街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

 

 人力舎の先輩、あそび宮間さんとkanekoayanoのライブに行った。ライブの前の時間でお茶をしようと会場近くの喫茶店を探し歩く。宮間さんは喫煙されるので、喫煙ルームが備え付けられた喫茶店だと都合が良い。「あそこ吸えそうやな」。チェーンの、確かに喫煙ルームありのイメージがある喫茶店。入って店員さんに聞いてみると、申し訳ありませんが全席禁煙で喫煙ルームはありません、とのこと。なるほど分かりました。一旦出る。

 Googleマップで「喫煙」と検索すると、道を挟んで目の前にある喫茶店が喫煙可という情報が見つかる。おっ、と思って道を渡る。「全席愛煙」。手書きのボードに書いてある。いいじゃないですか。私はたばこを吸わないがルームシェアをしている同居人が吸っていたり芸人仲間に喫煙者が多かったりするので自分が煙の中にいることはあまり気にならない。2人で入店する。

 おー。きれいだし、何より涼しい。「奥の2人掛けの席へどうぞ」。予想より全然広い店内を奥に進んで、宮間さんはレモンスカッシュ、私は水出しアイスコーヒーフロートを注文する。席は6〜7割埋まっているかなという印象で、隣は大学生だろうか、男性の2人組。半袖の白Tシャツに黒っぽいデニムというシンプルな服装ではあるが、サイジングやアクセサリーがそれぞれ似合っていて、おしゃれな若者、といった感じ。だからぱっと見は、もしかしたら、いかつい。「途中までいい感じだったんだけど、緊張しちゃって……」「いや、いいじゃんいいじゃん。お前がんばったよ」。おお。印象とは裏腹におそらく恋愛相談と励ましの会話をずっとしていて、その真っ直ぐさに勝手に隣で、ゆけ、と思う。

 トイレに行く。店内の四隅のひとつが向こう側にへこんでいて、ここかな、と思って近づくと奥の扉に「TOILET」と書いてあり、安心して入る。広い。清潔。快適。おー、わー。と思いながら用を足してきれいに磨かれた鏡の前で手を洗う。洗いながら、いやあ、なんだか、そうじゃん、と思う。

 さっきの禁煙の喫茶店はかなり混雑していた。その店のは確かめてはいないけれど経験上、混んでいる喫茶店はトイレも狭く清掃もあまり追いついていない。一方この喫煙可の喫茶店はほどよく空いていて綺麗でトイレも快適。じゃあ、と。

 私はたばこは吸わないけれど、禁煙店で狭い思いをするくらいならこういう喫煙店に来てしまった方が遥かに気持ちがいい。たばこ吸わないから禁煙店、たばこ吸うから喫煙店、ではなく、もっと大切な判断基準があったはずなのに、そこを社会に任せてしまっていた。今までの自分が急にばかばかしくなって、ほんとおもしれーよ、と思う。席に戻って宮間さんにそのことを早口に捲し立てる。宮間さんは笑ってくださる。時間になって店を出て、kanekoayanoを観る。そんなこと全部がどうでもよくなるくらいうるさくてかっこよくて、まるで自分が叫んだみたいに涼しい星の気持ちになった。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

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