街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

鈴木ジェロニモの「耳の音」#23「未来をエモがる」

 

 Podcast番組『原宿の今じゃない企画室』に出演させていただいた。指定された場所に行くと本当に会議室で、失礼します、と言って入る。原宿さんとスタッフの方々がいらっしゃる。ホワイトボードと机のうえの感じから、本当に会議をしている途中、と思う。

「ああ!ジェロニモさん!ありがとうございます」。原宿さんがいやあどうもどうもと言った様子で迎えてくださる。原宿さんとは「水道水の味を説明する」の動画きっかけで知り合った。当時のTwitterを中心に様々なメディアで私の動画に言及してくださり、「説明」のライブにも毎回出てくださっている。

「ADの山田です。あの、以前平野紗季子さんの書籍のイベントで……」。あー!ですよねですよね。ADとして入ってくださっていた山田さんは以前、平野紗季子さんのご著書『おいしくってありがとう 味な副音声の本』のレセプション(!)でお会いしていた。

「プロデューサーの小山田です。あの、あれですよね」。あ、ですよね。ラジオ聴きました。「恐縮です、ありがとうございます。そうなんですよ、お兄様と先日お会いして、今日はジェロニモさんとお会いするという」。いやあ、ですよね、親よりも僕ら兄弟に会ってますよ。「いやあそんなそんな。今日はよろしくお願いします」。お願いします。小山田さんは初対面だったが、前回ここに書いた兄が出ていたラジオ(Podcast『奇奇怪怪』のメンバーシップコンテンツ「街頭ラジオ」)の収録に同席されていて、声だけ聞いていた。だから初めてな気がしなかった。

 不思議だ。ほんとうに、不思議だと思う。初めての現場なのに、出演者の方とスタッフの方に会って、懐かしさに近い嬉しさを感じている。ここは地元の小学校から持ち上がりの中学校、ではないはずなのに。

 お笑いをやろう、芸人になろうと思って1人で養成所に入った。そのとき誰も知り合いではなかった。なのにこうやって、敢えて言うなら友達に会ったときのようなわくわくとすやすやを同時に感じられる人たちに囲まれて、ありがたいことに仕事、をやらせていただいている。

 信じられない。いや、信じられなくはあるんだけど、こうなるような気がしていた、とも思う。海外で日本人に会ったらその人をぐっと近く感じるように、芸能界、まあ仮に芸能界とすると、この世界旅行の最中に、体より心の住処が近い人に出会えることが、ときどきある。今この場にいらっしゃる3人が、私にとって、そう。そしてそれは、相手にとってもそうなのだと、願望に似た気持ちで思う。だから私が今日ここに来るまでの間も3人で番組を作り、会議をし、力を合わせて仕事をしていた。

 友達と一緒に仕事ができたらなんてすばらしいんだろう、と思う。でもそれは過去の友達だけに限らない。これから友達になる、もっと言えばもうなっていてまだ出会っていないだけの、未来の友達も、だ。

「未来をエモがる、確定的な未来について話すことが 『今じゃない企画』になるんじゃないかと」。番組を聞き返すと原宿さんではなく私が「今じゃない企画とは何か」について喋っている。私は私の声が嬉しい。私の最初の友達だ。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

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