街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。(連載の詳細はこちら)

『マガジンハウス博』に行った。「ご都合があえばいかがでしょうか?」。大学時代の後輩からもう何年ぶりだろうかという連絡をもらう。マガハ博。InstagramのストーリーズやXのタイムラインに度々流れてきていて、あれこれ自分以外全員行ってるんじゃね、と気になっていた。久しぶりに話したいし、こういう連絡を大事にしようというフェーズにもあったのでそういう返事をする。
ひとしきり見終わって、近くでいい感じのところ、と食事に行く。土曜日の銀座で5人座れて、となると私は何も思い付かない。「予約もできますし、とりあえずあっちですね」。私以外の4人はきちんと働いていて銀座に詳しく、彼らにのしのし付いていく。
「あ、ここ入れるんじゃないですか」。オープンテラスの、イタリアンっぽいお店。銀座って感じの良い服を着た方々や本場の味を知ってそうな外国の方がカジュアルに楽しんでいらっしゃる。おおー。全然いいし、なんかこう、30歳前後ってこうだよねと輪に入れたようで嬉しい。「お、$%&&*ですね」。たぶん1人が店名を言ったのだけど、うまく聞き取れない。筆記体で書かれた店名を私はまだちゃんと読めておらず、音もそれと同じように、たぶんこれを言ったんだよね、ということだけが分かる。
「こことここは東京出身で、やっぱり帰省っていうものが羨ましいです」。1人は国分寺出身で、もう1人は恵比寿出身。お盆やお正月はおばあちゃんの家に行って、田舎で、平屋で、みたいないわゆる『サマーウォーズ』的風景にどうしても引き寄せられるとふたりは言う。
「いやいや、2人ともシティボーイじゃないですか」「でもね、国分寺と恵比寿では全然違くて」。言わんとしていることは分かる。でもこっち3人は、群馬、宮城、栃木出身で、東京には「来た」という感覚がある。
「高校生のとき東京に遊びに行くことあったんですけど、舐められちゃいけないと思って服とかめっちゃ気にしましたもん」「分かるー」。分かる。これがある。地方出身者は東京で暮らすことついて、上京という力みを発生させている。
身の回りの芸人についても、東京出身かどうかがネタ作りの基本姿勢に影響を与えていると思う。ダウ90000蓮見くんや人力舎の後輩の人間横丁内田紅多は東京出身で、彼らはインプットからアウトプットへの力みがない。私やその他の地方出身者は、必ず力みがある。力みがないように見えてもそれは「力みを見せないようにする」ということへの力みの賜物である場合が多い。
「ジェロニモさん、もしよかったら一緒に写真撮っていただいてもいいですか? 母が毎日J-WAVE聴いていて」。シティボーイの彼が言う。おおもちろん、と写真を撮る。「ジェロちゃんだ!」。送るとすぐお母様から返信が来る。「ちゃん呼びしてすみません」。いえいえむしろありがとう。踊りたいほど嬉しい。しかしそれを隠して言ってしまう。私が栃木県出身だから。
▼以下、写真2枚+キャプション▼
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