街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

 

 J-WAVEの番組『GURU GURU!』で「鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌」というコーナーを担当させていただいている。その『GURU GURU!』のラジオイベントがLINE CUBE SHIBUYAで開催され、私も出演させていただいた。かが屋加賀さん、ダウ90000、福留光帆さん、エバースさん。同じです、みたいな顔して立っていられる訳がないだろうとびびる自分と本当にありがとうの自分がいて、後者に任せることにした。迷い込んだ雀のように一日を勝手に楽しんだ。

『町田王決定戦』があった。エバース町田さんに何らかのアクションを仕掛け、町田さんがどんな反応をするかをエバース佐々木さんと挑戦者(『GURU GURU!』のリスナー)が予想して対決する、というもの。スペシャルサポーターとしてイベントに出演していたIS:SUEさんも参加し、「IS:SUEに『バーン!』と撃ち抜かれたらどうする?」というお題が出題された。

「シンキングタイム、スタート!」。MCの加賀さんが号令をかける。舞台中央のテーブルで佐々木さんとリスナーの方が考えながら手元のフリップに書き込んでいく。町田さんは舞台下手側でヘッドホンと目隠しを装着して待機している。シンキングタイム。まさにその通りで、今回はクイズの形式を取っているが実際大喜利の要素もあり、大喜利ライブでも最初の回答が出るまではシンキングタイム、の空気が流れる。今も、そう。「IS:SUEのみなさんはどうですか、どんなポーズで撃ち抜こうかなとか、イメージしてますか?」。加賀さんが発話する。そうですよね、今、繋いでいる。舞台上の全員がその意識を共有する。私は舞台上手側でダウ90000と福留さんとごわっと並んでいて、この繋ぐという意識にどう関わろうかな、と一瞬考える。

「ちょっと焦らしてから、町田さんをバーンと撃ち抜きます!」。IS:SUEのNANOさんが溌溂と答える。おお!と舞台も会場もあたたかく盛り上がる。あっ。ここ。どうしてかそう思うと同時に私の頭と体が喋り始める。あっ、あのー、すいません。言いながら、ずいっと前に出る。ヘッドセットタイプのピンマイクが私の声をはっきり拾う。「お、どうしたジェロニモ?」。加賀さんが気づいてくださる。船の頭のとんがりのように舞台の真ん中に出た私の体が言う。

 あのー、IS:SUEさんいきなりやるの大変だと思うので、僕で焦らす練習しますか?

「はっ?」「えっ?」「いやいやいや」。舞台上の全員が一斉にわっっと来てくださる。福留さんが私のシャツの後ろを掴んでずずずずっと列に戻してくださる。お客様も私を異常だと認めて戸惑うように笑ってくださる。「園田お前がこういうとき行くんだよ!」。ダウ90000の蓮見くんがすかさず言う。舞台上手の端にいた園田くんが悔しそうにする。「そこ照明も当たってないよ!?」。確かに園田くんのいる位置は端っこすぎて舞台袖のように暗い。わあああっと会場に笑いがひろがる。

 終演後、お疲れ様でした、と短めの懇親会のようなものが大楽屋で開催される。舞台袖から見ていたという番組の作家さんと話す。「ジェロニモさんあのとき前に出たじゃないですか」。ああ、はいそうですね。「僕ずっとジェロニモさんを短歌とか説明とかの、文化的な人、みたいに思ってて」。なるほど、はい。「でもそうじゃん、めっちゃ芸人じゃん、って感動したんですよ」。えええ。私が私らしくしただけでこんなに思ってもらえるのか。いやしかしまあ確かに大切で、むずかしいことなのかもしれない。とっくに空になっていた紙コップを今飲み干したみたいに飲んだ。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

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