「また些細なことで言い合ってしまった」夫婦のすれ違いは、ある日突然ではなく、小さな我慢の積み重ねから大きくなっていくもの。

では、その我慢はなぜ起きるのか。そしてどうすれば、ほどくことができるのか。

長年にわたり夫婦カウンセリングに携わり、「夫婦リカバリー相談室」で様々な夫婦のお悩みに答える夫婦カウンセラーの安東秀海氏に夫婦関係を取り戻すためのヒントを伺った。

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夫婦間のわだかまりの根っこには、相手への愛情がある

――夫婦間のわだかまりというのは、どこから生まれてくるのでしょうか。

安東秀海(以下、安東) 傷ついたり嫌なことがあったとき、その悲しみや怒りを飲み込むことで生まれると思います。十分に表現されなかった感情が堆積したもの、それがわだかまりです。

わだかまりが生まれる背景には、必ず「夫婦関係を守りたい」という気持ちがあります。言ってしまうと雰囲気が悪くなる、指摘すると怒られる、そういう理由で我慢するわけですが、それは夫婦の関係、そして子どもを含めた安心な環境を壊したくないからです。

守りたいものがなければ、そもそも我慢する必要がない。つまり、一見ネガティブに映るわだかまりの背景には、愛情があるんです。

そしてこのわだかまりが生まれる背景を考えると、必ずそこに夫婦関係を守りたいという覚悟があることが分かります。

なぜ我慢するのかといえば、それを言ってしまうと雰囲気が悪くなるから、指摘すると怒られるから、というような理由があるはずです。

では、怒りによって壊れてほしくないものは何か。それは夫婦の関係であり、お子さんがいれば、子どもを含めた安心な環境だと思うんです。

守りたいものがなければ、そもそも我慢する必要がないんですよ。わだかまりも生まれ得ないと思っています。我慢をせざるを得ないのは、そこに守りたいものがあるから。一見ネガティブに映るわだかまりも、その背景には愛情があるわけです。

――では、積み重なったわだかまりはどう向き合えばいいのでしょう。

安東 一時的につらいことや悲しいことがあったときに、感情を飲み込んだり横に置くことは必要な場合もあります。それによって守れるものもありますから。ただ、それを長年持ち越してしまうと、大きなわだかまりに育ってしまいます。

だから一旦ふたをしたならば、時々そのふたを開けて、そこにある感情を感じてみることが大事です。あのときは我慢したよね、めっちゃ嫌だったよね、という励ましの声を自分自身にかけてあげることが、まず第一歩だと思います。

記事「感情のわだかまりは、夫婦関係を守りたいという気持ちの裏返し?」

 

――わだかまりを相手と共有することはどれほど重要なのでしょうか。

安東 とても重要です。カウンセリングではほぼそのプロセスを踏みます。

感情は「感じると燃えていく」とよく話すのですが、燃やすにはまず、わだかまりの中にどんな感情があるかを見つけ、それを感じ、できれば表現することが大切です。

それが夫婦間でできれば、すれ違っていた過去があっても、「あのときどんな思いがあったか」「なぜ飲み込んできたか」を共有することで理解が深まります。理解が深まれば関係が育まれ、絆が生まれやすくなる。

ただ、順序があります。相手に分かってもらうことでほどこうとするのではなく、まず自分で自分のわだかまりを理解し、いたわってあげることが先です。そうすれば、パートナーに雑に扱われても傷つきにくくなります。「受け止め方はあなたの選択」と線引きできるようになるからです。

 

 

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夫婦関係に関する様々なお悩みを夫婦カウンセラー・安東秀海先生がお答えする連載。
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夫婦であっても『個』を尊重する

――境界線(バウンダリー)という概念は夫婦関係でどのように機能するのでしょうか。

安東 夫婦はワンチームとも言われますが、そのチームを支えているのはそれぞれの個人です。だからこそ境界線を引くことは、個を尊重するうえでとても大切です。

特に意識すべきは、価値観感情の2つです。

価値観の違い自体は問題ではありません。それぞれ別の個人なのだから、違って当然です。感情については少し複雑で、悲しんでいるパートナーを見て自分も悲しくなる、これが共感です。近しい関係だからこそ、相手の感情をまるで自分のものように感じてしまうことがある。

それ自体は温かいことでもありますが、影響を受けすぎて自分まで乱されてしまうこともあるので、「相手の感情」と「自分の感情」を分けて見ることが大切です。

――相手が自分に共感してくれない時、どう考えればいいのでしょう。

安東 共感するかしないかは、相手の問題です。できない人もいるし、その出来事には共感しにくいのかもしれない。

一方で、共感されないことを残念に感じているのは自分自身です。だから「私は共感されないことが残念だ」と自覚することが、まず境界線になります。そのうえで、「この人は共感が苦手なのか、それともこの件に限ってなのか」と客観的に見ていく。

相手のスタイルを尊重しつつ、自分のスタイルも尊重してもらう、それが境界線です

根本にあるのは、シンプルな「大切にしたい」という気持ち

――夫婦関係が良い状態を保つために、根本的に大切なことは何でしょうか。

安東 意外とシンプルかもしれません。「相手のことを大切だと思う気持ち」だと思います。カウンセリングをしていると、本当にここに行き着くことが多いんです。

どんなに険悪な雰囲気でも、丁寧にほぐしていくと、「実はものすごく大事に思っていた」という気持ちが出てくることがある。

付き合い始めや新婚時代に良い時間をたくさん過ごして、「この人を大切にしたい」と感じた記憶は、関係の貯金になります。貯金が多いほど、目減りしても戻しやすい。

コミュニケーションの方法は人それぞれでいい。言葉が苦手なら、記念日に花を贈る、誕生日にプレゼントをするといった形でもいい。ただ、「自分はスキンシップが必要だ」という人は、やはり言葉で伝えないと伝わりません。だから最終的には、言葉で伝えることの大切さに戻ってくるのかもしれません。

 
安東秀海
心理カウンセラー

夫婦カウンセラー。妻とともに夫婦専門のカウンセリングオフィス「LifeDesignLabo」を主宰。東京渋谷のカウンセリングルームには不倫やセックスレス等様々な問題を抱える夫婦が日々訪れ、2023年7月現在サポートしてきた夫婦は2000組に上る。機能不全に陥った夫婦の関係性を読み解き、健全なパートナーシップ構築へと導くことを得意とする。心理カウンセラーとして10年以上臨床に携わってきた実績から多彩なアプローチ手法を持ち、心理療法(セラピー)や心理ワークにも精通する。1973年生まれ。2023年7月21日に『夫は、夫婦は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』(SYNCHRONOUS BOOKS)を上梓。