吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第56回は浜松聖星高等学校(静岡県)#5
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
創部初の全日本吹奏楽コンクール金賞に輝いた浜松聖星高校吹奏楽部。その次期部長候補・田内仁菜(たないにな)(2年)は、入部以来、周囲のトランペット奏者との実力差に苦しんでいた。今年の春、彼女は14年間続けた楽器を置き、ホルンへの転向という賭けに出る。未経験の楽器への挑戦、寝落ちするほどの猛練習を経て、少女はついに奏者としての新たな「光」を見出した。
見つけた私だけの強み
自ら志願してトランペットからホルンにコンバートした仁菜は、ホルンという「新たな希望」を手に、もう一度力強く走り出した。
転向したばかりで厳しいかと思っていたが、今年の吹奏楽コンクールに向けたオーディションで55人のメンバーに選ばれることができた。4月下旬にトランペットに別れを告げたときには想像もできなかった展開だ。
実は、仁菜の両親は学生時代からいままで楽器を続けているのだが、ふたりともトランペット奏者。仁菜が4月まで使っていた楽器も父から借りているものだった。それなのに、自分はトランペットで行き詰まってしまった。申し訳ないという気持ちも湧いてきたが、思い切ってホルンを手にしたことで視界が開けた。
ついに全国大会常連の強豪・浜松聖星のメンバーとしてコンクールに挑めるのだ。
音楽監督の土屋史人先生が発表した自由曲は《交響詩「ローマの祭り」より》。仁菜は自宅に帰ってから音源を聴いてみた。
「なにこれ! ホルンがめちゃくちゃ目立つ曲だ……」
愕然とした。
「まだ初心者の私がこんな曲を吹けるようになるのかな……」
不安だったが、やるしかない。
仁菜に与えられたパートは、なんとホルンのファーストだった。初めて《ローマの祭り》を通して演奏したときは汗だくになり、最後まで吹ききるのがきつかった。
しかし、仁菜は《ローマの祭り》を通じて新たな発見をした。
「私、もしかしたら高音が得意かもしれない!」
曲の練習をしていく中で、高音が気持ちよく出せるポイントが見つかり、ホルンを吹く楽しさが感じられるようになってきたのだ。これまでトランペットで高音を吹き慣れていたからこそ、ホルンでもコツがつかめたのだろう。
「トランペットをずっと続けてきた私の強みが見つかった!」
手にした金色のホルンが輝いて見えた。仁菜はその新しい相棒をギュッと抱きしめた。
悔し涙の向こうに
自由曲の練習は順調で、仁菜はホルンにさらなる手応えを感じた。
だが、問題は課題曲《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》のほうだった。トリオ(行進曲の中間部)で3人のホルン奏者が吹く部分があった。当初、仁菜がファースト、同期がセカンド、後輩がサード。仁菜が主旋律を吹いていたのだが、コーチの指示でサードの後輩と交代させられてしまった。
仁菜はそれが悔しくて、自宅に帰ってからひとりで泣いた。
だが、トランペットを降りたときと同じように、常にバンド全体を見る視点をとることができるのが仁菜の美点でもあった。...
