2015年にデビューし、数々の作品を手がけてきた小説家の額賀澪氏。

現在はシンクロナスで小説の書き方講座「拝啓、小説を書いてみませんか」を主宰し、大学でも創作授業を担当している。

そんな額賀氏が力説するのは、「小説は他人に読ませるもの」という、シンプルながら多くの書き手が見落としがちな根本原則だ。

書きたいものは頭にあるのに、なぜ文章にすると伝わらないのか。具体的なテクニックを豊富な実例を交えながら語ってもらった。

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書きたいものは渦巻いているのに、出力ができない

 

――講座を主宰するなかで、受講生の方々がどんなところでつまずいているか感じることはありますか?

額賀澪(以下、額賀) 自分の中に書きたいものは渦巻いているのに、上手く出力できないっていう人がすごく多いです。

こういう物語を書きたい、こういう主人公を書きたい、自分のこういう体験を小説にできないかってイメージはできるのに、出力の仕方のところで悩む人が多い印象です。

そもそも小説という物語をどう考えたらいいか分からないっていうのもあれば、最初の1行目に何を書けばいいか分からなくて止まってしまうっていうことが、やっぱり多いですね。

――小説は才能やセンスが必要なイメージがありますが、そのあたりはどう考えていますか?

額賀 意外と小説って、センスと才能だけで、特に考えもせずに素晴らしい文章が書けているように思われがちなんですけど、実はかなりの割合がテクニック論なんですよね。

受験勉強で言うところの「基礎からしっかり勉強して、使えるようになったら点数が伸びた」みたいな話に結構近いです。

だからこそ、学びを実践すればちゃんと身につけられるものなので、できるだけ具体的に分かりやすく解説できるように意識しています。

「独りよがりな文章」はなぜ生まれるのか

――小説を書くうえで、まず認識すべき大前提は何でしょうか?

額賀 小説の書き方うんぬんの手前の話として、文章を創作する人間としてまず認識してほしいのが、「他人が読むものだ」ということです。

漫画や映像と違って、小説は何が行われているかが視覚的に分かるということがない。作者の頭の中に物語があって、それが文章に一旦出力されて、読者がそれを読んで、読者の頭の中で情景が浮かんでくる、というプロセスで伝わっていくわけです。

赤の他人が読んで初めて物語が成立するのが小説の大きな特徴です。なので作者は 、「小説は他人に読ませるもの」という意識が重要です。

「1冊目に読みたい小説の書き方の教科書」p34より


――それが受け止められないと、どうなってしまうのでしょう?

額賀 どうしても独りよがりな文章になってしまいます。私も10年作家をやっていて、いろんな出版社の編集者と仕事をしてきましたが、皆さん口を揃えて言うのが「他人に読ませるものだという意識がない原稿はだめ」ということなんです。

赤の他人が読んで面白いと思えるものを書かなきゃいけないのに、それ以前に何も伝わらないじゃないかっていう文章が来てしまうと、真っ先にだめだなってなる。

なので他人にどう読まれるかを意識して書くこと、読み返すにしてもその意識で読み返すこと、これが一番大事だと思っています。

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PUSH CONTENTS

小説を書きたい。そう思いながらも、どこから始めればいいのかわからない。書き進めても途中で止まり、未完の原稿だけが増えていく――。そんな悩みを抱える方が最初に読む一冊が「1冊目に読みたい小説の書き方の教科書」です。本書は、小説を書くために必要なライティングのテクニックから、ストーリーを考えるためのプロットの作り方、人称と視点を意識して、読者にどう物語を実感させていくかについて、わかりやすく解説します。

 

 

「見えるもの以外」を書くことで文章は生きてくる

――情景描写について教えてください。見えるものを書くだけでは足りないということでしょうか?

額賀 その場に何があるかを書かないと読者に空間が伝わらないので、まず見えるもの、情景を文章で描いていくのが基本です。でもそれだけをひたすら書いていくと、読んでいる人に“情報”しか伝わらなくなってしまうんですよね。

例えば『昼休みの教室で生徒たちがお弁当を広げておしゃべりをしています。主人公は自分の席で本を読んでいます』というのは視覚情報だけの話で、それだとどうしても説明的になってしまいます。

「見えるもの以外」を書く情景描写の仕方

 
――具体的に何を加えればいいのでしょう?

額賀 “見えるもの以外を加える”ことで初めて文章で創作する醍醐味が出てくると思っています。

例えば『ちょっとだけ開けられた窓から春の暖かな風が吹き込んできています』と書くとします。暖かな風って見えるものじゃなくて、主人公が感じている温度感じゃないですか。これは五感に当たる部分です。

さらにそこで『窓から吹き込んでくる風は暖かかったけれど、僕がいる空間だけはひんやりしている』と主人公に言わせると、温度感の話でありながら、にぎやかな教室の中でその子は孤独なんだなっていうことが同時に伝わります。こういう登場人物の心情も伝えられるのが、情景描写の意味だと思うんですよね。

解像度の「足し算と引き算」が読みやすさを決める

――講義では、「解像度」という言葉もよく使われるそうですね。

額賀 そうですね。読者の頭の中に絵を浮かばせるためには、作者の絵の解像度も大事です。例えば朝のホームルーム前の教室を解像度高く描くには、その空間でどういうことが起きるかを考えるんですよ。

『朝練終わりの野球部が続々とやってきた』とか、『前の席の女の子が昨日見た動画の話で盛り上がっている』とか、『宿題を忘れた子が机にかじりついている』とか。そういう細かな描写をすることで、「あ、今こういう教室に主人公はいるんだな」というのがどんどん読者に見えてきます。
 
――ただ何でも書けばいいわけでもない、ということでしょうか。

額賀 そうなんです。何から何まで書いていくと、だんだんとくどくなっていきます。あまり重要じゃない描写がくどいって、読んでいる側にはすごくストレスなんですよね。

だから足し算と引き算が大事で、どこの描写に足し算して解像度を高くするか、あえて引き算してさらっと読ませるか、この判断を作者がしなきゃいけない。

そして判断のしどころは、やっぱり読み手がどう読んでいるかなんです。常に自分の頭じゃなくて、読者の頭に浮かんでいる絵の解像度が今どうなっているかを考えることが大事だと思っています。

――結局はすべて「他人が読むものだ」という意識に帰ってくるわけですね。

額賀 そこに尽きると思います。私はこの仕事が好きなので、デビュー前は書くのが楽しかったし、今は作家という仕事が面白いのでやれているんですけど、10年この仕事を続けてきて感じるのは、小説って読者に頼った形で物語を描いていかなきゃいけないメディアだということ。

だから書き手は常に、赤の他人の頭の中に何が見えているかを意識し続けることが一番大切なんだと思っています。

フルバージョン【小説が書きたい人必見】人気作家・額賀澪が教える「伝わる文章」の作り方。読者の頭に“映像”を浮かばせる描写の極意とは?」

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額賀澪
小説家

1990年、茨城県生まれ。2015年『屋上のウインドノーツ』(「ウインドノーツ」より改題)で第22回松本清張賞、同年『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞。著書に、『タスキメシ』『さよならクリームソーダ』『拝啓、本が売れません』『風に恋う』『競歩王』『沖晴くんの涙を殺して』『世界の美しさを思い知れ』『弊社は買収されました!』『青春をクビになって』など。日本文藝家協会 会員。大正大学表現学部表現文化学科 客員准教授、日本大学芸術学部文芸学科 非常勤講師。シンクロナスでは受講生の作品を実際に講評「拝啓、小説を書いてみませんか」を大好評連載中。