街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。(連載の詳細はこちら)

「ちょっと一旦戻ろか」。え。なに。どした、どした。受付の手前の、ゲートの方まで戻ってくる。「あかん、ゾウ乗るのに4000円かかるわ」。
芸人仲間5人と千葉県に旅行に行った。九十九里浜の近く。サウナ付きのコテージに一泊して、翌日。車に乗って千葉県内のどこかに行こう、となっている。車中で話し合う。「マザー牧場」と「市原ぞうの国」が候補に上がる。
「マザー牧場は前に1回行ったことあんねんなー」。1人がマザー牧場派の意見を暗に否定する。「えー、でもバンジージャンプやりたいんすよ」「何でお前のバンジー見るために金払わなあかんねん」「じゃあ、あんたが飛んだらええやん」「俺は飛ばへん」。ひとまずぞうの国に行って、時間があったらマザー牧場にも行こう、とまとまる。
車の窓越しに、ぞうの国の、ぞうの国らしい看板が見えてくる。駐車場を示す矢印に従って車を進める。高速道路の入り口みたいな料金所。駐車場代1000円。運転してくれている1人が一旦代表してお金を払う。ひろいひろい敷地に格子状に引かれた白線。「お、喫煙所」。6人中4人が喫煙者のため喫煙所を見つけるたびにオッと小さく盛り上がる。近いところから順に車が停まっていて、現状確認できる範囲では最も近い位置の、前後左右に車がいないエリアに、駐車。
「たばこー」。降りるや否や喫煙者組は喫煙所に向かう。非喫煙者は私ともう1人。駐車場脇の木陰に入る。「あちいねー」。ねー。隣に自動販売機。何か買おうかな、と近づく。水200円。スポーツドリンク250円。あっ、ここもまた観光地。手が止まる。「あらすー、あらすー」。喫煙者組が戻ってくる。
駐車場の入り口付近の、こっち、と人を招くように舗装された道に向かう。ゲートの奥に、等身大のゾウの置物。鼻を高く振り上げて笑っている、ように見える。おおー。ジャングルがそうであるようにいびつに仕掛けられた石段の広がりを数歩登って、受付。確か入園料は2000円とちょっとって言ってたっけ。財布から千円札と小銭をまさぐる。先頭で向かっていたはずの1人がなぜか苦しそうに振り返る。「ちょっと一旦戻ろか」。
「いやー俺やって入りたかったよ」。号令をかけた1人がゲートに戻りながら言う。「ちゃんと調べてなかったんはごめんやけど、でも4000円やで? 何となく入っちゃって、4000円、って気にしながら過ごすのも違うやん」。私たちは不意の4000円にめっぽう弱い。
車に戻ってしばらく走ると渓谷が目に入る。川いいじゃん。岸に降りて手ごろな平たい石を探す。それを握って水面をなぞるように投げる。ぱん。しゅぱぱぱぱん。「最高やな。だってこれタダやん」。次からは水切りを旅程に含めることが決まった。
▼以下、写真2枚+キャプション▼
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