たくなくなってしまうんですよね。
自信を持つのはなかなか難しいことだけど、もう少し勇気を持ってトライしてほしい選手が本当に多いなと感じています。
「控えのキャプテン」と呼ばれていた自分の高校時代がそうだったので、だからこそ余計にそう思うのかもしれないですけど……。
フルバージョン【平石洋介の提言】PL学園同級生・上重聡の言葉「いまの時代のほうが厳しい」/何も知らない子に「自主性」と言っても…/データ重視の高校野球に異議あり」
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1980年4月23日生まれ。大分県出身。野球指導者・解説者。高校時代を名門PL学園で過ごし、3年時には主将として甲子園に出場。松坂大輔擁する横浜高校と延長17回の死闘を演じるなど注目を集める。卒業後、同志社大学、トヨタ自動車を経て、2004年ドラフト7位で楽天に入団。11年限りで現役を引退したあとは、球団初の生え抜きコーチとして後進の指導にあたる。16年からは二軍監督、18年シーズン途中に一軍監督代行となり19年に監督に就任。クライマックスシリーズ進出を果たすも退任。20年から2年間はソフトバンクのコーチ、22年は西武の打撃コーチとなり、23年に西武のヘッドコーチに就任24年限りで退団した。