街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

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鈴木ジェロニモの「耳の音」#48「明日を生きる言葉」

 

 2月発売の「&Premium」という雑誌に出ている。正確には『&Premium MOOK「&Words/明日を生きる言葉。」』。歌人の穂村弘さんと伊藤紺さんと私で「短歌をベターライフの道標に。」という企画に参加している。お悩み系のお題7つに対しそれに応えるような短歌をそれぞれが7首ずつ選んでいる。この企画は&Premium2024年9月号に載ったものの再掲版である。

 今号を手に取るとまず、大きい、と思う。藤本タツキさんの漫画『ルックバック』のイラストが表紙に大きく描かれていて眩しい。大きい絵。大きい字。これは漫画単行本や通常の週刊誌では感じ得ない気持ちだろう。

 言ってしまえば情報を得るだけだったらインターネットで事足りるかもしれないものを、わざわざ特集誌を手に取るというのは、この物理的存在が欲しいからに違いない。この重量とこの手触りを感じながら読むことにはもはやスポーツ的よろこびがある。言わせてもらう。雑誌はスポーツだ。

 私たちの特集を開くとそこでもイラストが目に入る。穂村弘さん伊藤紺さん私のそれぞれの宣材写真をもとに、イラストレーターのnaohigaさんが似顔絵を描いてくださっている。すごく良い。こうありたいという表情をしている。2026年2月の私は心からそう思うが、2024年9月の私は違っていた。

 当時の私は何というか、おおーこう見えるってことかあ、とその良さを解釈しきれずにいた。良いことは間違いないはずなのに、自分の中にそれを測る目盛りが設定されていない感じ。かっこよさの基準が狭く絞られていて、そのスコープが揺さぶられることに逐一びっくりしていたのかもしれない。

 同じ絵を、1年半後に良いと思う。それは私の中で、雑誌的な良さに近い。速さではなく長さで届ける。ふと自分を省みる。私は私を長く届けられているだろうか。今の私の行動を1年半後に良いと思えるかどうか。まあどうせ良いと思うんだろうけど、と私歴31年の私が早口で割り込む。迷ったとき、未来の私から見張られていることを思い出したい。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

いい表紙。事務所の会議室に赤い壁があってそこで書影を撮るのが好きで度々利用させてもらっている。今回もそれ目的で事務所に行ったらマネージャーさんが「お、赤?」と言いながら私が頷くよりも早く会議室の電気をつけてくださった。はい、ありがとうございます、と言って写真を撮った。
2024年9月の私は麺を持ち上げて笑っていた。

【次回更新は2026年3月14日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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芸人・鈴木ジェロニモが、“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせるエッセイ連載。(毎週土曜 昼12時更新)

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