街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。(連載の詳細はこちら)

ホームランを打ちたかった。服の話だ。この服はホームランかどうかを試着のときに注意深く見て、ホームランじゃなければ返却する。ホームランというのは、モノクロで、はいかっこよすぎ、と一目惚れした上でそれを試着して、ほらやっぱりかっこよすぎ、と二目惚れすることである。
そもそもお金に余裕がある訳ではないから購入できる服は限られる。けれどそれでも良いと思った服なら買ってもいいはずで、しかしそういう可能性に対してもこれはホームランじゃない、と殊更シリアスになって、そういう自分を正直ちょっとかっこいいとも思って、買わないことが多かった。野球の例えで申し訳ないが、ホームランに至らないヒットやツーベースの服については買うという判断をしてこなかった。
去年『鈴木ジェロニモの感情』というPodcast番組の公開収録で文芸評論家の三宅香帆さんと対談した。私の未来について一緒に考えていただく流れになり「かわいいを目指してみては」と議論が展開した。じゃあ実際にかわいい服を買いに行きましょう三宅さん頼みますよ、と勢いに任せて実行。濃いデニムや緑のカーディガンや黄色のニットやスカイブルーのシャツを試着して、まあまあこういう感じっすねー、と三宅さんたちの前に登場。「めっちゃいい!」「かわいいですね!」。ああそうですか、かわいいですか、じゃあ、と照れ隠しで平静を装って、本当は嬉しくて、えいやっと勧められた全部を買った。...
