街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

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鈴木ジェロニモの「耳の音」#44「本当はオールで語りたい短歌の話」

 

「KINOFES 2026」に出演した。紀伊國屋書店新宿本店でのオールナイトイベント。歌人の上坂あゆ美さんとトークをさせていただく。

 上坂さんと話す、ということ以外は未定でタイトルや内容は私たちから提案してよい、と聞く。はーい、と返事をして満足していると上坂さんが打ち合わせしましょうと時間を設けてくださって、タイトルや内容についてどうしましょうかとGoogle Meet越しに話す。

「フェスということは熱量が伝わった方が良いですよね」「好きな短歌についてなら熱を持って話せそうですね」「話したい短歌をお互い2首ずつくらい持ち寄りましょう」。いやあ、ほんとですよねー、はあい、とぼやぼや言ってる間に上坂さんがそれいいですねという案をどんどん進めてくださる。後はまあ、タイトルですか。オールナイトだから、オール、徹夜、短歌でオール、みたいな。「あ、いいですね! じゃあこういうのはどうでしょう」。

「本当はオールで語りたい短歌の話」。

 はいこれ! と思う。めちゃくちゃ良い。ここで「本当は」や「語りたい」という言葉を持って来れるのが上坂さん。真骨頂を目の当たりにして、いやあ、これですよ、ほんとありがとうございます、とぼやぼや言う。

「残り8分ですね。これ以上紹介するとオーバーしてしまうので、お客様からの質問コーナーにしましょうか」。トークイベント「本当はオールで語りたい短歌の話」の本番でも上坂さんがばっちりタイムキープしてくださる。

「質問や話したいこと、何でもいいですよ」。最初はなかなか手が挙がりづらい。よーしここは一丁、と私が意気込む。みなさんどうですかー。今日誕生日でーす、とかでもいいですよー。ふっ。稲穂を撫でるような笑いが一瞬だけ起こり、まあまあまあ、と仕事をした気になる。

 ん。遠くの立ち見のお客様が遠慮がちに手を動かしたような。あれ、そこの奥の方。「あ、えっと、あと6分で誕生日です」。おおお。会場から自然と拍手が起こる。24時ちょうどまでの私たちのブロックが終演すると同時に誕生日。これはすばらしい。

「無意識の行動に目を向ける、というお話がありましたが、おふたりが無意識にやってしまう行動は何かありますか?」。おー、なるほどなるほど。「えー、なんでしょうね」。いやでも上坂さん、今日もタイムキープやってくださってるのとかって、無意識なんじゃないですか。「あー確かに。ちゃんと成立させなきゃ、とかは考えてしまいますね」。おおー。なんだか楽しくなってくる。でもほらあれですよ、今日楽屋入ったとき、椅子がこうやって並んでて……。

 気持ちよく喋って、よしよしよし、と話をまとめる。完璧だと言わんばかりにお客様に問いかける。はい、という訳で、そうだ、誕生日の方、どうですか。「あ、2分過ぎました」。えっ。

 おいー、という嘆息の混じった笑いと拍手。おめでとうございます。時間すいません。私の無意識はこんなにちゃんとしてないか、と自分らしさに感動する。

「それでは、今日はありがとうございました。いま話した短歌が載っている歌集、すぐそこの棚に並んでますからぜひお手に取ってくださいね」。おっ、広告ですねえ。「広告じゃないよ、本当に思ったんだよ」。上坂さんが笑いながら言う。私たちは本当のことだけを、本当はオールで語りたい。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

入学式を彷彿とさせる。もっとこうなんかあるじゃん、と撮影者である親を悩ませた記憶が蘇る、とSNSに投稿したら複数の方から賛同を得たのでどうやら普遍的なものらしい。
こういうところにサインを書くとき、一度空中に書いてから実際に書く。空中では書けなかったのに実際に書くと書いたところが本当に書けていてびっくりする。

【次回更新は2026年2月14日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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