街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

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 ハモネプに出た。全国ハモネプ大リーグ2025。どるふぃんず。去年の生放送回に続いて2回目。だから緊張しないかと言ったら全然そんなことはなく。

 ワンツースリーフォー! 松下さんのカウントが聞こえる。演奏開始のカウントは大体ボイパ(アカペラではパーカスと呼ぶことが多い)が担当する。このカウント次第で演奏のBPMが決まってしまうから実はうっすらプレッシャー。しかし今回。ORANGE RANGE「イケナイ太陽」を歌うにあたって、曲の明るさを表現するにはカウントは私でない方がいいのでは。松下さんが適切では。メンバーの意見がすぐまとまって松下さんが担当に。ありがたい。大学時代のアカペラサークルの先輩でもあり、当時の呼び方で「りょーたろーさん」と呼びたくなる。18歳のときに出会った20歳のりょーたろーさん。13年前の風を感じながら、6人全員、わっ、と歌い始める。

 そこからあまり覚えていない。あれ言われたな、これを意識したな、とそういえば程度に練習が思い出されるが、曲はどんどん進む進む。気がつくと歌い終わっていた。あれ。終わっちゃった。けど、不思議な満足感もある。まあまあまあ。わるくなかったんじゃない。ちらちら見るとメンバーもそういう表情。そうだよね、よかったよね。安堵の波に駆け寄るように、MCの方々がおおおっ、と来る。ネプチューンの泰造さん、ホリケンさん、チョコレートプラネットの松尾さん。歌い終えたことを一緒に祝うように拍手しながら、松尾さんが振ってくださる。「ジェロニモは前回大会の後、悔しい思いがあったんだよね?」。

 松尾さんに、はいそうですね、と思う。思うけれど、収録本番。芸人チーム。せっかくのフリに、はいそうですね、とだけ返していいはずがない。松尾さんはおそらく事前アンケートの内容をもとに話題を振ってくださっている。前回大会の後の悔しい思い。確かにあった。アンケートに書いた気がする。頭の中。アンケート用紙の白さと黒い枠が蘇る。上段中段下段があって、確か下段のところ。前回大会の反響は、みたいな項目。えっと、えっと、あれ。何だっけ。...